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「僕の改革 世界の改革」 第28夜(第4幕 23 ~ 25)

ー23ー

名前屋は、続けた。
「名前は、名前屋から買わねばならん」
「ハイ」と、僕。
「誰かが勝手に名前をつけたり、作ったりしてはいかん。もしも、そんなコトをした場合には、料金が発生する」
「料金?」
「そうじゃ。お客さん…あんた、前に勝手に名前をつけてもろうておるな」
「え…ええ…」
「それに、勝手に作ったコトもある」
「そ…そんなコトまで、わかるんですか?」
「そりゃあ、名前屋だからなぁ。名前のコトなら、なんでも知っておる」
「恐れ入りました!」
「それで、その名前は無断で作って無断でつけた名前だ。割増料金をもらうコトになる」
「は…はあ」
「まあ、ええ。そのコトは、またあとで話そう。心配せんでもええ。単純な名前だ。そんなに高くはない」
「そ…そうですか」
「それから、名前は売るコトもできる。必要のなくなった名前は、ワシのような名前屋に売るといい」
「ハイ」
「その代わり、1度売った名前は、まず2度とは帰っては来ん。あとで、どんなに後悔しようともな。そう考えてもらった方がいい」
「わかりました」
「ここまで理解したかな?では、どんな名前がええかのう」
「え~っと…革命家らしいのがいいんですけど」
僕は、リンとの約束を覚えていた。この世界を改革する『革命家』になるのだという約束を。
だから、名前もそれなりのモノが必要だと思ったのだ。
「では、この中から、選びなさい」
そう言って、名前屋はいくつかの札を見せてくれた。


ー24ー

札には、それぞれ1つずつ名前が書いてあった。
「さあ、好きなのを選ぶがええ」
名前屋にそう言われて、僕は迷った。散々迷った末に1つの札を選んだ。
そこには、こう書かれていた。

革命家『ポルトーテス』

「これ…これがいいです!これをください!」
「フム…『ポルトーテス』か。革命家の名じゃのう。ただし、それは革命に失敗した者の名じゃ。それでも、ええかい?」
「ええ、構いません」
「わかった。では、この名前を売ろう」
「ええ~っと。いくらくらいお支払いすればいいんですか?」
「名前は金では買えん」
「では、何で支払えばいいんですか?」
「フ~ム、そうじゃなあ…お前さん、何を持っておる?」
「何って、別に…」
「人に自慢でいるようなものを、何か1つくらい持っていやせんのか」
「いえ…これと言って」
「そうか。では、まずその名前をもらおう」
「ナンバー24をですか?」
「そうだ。新しい名前が手に入れば、どうせ要らんもんだろう」
「ええ、まあ…」
「だが、それだけでは足りん。全然足りん」
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
「そうだな。では、こうしよう」
「どうするんですか?」
「出世払いじゃよ」
「しゅっせばらい?」
「そうだ。お前さんが成功して、大物になったあかつきに、その一部を代金としてもらう。それで、どうだ?」
「え、ええ…構いませんけど」
「よし、これで決まりだな!」
「でも、大物になるなんて、いつのコトになるかわかりませんよ」
「構わんよ」
「もしかしたら、一生ならないかも知れないし…そんなコト」
「その時は、その時だ」
「そうですか…では」
そう言って、僕は古い名前『ナンバー24』を名前屋のおじさんに渡し、代わりに新しい名前をもらった。


ー25ー

『ポルトーテス』
世界を変えるものとして、それは相応しい名前のような気がした。
そして、その名を手にした途端、物事が動き始めた。
まるで、これまで霧の中でさまよっていたのに、突然その霧が晴れてしまったようだった。

シノザキ博士の家もすぐに見つかった。
博士は、無気力生物の街の片隅でひっそりと暮していて、僕が訪れると喜んで迎えてくれた。
「ご無沙汰しています」
「おお、おお、よく来たのう」
「実は、今回ここを訪れたのは『リン』に会うためなんです」
「わかっておる。いずれは、やって来ると思うておった」
「その為に、やる気じいさん…つまり、あなたのお兄さんに無理を言って、ここを教えてもらいました」
「そうか、そうか」
「無理を言って悪いとは思っています。でも、僕にはやはりリンが必要なんです!お願いです!リンを返してください」
「フム…返すも返さんもない。元々あの娘は誰の物でもない。無論、お前さんの物でもな」
「でも…」
「まあよい。とりあえず、こちらへ来なさい」
そう言って、博士は僕を別の部屋へと連れていった。

部屋には大きなベッドが1つあって、そこにリンは眠っていた。
その姿は、童話に出てくる『眠れる森のお姫様』のようでもあり、まるで死んでしまっているようでもあった。
「単刀直入にお聞きします。リンが意識を取り戻すコトは可能なのでしょうか?」
「まず…無理じゃろうな」
「僕はそのために来たんです。リンが戻ってくるならば、なんだってします。どんな犠牲だって払います!」
「そう言うじゃろうな」
「では、方法は?」
「ある。あるにはある。じゃが…」
「じゃが、なんですか?」
「人の運命は変わらんよ。この娘は、お前さんの元を離れていった。それが運命じゃからじゃ」
「それで?」
「それを曲げるコトは誰にもできんというコトじゃよ」
「そんなコトはありません!運命なんてものは、自分の力で切り開いていくものでしょ!」
「どうじゃろうな…」
「それに、さっき方法はあるっておっしゃったじゃないですか!」
「方法はある。じゃが、変わらん。そういうコトじゃ」

このままシノザキ博士と話し続けても、押し問答が続くだけに思えた。

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