「マンガの学校にもう1度だけ体験入学」「海村さんのムチャクチャな性格」

今回は海村さんメインのお話なのですが…

その前に、ちょこっとだけ時を戻しましょう。時をさかのぼること数ヶ月前。20歳の2月の出来事です。


マンガの学校に通っていた青年は、海村さんの強引な誘いに乗って「体験入学」を受けることになりました。それも同じ学校の!

同じ学校ではあるのですが、別のクラス。「ライトノベル科」の体験入学です。正直、青年はこの学校はこりごりでしたし、もう1度50万円支払う気もなかったので、完全につき合いで参加しただけです。

ところが、ここで思わぬおもしろい体験をするコトができました。体験入学の時の先生は現役の小説家だったのですが、パッと見ちょっと怖い感じで、なんだか見た目はヤクザみたいな人でした。

この先生、この時点ではたいした著作もなかったのですが、後にそこそこの有名人になります。それも、どちらかと言えば作品の内容ではなく、スキャンダル的な意味で。

ただし、言っときますけど、書いている小説の内容も素晴らしいモノがあります!作風的に「賛否両論を巻き起こすタイプ」なのであまり一般受けしていないだけで、作品のレベルは非常に高いのです。


青年はこの時の体験入学で、このヤクザ先生に作品を読んでもらいました。「自分の実生活を小説風に書いてみるコト」というのが、その時に与えられたテーマだったので、得意の想像力を使って青年は「自分をホームレスだ!」と偽る文章を書きました。

偽るとは言っても本気です。心の底からホームレスになりきり、「段ボールハウスで目が覚めるところから始めて、仲間のホームレスと物々交換をする」というストーリーを仕立て上げました。テレホンカードがお金の代わりです。

当時は、まだテレホンカード(テレカ)という道具が出回っており、上野の駅前辺りで「無限に使用できる改造テレカ」が違法に販売されていたりしました。

ところが、青年の渾身の一作はヤクザ先生の心にヒットしません。「ウ~ン…凡庸な内容だね。普通の日常生活を書いただけだ」と一蹴され、ABCの3段階でBランクとされてしまいました。

「アレ~?おっかしいな~?」と思った青年は、しつこく食い下がり、「もう1度読み直してください」とお願いしました。

すると、ヤクザ先生の表情が一変します。

「アッ!そういうコトか!」と声を上げ、さっきまでBランクだった評価はAランクに格上げされました。それも先生お墨付きの段違いのAランクです。

そう!青年の書いた小説は、あまりにもリアリティがあり過ぎて、実話だと思われていたのです!しかも、その時の格好はお世辞にも清潔感があるとは言い難く、髪の毛もボサボサで「ほんとに段ボールハウスからやってきたホームレスだ」と勘違いされていたのでした。

青年としては「まさか、そんな風に自分の書いた小説を解釈する人がいる」とは思ってもみませんでしたので、これは意外な感想でした。てっきり「誰が読んだって、ホームレスなわけがない。一読しただけで冗談だとわかってもらえる」と思い込んでいたのです。

でも、まあ、それだけレベルの高い文章を書いたとも言えますけどね。


そんなコトもあって、海村さんからは尊敬のまなざしで眺められました。

「おめえ、実はすげえ奴だったんだな!」とお褒めの言葉もいただき、鼻高々です。

でも、それだけでした。結局、海村さんはアニメーター科からライトノベル科に編入し、青年は当初の予定通り体験入学に顔を出しただけで、2度とその学校に通うことはありませんでした。


ところが…

この後、思わぬ事態に発展することになります。

なんと!海村さんが、小説家としてデビューしてしまったのです!しかも、金髪でチャラい格好をしている見た目からは想像できない「少女向けのライトノベル」の賞で!

実際に海村さんの書いた小説を読ませてもらいましたが、確かにいい作品でした。吸血鬼の画家が太陽を描くために朝日を拝み、太陽の光の中に消えていくといった内容です。人の心を打つ実にいい作品です。

ただし、その背景にあった事情を考えると、いろいろと複雑な心境になってしまいます。

実際に海村さんが書いた文章はもっとムチャクチャであり、日本語として通用しない部分だらけで、お世辞にも文章力があるとは言えませんでした。

ところが、それを当時の海村さんの彼女が何時間もかけて一生懸命に人が読める文章に書き直してくれたのです。いわば、文章の校正というかリライトのような作業をしてもらっていたわけです。ある意味、「共著」に近かったかも?

しかも、その彼女というのも、海村さんが無理やりキスをして、なんだかんだ長い話し合いがあった末につき合うようになった…という経緯があります。1歩間違えば、犯罪ざたになっていてもおかしくありませんでした。

海村さんというのは、そんな風にムチャクチャな人でした。ムチャクチャだからこそ、周囲の人たちを巻き込んでトラブルを起こす。けど、トラブルを起こす分、成功者になる確率も高まる。そういうタイプの人間なのです。


結果的に、海村さんは某有名作家の作風をメチャクチャにこけおろし、出版社を出入り禁止になってしまいました。なので、小説家として活躍したのはデビュー作の1作だけです。

ちなみに、海村さんの師匠であるヤクザ先生も、つい最近ツイッター上で出版社とバトルして大炎上していました(ただし、この件に関しては出版社の方が悪いとも言えます)

さらに、普段から政治的発言が過ぎる人で、ひたすらに某政党の悪口を書きまくっています。それも散々人を傷つけるような文章なのです。そういうコトもあって、ヤクザ先生の作品はイマイチ大ヒットとまでいかないのかもしれません。ほんと、いい作品を書く人なんですけどね~

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。