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営業マンって超大変!

さて、お掃除屋さんの営業マンを始めた青年でしたが…思っていた以上に仕事は大変でした。

なにしろ飛び込みの営業なのです。飛び込みというのは、アポも取らずにいきなりお店や個人宅に行って、「この商品を買ってください」と交渉するやり方です。

しかも、お給料は完全歩合制なので、商品が1つも売れなければ1円も入って来ないことになります。これは、かなりの精神的負担になりました。

社長も、他の営業マンも全然仕事のやり方を教えてくれません。仕方がないので、全部自分で考えて自分で実行していきます。


まずは新宿に出かけて、安物のスーツを1着購入しました。それから、ヨレヨレのネクタイをしめ、事務所で薬品のサンプルを受け取ると、自転車にまたがります。

なにしろ、ろくにネクタイのしめ方も知らないのです。適当に首の前で結んで、自転車をこぎます。まるで、死刑囚に首つりの縄がかけられたような状態でした。

しかも、自分用の名刺さえ用意してもらえないのです。

だって、社長が「お前に名刺はまだ早い!途中で辞められたら困るからな。名刺代がもったいない!」と言って、作ってくれなかったからです。

仕方がないので、以前に働いていた人の名刺を受け取り、それを使うことにしました。でも、ウソの名前を語るのは嫌なので、名前の所にマジックで大きくバッテンをし、自分の名前を書き込みました。

これでは、売れるものも売れません。


それでも、とりあえずは、がんばって街を回ります。

勇気を出して、小さな会社や商店の扉を叩いては、商品の説明をして回りました。

「え~、この薬品はですね。こうして、シュッシュと床や壁に吹きかけまして、ほんの20~30秒待ちまして。それから布で拭き取りますと、ア~ラ不思議、このようにキレイに汚れが取れてしまうのです」

…と、社長が唯一教えてくれた売り込み口上を述べて、お客さんを驚かせます。というか、うまくいけば驚いてくれて「アラ~、ほんとね!じゃあ、1ついただこうかしら!」となるはずなのです。

しかも、汚れた床の一部分だけきれいになったら、見た目も恥ずかしくなってしまいます。「ここだけきれいになってるのも変ね。じゃあ、他の部分も掃除しちゃおうか!」という心理状態になります。そういう効果もあって、商品が売れる仕組みになっているのでした。

ところが、そうは問屋がおろしません。見た目がおかしいのもありますが、何よりも青年には勇気がありませんでした。オドオドした態度では、誰もが怪しむに決まっています。

そんなわけで、商品が1つも売れないどころか、実演までこぎつけるのさえ至難の技でした。


そんなある日、近所のガソリンスタンドに怪しい掃除用の薬を売りつけようとスタンドの店員さんと会話した時のことです。

「お前、何考えてんだ!」と、いきなり叱られてしまいました。

「え?どういうコトですか?」と青年が尋ねると…

「そりゃ、そうだろう!スーツもまともに着れない。ネクタイも、おっかしなしめ方をしてる。おまけに、名刺はバツ印の上に別の名前が書いてある。怪しいったらありゃしない!こんなコトで商品が売れると思うのか!」

…と、スタンドの店員さんは返してきます。

そりゃ、そうです。全くもってごもっとも!全面的に店員さんの言う通り!

そこで、青年は感動してこう返しました。

「は~!なるほど!確かに、おっしゃる通りです!これからは、心を入れ替えて対処します!見違える姿になった、その時はまたお会いしてもらえますか?」

「いいだろう。もし、まともになっていたら、その時は商品を購入することも考えてやろう!」

店員さんも、そう言ってくれました。

営業の成績は散々でしたが、このようにして青年は人との関わり方…つまり、コミュニケーション能力を身につけていったのです。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。