見出し画像

「僕の改革 世界の改革」 第40夜(第6幕 21 ~ 25)

ー21ー

翌日、僕はシノザキ博士に別れを告げに行った。
「そうか、行くか」
「はい。これからどうすればいいかは、まだわかりません。でも、なんとなく答えが見えかけたような気がするんです」
「なるほど。では、1度、ワシの兄に会いに行くがいい」
「ああ!化石掘りの『やるきじいさん』ですね。でも、なぜ?」
「とりあえず会ってみるがいい。会えばわかる。今のお前さんなら、何かしら得るモノもあるじゃろう」
「あの、最後に…」
「ン?」
「最後に1つ、きいてもいいですか?」
「なんじゃ?」
「ここの街の人たちは、彼らを…賢明に生きている人たちのコトを『人形』だと言いました。でも、何もしないこの街の人々も人形のように思えます。どちらが本当なのでしょうか?」
「動かぬも人形。操られるも人形。どちらも変わらぬ人形の生き方じゃよ」
「僕は?僕はどうですか?」
「お前さんは…人形ではないな。じゃが、それが幸せとは限らん」
「どうして?」
「その生き方は辛かろう。自らで選び、自らで考える人生。その生き方は…」
「そうでもないですよ。辛くもあるけど、同時に楽しくもある」
「そうか…」
「博士は?シノザキ博士はどうなんですか?」
「ワシか?ワシはそうじゃのう…やはり人形かも知れん。運命という名の糸に操られた人形じゃな」


ー22ー

『無気力生物たちの街』を旅立って、僕はシノザキ博士に言われた通り、ひさしぶりに『やる気じいさん』の住んでいる場所へと向かった。

やる気じいさん、元気だろうか?まだ、あそこに住んでいるのだろうか?そもそも、生きているのだろうか?

あの2人が兄弟だって言ってたけど、そういえばどことなく似ている所がある。離れ離れに暮らしているけど、昔は仲が良かったのだろうか?


ー23ー

ひさしぶりに夢を見た。
『彼女』の夢だ。

どこかの街のどこかの道。道は十字路になっている。十字路の角で、彼女は待っている。
僕が追いかけると、彼女は十字路の陰に隠れてしまう。

彼女がいた地点までやってきて、十字路の陰をのぞくと、そこにはまた十字路が。彼女はその十字路の角で待っている。
僕が追いかけると、彼女はまた十字路の陰に逃げ込む。

僕が追いかけるたびに、彼女は十字路の影に隠れ。僕はそれをまた追いかける。でも、彼女をつかまえるコトはできない。

こうして、延々と鬼ごっこは続く。
そんな夢だ。


ー24ー

僕はやる気じいさんの家を目指して旅を続けた。途中、『革命都市ガダメポートレス』の側も通った。
僕がいなくても、街も国もフツーに機能しているようだった。名目上、僕はこの国の国王になっているはずだったが…その国王がいなくても、国は動き続ける。なんだかおかしな話だ。

いずれにしろ、僕はどうにかやる気じいさんの住んでいる場所へとたどり着くことができた。やる気じいさんは昔と変わらずそこに住んでおり、相変わらず化石を掘って暮らしていた。

僕が訪ねていくと、じいさんは昔と変わらず静かにコーヒーを入れてくれた。それは、昔と変わらぬ懐かしい味だった。

お互いに何口かずつコーヒーをすすると、じいさんが口を開いた。
「革命家ポルトーテス…」
「ハイ」
「その名をお前さんが継ぐとはな…」
「え?」
「それは、ワシの名じゃよ。かつてのな」
「では…」
「ワシら兄弟は、かつて世界を変えようと奔走した。そして、敗れた。そういう者じゃ」
僕は、ちょっと考えてからこう言った。
「今は、あなたの気持ちがよくわかるような気がします。どうして、こんな所で化石なんて掘っているのか」
「ワシは革命に失敗した者じゃよ。お前さんとは違う」
「革命なんて疲れるだけ。虚しいだけ。そうでしょう?」
「ワシが革命に成功しておったら、こんな風な人生は歩んでおらんかったかも知れんぞ」
「どうでしょうか?」
「僕は世界の革命に成功したのかも知れない。でも、結局、僕自身は何も変わらなかった。何も見出せはしなかった。今の僕は化石を掘り続けているあなたとなんら変わりはしません」
「フム。なるほど。では、お前さんにコレをやろう」
そう言って、やる気じいさんは何かを渡してくれた。
それは1本の鍵だった。透き通るように真っ白な鍵。
「化石を掘っておったら、それが出てきた。コレで扉を開くがいい」
「扉?どこの?」
「さて?どこの扉じゃろうの?」
「自分で探せ…というコトですか?」
「ま、そういうコトかのう」
「わかりました」
そう言いつつも、僕にはすでに答えはわかっていた。


ー25ー

白。真っ白。真っ白といえばアレしかない。
『白き夢」に違いない!
僕はその確信もと、旅を続けた。長い長い旅だった。

その道中で、いろいろと世界革命軍の噂も聞いた。
絶賛する者もいれば、批難する人たちもいた。

無気力生物たちの噂も、白き夢に関する噂も聞いた。
無気力生物たちは、相変わらずそのほとんどが何もせずに生き続けていたが、中には新しい活動を起こし始めている者たちも存在するようだった。
白き夢は、自らの思想に従って静かに、だが確実に大勢の人間たちをこの世界から消しつつあるようだった。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。