「生まれて初めてオムライスに卵を巻く」「養命酒はお酒じゃないよ」

あの人が家に来て何日目だったでしょうか?確か2月の終わりか3月の始め頃だったと思うのですが…

突然、こんなコトを言い出しました。

「1か月ぶりに、おつき合いしてる人と駅で偶然会ったんですけど。『お前、太ったな』って言われて。それで、私、超怒っちゃったんです」

青年はその話を聞きながら「ふ~ん」とか適当な返事をします。

でも、内心、「1ヶ月も会ってないなんて、仲が悪いのかな?そういえば、2人で一緒に家庭教師に行ってたのがその頃だったかな~?」と思いました。

その言葉の心理と関係を分析するなら、「恋人って言っても、そんなに仲が良くないのだな。ほんとに深い仲なら『太ったな』なんて言われても軽く冗談でかわせるだろうに」となります。

恋人なんて「世界で一番大切な人」に比べれば、たいしたことはなさそうです。「これは、別れるのも時間の問題かな?」と思いました。

         *

ある時、あの人がお昼ご飯にオムライスを作ってくれました。でも、チキンライスは完成したし、薄焼き卵もきれいに焼けているのに、チキンライスに卵を上手く巻くことができないのです。

「○○さ~ん!やってくださ~い」と、かわいらしい声で哀願していきます。今にも泣きそうな表情です。

青年は、チキンライスに薄焼き卵なんて乗せたこと、生まれて1度もありません。でも、ヒョイッとやってみたら上手に乗せることができました。それから箸を使って、トントントンときれいに巻いていきます。

「わ~!すご~い!」と、あの人は感激していました。さっきまで泣きそうな顔をしていたのに、今度は満面の笑みです。

青年はなぜだか、こういうコトができてしまうのです。1度もやったコトないような動作でも、なんとなくできてしまうのです。あるいは、それも「マスター・オブ・ザ・ゲーム」の能力だったのでしょうか?


別の時には、こんなコトもありました。

あの人が「鳥の酒蒸し」を作ってくれようとしたのですが、青年はちょうどその時、外に出ていました。彼女は勝手に台所の下の扉を開けて、調味料を取り出して使っていました。

それは、いいんです。台所は女性のモノですからね。「自分の領域」を確保してくれて、むしろうれしかったくらい!ただ、使った調味料ってのが「養命酒」だったんです。

彼女は世間知らずで、「養命酒」を普通のお酒だと思ったんですね。もっとも、養命酒はビンだけで中身は実家から送られてきた梅酒だったんですけど…

「あなたに、おいしい鳥の酒蒸しを作ってあげようと思ったのに、もう駄目だわ~」

見ると、泣き出してしまっています。まるで、世界の終わりがやって来たみたいに悲しそうにしているのです。

「え?女の子って、こんなコトで泣いちゃうの!?」と青年はビックリしました。

それから「大丈夫!大丈夫!」と軽く笑いながら、フライパンを受け取り、鳥の酒蒸しを完成させました。

そうして、お皿に盛ると、「ほ~ら!こんなにおいしい!養命酒を知らなかったんだね。養命酒はお酒じゃないよ。アルコールは入ってるけど、どっちかっていうと薬だから。それに中身は梅酒だったからね」と、ほほえみながら言いました。

それでも、彼女はグスングスンとまだ泣いています。

「ほんと~?」とかわいらしく首をかしげて、涙が止まりました。

「ほんと!ほんと!あ、でも、塩味がちょっと足りないかな~?しょう油でもかければよかったね」と青年が答えると、彼女は怪訝そうな表情をしました。

「余計なコト言っちゃったかな?随分と傷つきやすい子みたいだから。今後は、あんまり余計なコトを言わないようにしよう」と青年は決めました。

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