見出し画像

「僕の改革 世界の改革」 第23夜(第3幕 26 ~ エピローグ)

ー26ー

隊長である僕は、深夜の大学構内でリンを足止めした。
昔の僕は、時計台の前で待っているはずだった。
遠くで2時の鐘が鳴った。

慌てた様子もなく、リンはこう言う。
「どうして、こんなコトをするの?」
「もう、これ以上、大切な人を失いたくないんだ」
「あなたの大切な人は、ここにはいない。あなたが戻るべき世界にいるのよ」
「そんなコトはない!ようやく気づいたんだ!ほんとうに必要なのは、君の方だったんだって!」
ここで、リンを4時まで足止めしておけばいい。そうすれば、運命は変わる。
「自分勝手ね」
「え!?」
「だって、そうでしょう。あなたは、これまで何をやってきたと思うの?」
「何をって…」
「私が、どれだけ寂しくしていたかも知らないで」
「寂しく?」
「そうよ。あなたは、いつも別の方を向いていた。私ではない別の方向を…結局、恋人だなんて言っても、言葉だけだったのよ」
「それは…それだったら、もう寂しくなんてさせない。ほかの女性を追いかけたりもしない!世界を変える必要だってない!君を守る!君の側にいる為にだけ、この力を使う!だから…」
でも、リンはこう言って去っていく。
「これが、運命なのよ…」
もうそれ以上、彼女を引き止めるコトはできなかった。
そして、最後にリンはこう言った。
「向こうの世界に戻ったら、今度こそ世界を変えてね。あなたには、その力があるのだから」
遠くで3時の鐘が鳴るのが聞こえた…


ー27ー

僕は、夢の中の世界でも、自分の部屋に閉じこもってしまっていた。部屋に閉じこもったまま、同じ曲を聞き続けていた。

夢の中の世界の隊長室で、僕が揺りイスに座って居眠りをしていると、『昔の僕』が部屋に入ってきて言った。
「隊長!次の命令を」
「ああ、君の好きにやりたまえ」
「そんなコトを言わないでください」
「私は、もう疲れたよ…」
「そんな…」
「君は、もう立派に独立した。この独立部隊で、君は独立したんだよ。だから、もうここから先は私の命令は必要ないだろう」
僕は、そう言うと、また居眠りを始めた。


ー28ー

目が覚めると、僕は『僕の部屋』にいた。相変わらず、部屋には同じ曲が流れ続けている。
目の前には、シノザキ博士が立っていた。隣のベッドには、リンが眠っていった。まるで、死んだように…
「リンは?シノザキ博士!リンはどうしたんです!?なぜ、彼女は目覚めないんですか!」
シノザキ博士は、静かに答えた。
「それは、君が一番よくわかっているんじゃないのかね?」
「まさか、リンは今も夢の中で…」
「おそらく、永遠に思い出の世界を回り続けるんじゃろうな」
「そんな…そんなバカな…」
僕は、また大切な人を失ってしまった…


ー29ー

喪失感に襲われていた僕に向かって、シノザキ博士はこう言った。
「虚数にどんな整数をかけても整数には戻らん…」
「え!?」
「お前さんの、虚しさに満ちた心を元に戻すためには、同じように虚しさを与えてやるしかなかった…」
「虚しさ?」
「あの子は、その為に犠牲になったんじゃよ。自らの身を投じてな」
「僕は…僕は、どうすればいいのですか?」
「あの子は、お前さんを助けるために、これだけのコトをやってのけたのじゃ。じゃったら、お前さんは、あの子のその想いに答えてやるべきではないのかね?」
「想い…リンの想い?」
僕は、夢の中で最後に聞いたリンの言葉を思い出していた。
『今度こそ、世界を変えてね。あなたには、その力があるのだから』


ー30ー

かつてない程の喪失感に襲われながらも、心のどこかでフツフツとした思いが沸き上がってくるのを感じた。
すると、シノザキ博士が言った。
「ワシは、ここをやめようと思っておる」
「突然、どうしたんですか?」
「なんだかんだ言っても、ワシは、人ひとり救えんかった。今のやり方では、ダメじゃということじゃな」
「それは…」
「じゃから、どこかの山奥にでこもって、ひとりで研究を続けようと思う」
いろんなコトが同時に起こり過ぎて、その時の僕はそれ以上何も考えられなかったし、何も言えはしなかった。
結局、僕は博士を止めるコトはできず、シノザキ博士は抜け殻になったリンを連れて出て行ってしまった。


ーエピローグー

喪失感に喪失感を重ねる事によって、僕は現実の世界に帰って来ることができた。虚数に虚数をかけて無理やり整数に戻したのだ。
たとえ、その整数がマイナスであろうが、現実は現実だ。プラスに変えるコトなど雑作もない。何しろ、それが『僕の力』なのだから。

しかし、虚構空間にいる限りは、この力も意味を成しはしなかった。それをリンは身をもって救ってくれたのだ。
自らを『人柱』とするコトによって…

おそらく、リンは永遠に時間の輪の中を巡り続けるのだろう…
果たして、僕はそこまでして守られるべき人間であったのだろうか?

いや、迷っているヒマなどない。
リンが救ってくれたこの命。この人生。この世界のために使わずしてどうするというのだ?
そして、僕は再び走り始めた。

   ~ 第3幕 完 ~

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。