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「僕の改革 世界の改革」 最終夜(第7幕 28 ~ エピローグ)

~28~

その瞬間、舞台の照明が消えるがごとくパッと世界は暗闇に包まれた。

しばらくの間、闇と静寂が辺りを包み込む。

突然、ポッとロウソクの灯がともった。目の前には、漆黒の衣装を身にまとった1人の男が立っていた。

「さて、これにて全てのプログラムは終了というわけだ」と、男は言った。
「プログラム?」と、僕。
「革命ごっこは楽しかったか?」と、男は問い返してくる。
「ごっこ…って。じゃあ、今まで経験してきたコトは全部…」
「遊びみたいなモノさ。あるいは、ゲーム?本物の戦いに比べれば、この世界でお前が経験してきたコトなど、トレーニングのようなモノだよ」
「トレーニングって…」
「とはいえ、それなりに役には立ってくれたようだがね。どうやら本来の目的は果たせたようだ」

何がなんだかわからないまま、僕は男に尋ねる。
「あんた、一体、何者なんだ?」
フ~ッと一息ため息をついて、男は答える。
「数ある世界を渡り歩き、無数の名を持つ者。それぞれの世界で、いくつもの呼び名を持っている。が、こちらの世界では『世界を滅ぼす力を持つ者』『魔界の王』そして『伝説の悪魔』などと呼ばれている」
「伝説の…悪魔?」
「そうだ」
「その伝説の悪魔が、僕に一体なんの用があるっていうんだ?」
「覚えていないか?いや、それも当然か。その記憶は与えていないからな」
「記憶?与える?」
「『彼女』が言ってただろう。オレはお前だよ。お前がオレだとも言える」
「意味がわからない…」
「わからないのも当然。これから説明してやろう」


~29~

漆黒の衣装に身をまとった伝説の悪魔がサッと手を振りかざすと、周囲の景色が一変した。
暗闇にロウソク1本だった世界は、いきなり日の光にさらされる。
僕は、まぶしさから目を細めた。

周囲の明るさに目が慣れてくると、僕は周りを確認する。
どこかの建物の中…だろうか?ただし、床は透明な素材でできており、地下が…というよりも地上が透けて見える。

眼下には巨大な山脈が広がっている。どうやら、とんでもなく高い建物らしい。一体、地上何千メートルあるのだろうか?

「空中要塞だよ。宙に浮かんでいるんだ」と、悪魔は言った。
「空中要塞!?」と、驚く僕。
「そう。このくらいのコトはできるようになったんだ。特に戦闘においては、ほぼ無敵。だが、無敵の力を持つ伝説の悪魔であろうとも、心は傷つくということだ。信じていた者に裏切られた時にはな…」
「どういうコト?」
「世界中の何もかもが信じられなくなり、この世界そのものをも滅ぼそうと考えたコトもあった。でも、そんな時、1人の女性に出会った。お前も会っただろう?」
「それが『彼女』?」
「そうだ。最初は信じてくれたよ。心の底からね。だから、オレも『この人のためにならば、この命だって捧げられる』そう思ったものさ」
「でも、裏切られた?」
僕にも段々わかってきた。その記憶はないけれど、その時の感情だけはハッキリと覚えている。忘れようがない。心の底に深々と刻み込まれているのだから。
「正直、傷ついたよ。どうでもいい人間に裏切られるならば、問題はない。だが、心の底から信じた者に裏切られると、どうしようもないくらい大きなダメージを受ける。『こんなコトなら、最初から誰も信じなければよかった』そう後悔した」と、悪魔は続ける。
「わかる気がする…」と、僕は同意する。
「長い年月を治癒に費やしたが、ついに心の傷は癒えることはなかった。そこで考えたのだ。『全く異質の方法が必要だ』と」
「その方法って?」
「それが、お前だよ。自らの心の弱さを追い出し、旅をさせたのだ」
「ああ~!!」と、僕は声を上げる。
「その旅の舞台として丸々1つ世界を必要としたのだ。心の傷はそれほど大きく深かったというわけだ」
「わかってきた…」と、僕。
「だから、このオレは空想と現実の狭間に新しい世界を創り出し、お前を送り込んだ。必要最低限の記憶だけ与えてな」
「それがスタート地点。『彼女』が家を飛び出し、僕はそれを追いかけた時」
「その通り。つまり、この物語の第1幕のプロローグの時点というわけだ」

しばらく考えてから、僕は言葉を発する。
「わかってきた。わかってきたぞ。あんたと僕が同一人物だという意味が…」
「そう。双子座のカストルとポルックスのごとく、オレとお前は2人で1つの存在。オレは絶対の能力を持ち合わせているが、不死身ではない。お前には大した能力はないが、ある意味で不死身。空想と現実の狭間の世界をさまよっている限り、死ぬことはない」
「なるほど。そう考えると、いろいろとつじつまが合う」
「だろ?お前は、オレの深層心理の具現化した姿」
「深層心理…」
「心の底にできた大きな傷。弱み。弱点」
「弱点…」と、僕は復唱する。
「弱点ではあるが、それゆえに成長の可能性を秘めている。正直、オレ1人では成長に限界を感じていたところだ。絶対無敵の能力は手に入れた。特に戦闘では誰にも負けはしない。では、どうする?そこまでの力を手に入れたところで、ここから先どうやってさらなる成長を遂げる?そう悩んでいたのだ」
「でも、僕ならば成長できる?」
「そう。お前は弱き者。それゆえにいくらでも成長できる。無限の可能性を秘めている。元々、心の傷を癒やすために旅出させたが、おかげで思わぬ副産物を得られたというわけだ」

