見出し画像

全てを物語化する能力、自動発動

父親の葬儀が終わり、東京に帰ってきて、青年は再び以前のように働き始めました。

けれども、もはや以前のようにはやる気が起きません。「あの人」に認められるために始めた仕事でしたが、なんだか目的としていた地点からは遠く離れた場所に来てしまった気がしていました。

「ほんとにこんなコトがやりたかったのだろうか?」と自問自答する日々が続きます。

軌道修正が必要でした。どんな強引な手を使っても、目的地に向けてルートを変更する必要に迫られていたのです。「究極の作家」という目的に。

この瞬間、青年に与えられた第4の能力が無意識下で働きます。「ハンズ・オブ・ミダス」触れるモノ全てを物語化する能力が…


その日、青年は正社員になってから初めてのボーナスをもらいました。会社は旧時代的なやり方で、ボーナスだけは銀行口座への振り込みではなく、封筒に入れて手渡しでした。

「ほんとは、まだ早いのだけど。社員になって半年経過しないとボーナスはあげられない決まりになっているんだ。でも、今回は特別に一部だけ渡しておこう」

そう言って店長から手渡された紙の封筒には、7万円が入っていました。

青年は、お得意様に商品を納品しに行く自動車の中で、赤信号の最中で泊まっている最中に、封筒の中身を確認しました。自動車は青年が運転しており、他には誰も同乗していません。

いろいろなコトが重なってしまったのでしょう。「自分の夢」「人々の願う理想の姿」あるいは「人によってかなえてもらいたい願いが違ったコト」

青年は何もかもを同時にかなえようとし過ぎたのです。目的を絞らなければならなかったのに。どれか1つならば、願いをかなえることもできたでしょう。でも、全員の願いは無理がありました。

結果、何もかもが中途半端になってしまったのです。


青年の乗った自動車は、大通りを確認することなく真っ直ぐに突っ切ろうとしてしまいます。

当然ながら、横から走ってきた別の自動車にぶつかりました。

「接触した」という表現の方が正確でしょうか?

青年の乗るライトバンは、横から走って来た別の車の後部に接触し、その車はビリヤードの球のように弾かれて、車道の側にあった植え込みへと乗り上げ、そのままの勢いでビルに衝突しました。

幸いなコトに青年の方は、ほぼ無傷。ライトバンの左前方がちょこっとへこんだだけ。相手の車には中年の男性と女性が乗っており、外傷はほとんどありませんでした。軽いムチ打ちくらいにはなったでしょうが。

ほんとに「奇跡」としか言いようがありませんでした。青年も相手の車もかなりのスピードを出しており、軽く接触しただけでも、とんでもない勢いでビルに向かって弾かれたのです。その割には、奇跡的にほとんど誰も大きなケガを負うことはありませんでした。

たまたま、植え込みと大きな木の間に挟まれてスピードが緩まり、ビルに衝突した時にショックが軽減されただけ。1歩間違えば、死人が出ていたはず。

もちろん、わざとやったわけじゃありません。ただ単に「運転技術が未熟だった」だけ。大通りの前で一時停車することもなくそのまま直進すれば、そりゃ、事故が起こりますよ。たとえ、この時でなくとも、いずれ必ず。

もっとゆっくり基本から覚えていけば、こんなコトにならずに済んだかもしえないのに…

店長が慌てて運転免許を取得させたことが災いしてしまったのです。

それを物語風に語るならば、「ハンズ・オブ・ミダス」がストーリーをよりおもしろくさせるために無意識で能力が発現したということになるのでしょう。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。