「僕の改革 世界の改革」 第20夜(第3幕 6 ~ 10)

ー6ー

気がつくと時は流れ、僕らの組織もそこそこ大きくなり、活動は順調に進んでいた。
僕は、完全にこの仕事にハマッていた。没頭していた。

そんな、ある日。ひさしぶりにリンと話をした。
「そういえば、昔、みんなで行った『無気力生物の街』のコト、覚えてる?」と、リンが話しかけてくる。
「もちろん覚えてるさ」
「あそこ…完全に閉鎖されるそうよ」
「閉鎖?」
「そうよ。さすがに政府も諦めたのね。ムダなコトに使う予算はないって、公共の交通機関も全てストップするそうよ」
「だって、まだ人が残ってるんだろう?」
「そうみたいね」
「どうする気なんだ?」
「さあ…そういえば、並木少尉、まだあそこに残ってるのかしらね」
「え!?」
「心配なら、会いに行ってみれば?」
「でも、こんな忙しい時期に…」
「何言ってるのよ。仕事の方なら私たちにまかせておきなさいって」
「でも…」
「でも、じゃないでしょ。ずっと待っていた人なんだから」
「だけど…」
「もう…こんな時に何言ってるのよ!もしかしたら、2度と会えないかも知れないのよ!」
「2度と…」
「そうよ。わかったら、さっさと行ってらっしゃい!」

ほんとは会いたかったさ。会いたいに決まってる。でも、彼女は認めてくれるだろうか?
いや、きっと認めてくれるさ。
僕は、以前の僕ではないのだから。責任ある立場にも立った。何人もの部下たちもいる。僕は成長した。変わった。
きっと彼女だって、再び僕の元に戻ってきてくれるだろう。

そう考えて、僕は再び『彼女』と会うコトになった。


ー7ー

『彼女』は、まだ『無気力生物たちの街』にいた。思っていたよりも健康そうな姿をしていた。
でも、とても冷静で、落ち着いている感じがした。静かで…今にも消えてしまいそうな儚さがあった。

僕は勇気を出して言った。
「ずっと待っていたんだよ。一緒に行こう」
彼女の答えは、こうだった。
「いいえ…私は行けないわ」
「なぜ?こんなにも変わったのに」
「私はあなたが思っているような人ではないのよ」
「そんなコトない!」
「そんなコトあるわ…」
「だったら、それでもいい。君が僕の思っているような人でないなら、ほんとうの君を知る。そして、それに慣れるさ。新しい君に合わせて変わってみせる」
「だったら、何?」
「えっ?」
「あなたが愛した『私』って何?」
「そ、それは…」
「あなたは、私のコトをよく知りもしないで好きでいたの?それが、ほんとうの愛だと言えるの?」
僕は言葉に困った。
なんと答えていいか、わからなかった。
そして、彼女は言った。
「もう終わりにしましょう。この中途半端な関係を。私があなたの元に戻ることはもうないわ…」
僕はその瞬間、全てを失った…


ー8ー

なぜだ!?僕ではダメなのか?
こんなにも成長したというのに!それとも…
それとも、成長したからか?変わってしまったからか?
だとしたら、あまりにも勝手すぎる。
あの頃の僕がイヤだから、彼女は去ってしまったのではないのか?なのに、今度は変わってしまったからイヤだと?
それとも、変わり方が間違っていたのか?
では、一体、どんな風に変われば彼女は満足してくれたというのだ!


ー9ー

人は、何のために生きているのだろう?
きっと、それは人それぞれであると思う。
ただ、共通して言えることは、人は誰しも心の底に『最後の希望』のようなものを持っていて、意識しているいないにかかわらず、常にその希望を糧に生きながらえているのだ。
言い換えれば、それは、その人の心を動かし続ける『マスターキー』のようなもので…人はそのマスターキーを失った時、感情を失うのだ。

その後の人生は人それぞれだ。
感情を失いながらも生き続けられる人間もいるだろう。
ある意味で、それは『大人になる』ということなのだ。
でも、もし、そのショックに耐えられなかったとしたら?そうしたら、人はどうなってしまうのだろうか?
それが『無気力生物』になってしまう原因なのかも知れないな、と僕は思った。

そして、僕の場合、マスターキーは『彼女』であり、彼女を失った瞬間、僕の人生は終わりを告げたのだ。


ー10ー

僕は、僕らの街の『僕らの基地』へと帰ってきていた。
どうやって帰ってきたか覚えてはいない。気がついたら、僕はここにいて、自分の部屋で揺りイスに座って、音楽を聞いていた。
もう何も考える気力はなかった。考えたくもなかった。
考える必要も…生きていく必要すらないような気がした。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。