決して僕の記憶が戻ったわけではなかった。いや、記憶など最初から与えられていなかったのだ。戻るわけもない。
だが、伝説の悪魔の言うコトは、いちいち腑に落ちた。


~30~

伝説の悪魔は続ける。
「お前が旅した世界は、お前のために作られた世界。そして、お前自身も作られた存在。それは作られた記憶だ。だが、お前の『彼女』に対する想い…それ自体は本物だ。そこまで作ってしまってはなんの意味もない。全ては、そこから始まっているのだから…」
「では、僕が『彼女』と一緒に暮らしていた記憶も?」
「それは…」と言いづらそうにしてから悪魔は続けた。
「それは事実だ。そんな時もあったのだよ。非常にいびつな関係ではあったがね。世間一般で言うところの『恋人』とは違っていた。それでも、あの時間は真実であったと今でも信じている」

なんだか不思議な感じがした。『世界を滅ぼす力を持つ』という伝説の悪魔。その言葉ひとつひとつはトゲトゲしく、人を刺すような冷たさがあったが、それでもどこか親近感がわく。
おっと…それは当然か。だって、彼は僕自身でもあるのだから。

「一番最初に世界を創造した時、そこに住まう人々は自動で動かそうとした。いわば、プログラムの一種だ。だが、それではうまくいかなかった。そこでどうしたと思う?」と、悪魔は問いかけてくる。
「どうしたの?」と、僕は問い返す。
「別の世界から連れてきたのさ」
「ああ!」と、僕は納得した。思い当たる節が多々ある。あり過ぎる!それで…
「プログラム。人形。AI。そういったものでは、うまくいかなかった。人の言動に自動で反応するだけでは、リアリティに欠けたんだよ。だから、別の世界から人々を連れてきて、住まわせた」
「それが、リンやシノザキ博士、大木さんや学生服君たちだったわけだね?」
「その通り。だが、リンだけは少し事情が違う。当初は、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)として設定しようと思っていた。物語の導入部分の案内役。ナビゲーターとしてね」
「でも、それもうまくいかなかった?」
「その通り。だから、中身を演じてもらったのだ。実在の人物に。具体的には、3人の魔女の内の1人マジョラムに。喜んでやってくれたよ。『なんだか楽しそうな役回りね』って」
「リンが…」
「だが、1つ誤算があった。導入部分のナビゲーターごときに、お前は恋をしてしまった。だから、こちらもイライラした。『何を手間取っている!さっさと先に進め!』とな」
「なるほど。それが、最初の『心の声』つまり、あんただったんだ」
「そう。お前は、オレでもある。だが、その世界でどのような旅をし、どのような結論を出すか…それはオレの力の及ぶところではない。あくまで、お前自身が決めなければならなかったのだ」
「確かに…僕は大きな力に動かされながらも、自分自身で決断し、進んできた。少なくとも、僕はそのつもりだった」

伝説の悪魔は、ウンウンとうなずきながら言った。
「長い長い旅の中で、お前は様々な経験をし、学んだわけだ。もはや、役割は終えた。再び『彼女』と対面し、過去を精算し、心の傷を癒やし、世界に革命をもたらし、お前自身も大きく成長できた。これ以上に何を望む?」

僕は、しばらく考えた。
そして、「どうしよう…」と、つぶやく。

「もう充分だろう?そちらの世界で充分に旅をし、心の弱さは克服できたはず。戻ってくるがいい。こちらの世界へ。そして再び1つとなろう。以前より遥かに能力を増し、より完全な姿として」と、悪魔は誘ってくる。

このまま『こちらの世界』にとどまり続けた方がいいだろうか?
それとも、伝説の悪魔の言う通り、『あちらの世界(元いた世界)』に帰り、本来の役割を果たした方がいいのか?

その場に立ち尽くしたまま、僕はじっと考え、そして結論をくだした。


~エピローグ~

「おとぎ話さ」と、伝説の悪魔は語る。
「え?」と、僕。
「世界は、おとぎ話なんだよ」
「おとぎ…ばなし?」
「そうさ。人が人を思うコトなど、幻想に過ぎない。少なくとも、そう思っていた方が世界は楽でいられる。心の底から信じすぎる必要はない」
「そういうモノかな?」と、僕は問う。
「そういうモノさ。だが、そこにも物語は生まれる。人を信じ過ぎた先にも。お前が旅した世界に物語が生まれたように」

「世界は幻想だ」と語った伝説の悪魔。
人と人とのつながりなんて、しょせんは精神的なものなんだ。信じ過ぎてはいけない。盲目的な信用は、やがて破綻をきたす。いずれ幻滅する時も来る。そんな時、心は大きく傷つく。
でも、その先にも冒険があり、旅があった。心の傷を癒やす旅が。

『彼女』は、この世界を去った。元いた世界へと帰っていったのだ。いつまでも、この世界に留まり続ける理由はない。

「悪くはないかも知れないな…」と、僕は思った。
元いた世界に帰り、伝説の悪魔と融合し、どこかで再び『彼女』と対決する。そんな未来も。
きっと、そこにも新しい物語が広がっているだろうから…

それに、必要とあらば、再びどこか別の世界に旅する時も来るだろう。
伝説の悪魔の心が大きく傷ついたり、成長を必要とした時には…
それを考えると、僕はワクワクした。


  『僕の改革 世界の改革』 ~完~


noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。