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「僕の改革 世界の改革」 第3夜(第1幕 7 ~ 10)

ー7ー

そして、僕らは街へと出かけた。
出かけたというよりも、僕にとっては「戻った」という表現の方が的確だったが…

リンは僕を誘って「生パスタレストラン」に入る。それから、お気に入りだというカルボラーナとペペロンチーノを1皿ずつ頼み、2人で分け合って食べる。
それが終わると、今度は街中のお店を見ながらウインドウショッピング。
さらにオシャレなオープンカフェに…

何だ?これは?
偵察っていうか、ただのデートじゃないか?
リンも隊長も、一体、何を考えているんだ!?

すると、リンがまたもや『何もかも見透かしてます!』って感じで話しかけてきた。
「これじゃあ、偵察ではなくて、ただのデートじゃないか…って顔ね♪」
「だって、そうだろう」
「フフフ…あなたにも、そう見える?」
「見えるさ」
「じゃあ、成功ね」
「???」
「だって、考えてもみなさいよ。敵を偵察に来ているのに『いかにも私は、偵察に来ています』って顔をしていたとしたら、どう?」
「あっ…」
「そうでしょう。それが、この任務の基本」

ここで、僕の心に1つの素朴な疑問が浮かんでくる。その疑問を素直にリンにぶつけてみることにした。
「あの…」
「なに?」
「もしも、敵に正体がばれてしまったら、僕らはどうなるの?」
「そりゃ、殺されるんじゃない?よくて、彼らと同じように無気力生物に改造されるとか」
「でも、無気力な人たちなんでしょ、その人たち。そんなコトするかな?」
「…」
一瞬の沈黙の後、リンが言った。
「そういえば…そうよね」
「ねっ?」
「そう、よね…」
「無気力なんだよね」
「無気力なのよね」
「じゃあ、いいんじゃないの。放っておけば」
「そうねぇ…放っておきましょうか」
こんな風にして、僕らは最初の任務を終えて基地へと帰った。


ー8ー

「バカヤロ~!!」
基地に帰ると、隊長の怒鳴り声が飛んだ。
「お前らは、一体、何のために街まで偵察に行ってきたんだ!!」
「……」
「リン、お前もお前だ!何のために新人のナンバー24にお前をつけたと思っているんだ!」
「はい…」と、しょんぼりしてリンが答える。ちょっとかわいいなと思ってしまった。

隊長は構わず続ける。
「思ったよりも、ずっと無気力生物の進行が進んでいるのかも知れないな。あるいは、ウワサの新兵器『無気力バリア』が完成しているのかも知れない。ホー、ちょっと調べてみてくれないか」
「ラジャー!」
「マンガン、君は広範囲に無気力レーダーで探知してみてくれ」
「アイアイサー!」
「とりあえず、リン。おまえは別室で話がある。一緒に来い!ナンバー24、お前はここで待機だ」
そう言って、隊長はリンと共に部屋を出ていく。

ああ…隊長は『やる気人間』だな。
それに比べて、僕はダメだ。やる気のカケラもない。
これは、本格的に無気力生物に近づいてきているのかも知れない。

「お前、そりゃ酷過ぎだろ」
ホーが仕事をしながら、そう言い捨てる。
「あんな簡単な任務もこなせないようじゃ隊員失格だな」
マンガンもそんな風に言う。
「でも、オメエ。アレだよ…クビになったりはしねえから安心しな」
「うちの部隊は人手不足で有名だからな」
「きっと、隊長が厳し過ぎるんだろうな」
「だから、みんなすぐにヨソへ移っちまう」
「そういうわけで、やめさせられたりはしないぜ」
「自分から、やめたりしない限りはな」
ホーとマンガンが、絶妙なコンビネーションの漫才師みたいに、ポンポンと語り上げる。
「これから僕はどうすればいいのかな?」
そう尋ねてみる。
「そりゃあ、オメエ。アレさ」
「隊長のお達し待ちさ」
「ここでは隊長の権限は絶対なのさ」


