「僕の改革 世界の改革」 第45夜(第7幕 13 ~ 17)
~13~
長い旅の果て、僕は再び『革命都市ガダメポートレス』へと舞い戻って来た。
僕のあとを継いで国王になった人物は、立派にやっているようだった。見ると、それは意外な人物だった。
新しい王様…つまり女王は『並木さやか』だった。中身は『彼女』ではない。全くの別人。新しい並木さやかだ。
女王の採用した国政は一言で言えば『安定』
変化や改革とは程遠いやり方だ。以前の方針を踏襲し、より推し進めただけ。
「やる気のある者はさらに多くの仕事をまかされ、無気力な者は打ち捨てられる」そういう政策。
そんな女王の姿を見て「まるで、人形そのものだな…」と思ったが、そんなコトはどうでもよかった。もはや、僕には興味のカケラも持てなくなってしまっていたのだ。
~14~
それよりも、僕にとっては、もっと興味深いコトがあった。大木正さんと出会ったのだ。かつて『小型無気力レーダー』などを開発し、共に働いていたあの大木さんだ。
大木さんは、街の片隅にある夜のバーで、ひとりぼっちでお酒を飲んでいた。
僕は、ちょっとうれしくなって、隣に座って話しかけた。
~15~
だが、大木さんは僕のコトを『僕』だと認識できなかった。当然だ。今や僕はただの『名無し』であり、名もなき旅人に過ぎないのだ。
それでも、大木さんは自らの思いを語ってくれた。その内容は、ちょっとばかし意外なモノだった、
~16~
「私は、また同じコトを繰り返してしまったのかも知れない…」
「同じコト?」と僕は問い返す。
「信じてもらえるかどうかわかりませんが、私は別の世界でサラリーマンをやっていたんです。あるいは、今もやっているのかも…」
「今も?」と、僕はさらに問う。
「そう。私は向こうの世界とこっちの世界を行き来していて、こっちの世界で生きている時間は向こうの世界が夢のように思え、向こうの世界で生きている間はこちらの方が夢のような気がしているのです」
「フム…確かに不思議な話ですね」と、僕。
「でしょ?」と、大木さん。
大木さんは、話している相手が僕だと気づかずに続ける。
「もはや、どこまでが現実で、どこからが夢なのかもわからない。いや、そこの部分はどちらでもいい。重要なのは『私が同じコトを繰り返している』という部分なのです」
「どういう意味で、繰り返し?」
「向こうの世界でサラリーマンの私は、こちらの世界でも似たような人士を歩んでしまった。いえね、最初は楽しかったんです。『やる気』だとか『無気力』だとかについて研究して」
「でも、今は違う?」と、僕。
「そう。ありがたいコトに高い地位につけさせてもらって、自由に研究もできるようになった。でも、気づいたら、それってサラリーマン時代と同じなんです。毎日毎日同じ日々の繰り返し」
「フム」
「違いといえば、向こうの世界では結婚して子供もいる私が、こちらの世界では独身を貫いているというコトくらいでしょうか?他はみんな同じ、ただ淡々と過ぎる日々を繰り返すのみ…」
「結局、人生は何度やり直しても同じコトの繰り返しということか…」と、僕は独り言をつぶやくように声にした。
「ですね。結局、人は変われない。変わるのは難しい。いや、中には簡単に自分を変えてしまえる人もいるのでしょうが。私には無理でした…」
別の世界で、安定した家庭を築き上げていた大木さん。大木さんは、そんな「何気ない幸せ」に飽き飽きし、こちらの世界にやって来たという。
だが、根本的には何も変われなかったのだ。
~17~
僕は、変わっただろうか?変れただろうか?
確かに、世界を変える一因にはなれただろう。でも、自分自身はどう変わった?流転の人生を歩みつつ、心の中は何も変わっていないような気もする。
そんな風に考えていたら、大木さんが最後にこうもらすのが聞こえた。
「私は、そういう人に出会ったコトがありますよ。いとも簡単に自分を変えて見せた人を。隊長をやったり、司令官をやったり、革命家になったかと思えば、あっさりとその立場も捨て。ある日突然フラリと姿を消してしまった人を。私は、あんな風になりたかったのかも知れないな…」
明らかに僕のコトだった。
自分でどう感じているかは別にして、人から見ると僕は非常に変化の激しい人間に思えるらしい。
noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。