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「僕の改革 世界の改革」 第15夜(第2幕 25 ~ 28)

ー25ー

それからは、何もかもが順調に進んで行った。
学生服君も人が変わったように働き者になり、大いに力となってくれていた。

ある日、大木さんが言った。
「やる気の原因になっている人たちを探す作業もだいぶ軌道に乗ってきたようですし、その仕事は他の人たちに任せて…今度は、逆に無気力の原因になっている人たちを探ってみてはどうでしょう?それも、かなり大きな無気力の原因を」
「そうだね。それも、いいかも知れないね」と、僕は答える。
「でも、かなり危険な作業になるわよ、きっと」
そうリンが言ってきた。
「どうして?」と僕。
「だって、とても無気力な人たちなんでしょう?ヘタをすれば、その無気力な人たちの影響を受けて、私たちまで無気力化してしまう危険性もあるわ」
「それは、そうかも知れませんね」
大木さんも、その意見にうなずく。
「でも、誰かがやらなきゃいけないんだろう?その仕事」
「それはね。確かに、そうでしょうけれど…」と、リン。
「だったら、僕らでやってしまえばいいじゃないか。どうせ誰かがやらなきゃいけない仕事なのならば」
そうして、僕らは大きな無気力の発生場所に向かっていくコトにした。


ー26ー

最初に出会った大きな無気力な人は、僕が知っている人だった。
それは、かつて一緒に働いていた、太っちょの『ホー』だった。
「おおい、ホー!ホーじゃないか!」
「ああ、ナンバー24か…」
ホーが気の抜けた声で答える。
そういえば、僕も昔はそんな名前だったな。長いコトその名前で呼ばれていなかったので、すっかり忘れていた。
「今まで、一体、何やってたのよ!」
「ああ、リン…ひさしぶり…」
「ひさしぶりじゃないわよ!突然いなくなって。一体、どうしたって言うのよ」
「別に…ただ、ここでこうして景色を眺めているだけさ…」
ホーの返事は相変わらず気が抜けた炭酸飲料のようだ。
「あの~、この人は一体?」
そう学生服君がきいてくる。
「ああ、かつて僕らの仲間だったヤツさ。同じ基地で一緒に働いていたんだ」
「それにしちゃあ、エラくシンミリした人だな」と、学生服君。
「昔はね、こんなじゃなかったの。もう1人の相棒と一緒に、とても元気な人だったのよ」
「ほんとうに、どうしたんだい?ホー」と、僕は心配して尋ねる。
「オレたちにとって『隊長』は希望だったんだ。憧れだったんだ。それが、突然消えてしまった。何も言わずにある日突然パッとな…それが理由さ」
「そんな…」
「さ…わかったら、1人にさせてくれないか。オレは、ここでボーッとしているのが好きなんだ」
僕らは、それ以上何も言わなかった。言えなかった。


ー27ー

それから何人かの無気力生物になりかけている人たちに出会った。その内の1人は、かつて共に戦ったチビのマンガンだった。

マンガンは言う。
「ある日突然、隊長は消えた。その上、ホーも消えちまった。オレはそれ以上何をすればよかった?何もだよ。何もできやしなかったさ。終わったんだよ。オレの人生は…あとは、もう何もありはしない。ただ、淡々とした日々が続くまでさ」
それでも、僕は説得する。
「だったら、もう1度戻って来ればいいじゃないか。戻ってきて、あの頃のように充実した時間を過ごせば…」
その言葉をさえぎるようにマンガンが答える。
「オレは、もうあそこへは戻らないぜ。もう同じ思いは、たくさんだからな」
僕はホーの時と同じように何も言えなくなった…


ー28ー

僕らは、シノザキ博士の部屋に集まっていた(シノザキ博士は、特別に自分だけの研究室を与えられているのだ)
僕の他にリンと学生服君、そして大木さんも来ていた。
「とりあえず、茶でも飲め」
「博士!そんな悠長なコトを言っている時じゃありませんよ!」と、リンは声を荒げる。
「まあ、そう言うな。こういう場合は慌てず騒がず一服するに限る。事務の者に言って『うま~い、ほうじ茶』を取り寄せさせた。これでも飲んで落ち着きなさい」
「シノザキ博士、どうにかなりませんか?無気力生物になりかけている者の中に、昔の仲間がいるんです」と、僕は声のトーンを落ち着けて尋ねた。
「結論から言うとじゃな…」
「結論から言うと?」
「無気力化した者は、より大きな気力を持った者と触れる事で、その気力を取り戻す事が多いようじゃ」
「より大きな気力?」
「そうじゃ。それも、確実な方法ではないがな」
「そんな…」
「そこにおる大木君がやる気を取り戻したのも、それが原因じゃったのじゃろう」
大木さんが答える。
「ハイ。私は、それまである電気会社で研究員をやっておりました。世間では一流と呼ばれる部類の会社です。しかし、ほんとうのやりがいは感じてないなかったんですね、その頃の私は。それが、ここにいる隊長さんに出会って、やる気レーザーを見せてもらって、なんだかやる気が出てきたんです。『生きる希望』のようなものが」
「フム…そのやる気レーザーじゃが。その当時は人工的に作り出したエネルギーを人に与え、気力を出させようと考えられていたのじゃな。ところが、それでは効果がなくなってきた。あるいは効果が極めて薄くなってきたわけじゃ。おそらく無気力生物の原因となるものにも抗体ができたわけじゃな。いわば『進化』しておるんじゃよ、彼らも」
「進化?病気がですか?」
「『病気』といってよいかどうかはわからん。事実、ウイルスのようなものは発見されておらん」
「そういえば、オレがまたマジメに働くようになったのも、あの『やる気じいさん』に会ってからだものな…」
学生服君が、そう言う。
「そうねえ。あの人のやる気は、すごかったものね」と、リン。
「じゃあ、より大きなやる気を持った人を探し出して連れていけば、ホーやマンガンも、昔のようにやる気を取り戻してくれるってコトですね」と、僕。
「まあ、そういうコトじゃな」と、シノザキ博士も答える。
「じゃあ、さっそく探しにいきましょう。より大きなやる気を持った人物を!」と、僕は提案した。

その瞬間…
「その前に、あなたには行ってもらわなければならない場所があるわ」
突然、別の声がそう言った。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。