見出し画像

「僕の改革 世界の改革」 第8夜(第1幕 26 ~ エピローグ)

ー26ー

「戻る!」
僕は叫んだ。
「あそこには、やり残したことがある!だから、戻る!そして、確かめる!」

僕は走り出していた。物凄いスピードで基地へ向かって!
ふと気づくと、同じくらいの猛スピードで誰かが追いかけてきていた。リンだった。
「どうして?」と、リン。
「どうしても!」と、僕。

僕は走り続けた。
リンも走り続けた。

僕は直角のカーブを曲がる。
リンも曲がる。しかし、彼女は曲がり切れずにぶつかる。そこにあった両替機のようなものに。
店から、店員さんが2人出てくる。
両替機からはジャラジャラとコインが出てくる。
僕は引き返す。
「おめでとうございま~す」
2人の店員さんが同時に叫ぶ。
リンは一生懸命そのコインを拾おうとする。
「仕方がない!」
僕はそう叫んで、猛スピードでコインをつかみ、ポケットに入れる。そのまま彼女の手を引っ張る。そして、また猛スピードで走り出す。
リンは「まだ…」と呟きながらも、僕に引きずられたまま移動し続ける。


ー27ー

僕らは秘密基地にたどり着く。そこで、ふと気づく。
ここは秘密基地ではなく『僕の家』だ。そして、隊長は存在しない。隊長は『僕自身』だったのだ。

リンはドアの入り口に立って、こちらを見ている。アレはなんという表情なのだろうか?唖然としているでもないし、呆れているでもない。アレは…そう、あれは『不思議そうな顔をしている』だ。彼女は不思議そうな顔をして、僕の方を見ている。

僕は慌てて押し入れを開ける。どれも大切な物たちばかりだ。アレも、コレも…何もかも。
早く荷造りをしなければ!ここが爆発する前に、ここにある物たち全てをまとめて運びださければ!!
でも、一体、どうやって?

わからない!
わからないけれど、とりあえず荷物をまとめないと!!
方法は、その後で考えれないい。イザとなれば、引きずってでも運んでいくさ。


ー28ー

リンが僕の手をつかむ。
そして、言った。
「もう、やめましょう」
僕は驚いて声も出ない。
「無駄よ。間に合うはずがないわ」
何を言えばいいかわからない。

無駄?
何を言っているんだ。無駄なはずがないじゃないか。ここにある物たちは、みんなみんな、ほんとうにほんとうに大切な物たちなんだ。それをここに置いて逃げられるはずがないじゃないか!でも…でも…

「もう、やめましょう。終わったのよ。何もかもが…」と、リン。
ようやく僕は一言、絞り出した。
「代わりに君がいてくれるなら…」
「ええ、いいわ。いつまでも一緒にいましょう」
「じゃあ、ちょっとだけ…」
そう言って、僕はリンにすがりついた。
「いつまでも、こうしていていいのよ。いつまでも、ほんとうにいつまでも…」
彼女の胸の中で僕は泣いた。
涙を流した。いつまでも止まることのないかのような涙を。
そして、僕は諦めた。過去の思い出たち全てを…


ー29ー

僕らは部屋を出て歩き出し、僕は言った。
「任務を果たさないと」
「無駄よ」
「えっ?」
「ここを壊す必用はないわ」
「どうして?」
「見て」
リンが目を向けた先には街があった。何の感情もない無機質な街が。そして、そこには何の感情もない無機質な人々が歩いていた。
それでも僕は携帯で隊長に連絡を取る。僕自身でもある隊長に。
「もしもし…ナンバー24です」
「なんだ」と、隊長。
「たった今、秘密基地を出ました。もう街を破壊しても構いません。ミサイルの標準を合わせてください」
「それはできない」
「どうしてですか?」
「そこには、すでに大勢の人間たちが住んでいる」
「でも、彼らは…」
「そうだ。奴らは、後から来た感情のない人間たちだ。だが、それでも…人は人であるのだ!」
「そんな…じゃあ、僕らは一体、何のために…」
「さあな。だが、そんなコトはもはや問題ではない。それは、君自身が一番よくわかっているはずだろう」
「……」
そして、隊長は電話を切った。


ー30ー

街は無気力生物たちに占拠されてしまい、それでも隊長は彼らを駆逐することはできなかった。なぜなら、無気力生物もまた人間だったから。人間が人間を殺すことなんでできはしない。まともな神経をしている人間ならば…

「君の言った通りだった」と、僕はリンに話しかける。
「そう…それで、これからどうする?あの部屋に戻る?」
「いや、そうはしない。僕は、もう戻れない。君と進む。先の世界へ。どこまでもどこまでも先の世界へ。行ける限りの所まで。どこまでも…」
「ありがとう」
リンがそう言って、僕らは歩き出した。


ーエピローグー

リンは『彼女』ではない。
でも、僕が彼女以上に求めていた人だったのだ。これで、よかったのかも知れない。僕はそう思った。
これで当分の間、僕らは幸せに…平穏に暮らせるだろう。2人一緒ならば、何も問題はないだろう。とりあえず僕らは歩いていく。どこまでもどこまでも、遠い世界を目指して…

   ~ 第1幕 完 ~

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。