ー9ー

隊長から次の指令が出た。
リンと僕とが基地に呼ばれる。
「今度『やる気照射装置』の小型化に成功した」
「小型化?」と、僕は尋ねる。
「そうだ。これが、今回、新しく開発された『やる気レーザー』だ。これは、これまで大型の機体でしか製造できなかった、やる気照射装置を新技術の採用により、小型の銃タイプへ開発し直したものだ」
そういって、隊長は僕らに銃を手渡す。
「ホントだ。でも、これでほんとうに無気力な人たちにやる気を与えられるのかな?」
「威力は若干劣るが…無気力生物たちに至近距離で直接気力を送り込めるという点では、その欠点を補って有り余るものがある」
「ふ~ん」
「今回、君たちには、このやる気レーザーの実戦テストを行なってきてもらいたい」
「テストって?」と、再び僕は尋ねる。
「街に繰り出し、定められた標的に向かい、やる気レーザーを照射するのだ」
「照射?」
「そう、照射だ。至近距離での戦闘になるので、かなりの危険性を伴う任務になると思われる。くれぐれも、身の安全を第一に考えて、行動するように!」
『はい』
僕とリンは2人同時に答える。
そうして、僕らは再び街へと出かけた。


ー10ー

「でもさ…どうやって、無気力な人とそうでない人を見分けるの?」
そう、僕は尋ねる。
「そのために、これがあるの」
そう言って、彼女は持っていたカバンから何かを取り出す。
「携帯用無気力レーダーよ。10メートル以内に無気力生物が近づいたら反応するようにできているの」
「鳴らないね」
「近くに無気力生物がいないってコトでしょ」
「壊れてるんじゃない?」
「まさか」
「てっきり僕がその無気力生物かと思ってたけど…反応しないな。そうじゃないのかな?」
「あたりまえでしょ!もしも、あなたが無気力生物だとしたら、隊長があなたを連れてきたりはしないもの!」
「そうかな…」
「そうよ。それに私、感じるもの。こんな機械なくたってわかる。あなた、ほんとはものすごいエネルギーを秘めている。心の底にね」
「心の底に?」
「そう。そのコトは、きっと、いつか…あなた自身にもわかる日が来るわ」
「フ~ン…そうかな」
僕には、わからなかった。『ものすごいエネルギー』ってなんだろう?
どちらかと言えば、僕は無気力生物に近いような気がする。というよりも、圧倒的にそちら側に近いだろう。

「ねえ…この世界に伝わる伝説を知ってる?」
そう言って、リンが話題を変える。
「伝説?」
「そう。世界を変えることのできる力を持つ者…伝説の『改革者』」
「カイカク?」
「そう、改革よ。私にはわかる。あなたは今はそんなだけど、いつか変われる日がやってくる。この世界に伝わる『改革』を起こす者になるでしょう。それは、ただ単に世界の改革という意味だけではなくて…あなた自身の改革でもあるのよ」
「僕自身の…改革?」
「そう。あなたは今のあなたを脱ぎ捨てて、別のあなたになる日が来るでしょう。そうしたら、私たちなんて…もう手の届かない所に行ってしまうかも…」
「わからないな。それが、何を意味しているのかさえわからない。少なくとも、今の僕にはね。でも、それってとても寂しいコトのような気がする。だって、どんどん僕の周りから人が離れて行くってことでしょ?」
「そうじゃない。そうじゃないわ。むしろ、人々はあなたの周りに集まって来ることになるでしょう。今までなんかとは比較にならないほど、多くの人々が」
「でも、心は離れて行く」
「かも、知れないけど…じゃあ、それを、こう考えることはできないかしら?今のあなたには、人としての魅力がある。失礼な言い方をすれば『何もできないからこそ、人は寄ってくる』ということ。でも、もし、今後あなたが成長していったとしたら…その時は、別の魅力が生まれる。『何もかもができる人としての魅力』が。どう?そいう考え方?」
「なるかな、そんな人に…」
「なるわよ!必ず」
「どうして?」
「だって、私、そう感じるもの!そう思うもの!そう信じてるもの!」
そんなムチャクチャな…と、僕は思ったけれど、そのコトは口には出さなかった。
代わりに、こう言った。
「わかったよ。君がそう言うなら、きっとそうなんだろ」
「でもね。あなたがどんな風に成長しても、決して私を見放したりしないで欲しいの…」
「そんなコトしないよ」
「ほんとに?約束ね!」
「ああ、約束だ!どんなコトになろうとも、決して君を見放したり裏切ったりはしない!」
よくはわからなかったけれど、その気持ちは本物だった。
どんなコトになろうとも、僕はこの子を…リンを裏切ったりはしない!絶対に!絶対に!

その時、ふと気がついた。
なぜ、僕が『彼女』のコトを忘れかけてしまっているのかに。
僕の中で、彼女はもう過去の人になろうとしているのだ。だから、彼女の情報は必要なくなりかけている。心の中のシステムがそれを自然と感知し、不必要な情報を消去しようとしているのだと…

心の底で何かが変わり始めていくのを感じた。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。