見出し画像

「現実」を取るか?「夢見人」として生きるか?

数々の魔物の卵たちが孵化・成長したことにより、伝説の悪魔の使役する「使い魔」の数は、12体から108体にまで増えていました。

「戦闘能力は皆無ながら特殊な能力を有している小動物」や「必要以上に破壊力を持った巨大な魔獣」まで。その形状も能力も様々。

ただ、魔物を呼び出すには、エネルギーを消費します。能力の強さに応じて消費エネルギーも激しくなるので、おいそれと召喚するわけにはいきません。


一方、現実の青年の方はというと…

派遣から正社員へと格上げしてもらう際に、自動車の運転免許を取るように言われていました。

免許取得のための費用は会社持ちだったので、ある意味「おいしい条件」とも言えたのですが。青年自身はそんなモノに興味はありませんでした。だって、青年が目指していたのは「優秀な労働者」なんかじゃなくて「世界最高の作家」だったからです。

せっかくのお盆休みも、自動車免許取得のために潰れてしまい、まともに休息を取ることさえできませんでした。

これは大きな失敗になります。せめて、ここでゆっくり心と体を休めることさえできていれば、後の災厄を回避することだって可能だったかもしれないのに…

でも、職場の店長(雇われ店長。青年の働いていた会社は本社が大阪にあり、東京支店で一番偉い人は「店長」と呼ばれていた)は、せっかちな性格で、何もかもが即座に行われなければ我慢がならなかったのです。

「早く免許を取れ!早く免許を取れ!正社員にしてやるんだから、そのくらいはしろ!」と、九官鳥のようにいつも繰り返し叫んできます。

それで仕方がなく、青年は貴重なお盆休みまで潰して、自動車の免許を取るための学校に通いました。

そこでも1つ失敗をします。青年が通っていたのは「公認の自動車学校」ではなく「教習所」という所でした。会社の店長があまりにもせかすものだから、よく調べも知らずに教習所に通い始めてしまったのです。

公認の自動車学校であれば、通い続けているだけで免許は取得できます。でも、教習所だと「運転免許センター」まで出かけていって試験を受けないといけないんです。このコトが後に災いします。

何もかもがあわただし過ぎました。もっとゆっくり進めていれば、事態は別の方向に進んでいたかもしれないのに…


「このままでは埋没していくな。世界に埋没していってしまう…」

青年は直感的にそう思いました。全ての特殊能力は失われ、平凡化し、凡人化していき、この世界の片隅に埋もれていってしまうのです。せいぜい「他の人たちよりも、ほんのちょっとだけ優秀な人間」として。

今の職場でも、それなりに能力を上げ、それなりに活躍するコトはできるでしょう。他の人たちの1.5倍とかそこらの成果を出すくらいは可能かも。そうすれば、きっと「あの人」は認めてくれるでしょう。その先に、結婚し、家庭を築く未来も広がっているかもしれません。

でも、そのためには「究極の作家」への道をあきらめなければならないのです。青年は、そのような状況に我慢がなりませんでした。「現実」を取るか?「夢見人」として生きるか?決断を迫られているのに、どっちつかずのまま時間ばかりが経過していきます。

そうこうしている内に「現実にやらなければならないコト」が山積みになっていき、それらの義務を淡々とこなすだけの生活に突入します。

結果、夢と現実どちらにも固執することができず、中途半端な人間になってゆくのでした…

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。