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「僕の改革 世界の改革」 第10夜(第2幕 7 ~ 10)

ー7ー

そんなこんなで、僕らは目的の街に着いた。
さっそく本部基地へと向かう。

本部基地は、意外にも街中の雑居ビルの1つにあった。
「この建物全てが本部基地なの。家賃は払ってないわ。このビルのオーナーが隊員の1人なの」
そう言って、リンが説明してくれる。

それからリンは1階の受付嬢と話をする。
「最上階よ。ついてきて」
仕事の時のリンの顔だ。ここまで旅してきた時のプライベートの表情はもうない。また当分こんな日々が続くのだろうか?そんな思いを胸にしながら、僕らはエレベーターで最上階へと上がっていった。


ー8ー

リンが指揮官と話をする。
その間、僕は出されたコーヒーを1人で飲んでいた。

リンと指揮官が何を話し合っているのかはわからなかった。それどころか、これまで僕はリンがどんな仕事をしているのかさえ知らずにいた。
隊長の命令で動いていたあの頃は、そんなコト考えもしなかった。でも、今になって思うと、おかしなコトがたくさんある。リンはいろんなコトを知っているようにも思えたし、どこに行ってもスムーズに事が運ぶ。
実は、リンはとんでもなく重要な地位の人間なのかも知れない。あるいはもっと別の…不思議な能力を持っているとか。そういうコトなのだろうか?

1時間ほどして2人の話が終わり、僕はこう告げられた。
「君は、今日から新部隊に所属してもらう」
「ハイ」と、返事をする僕。
「そして、そこで隊長として任務をまっとうしてもらう」と、指揮官。
「た…隊長!?」
「いいね?」
「は…ハイ!」

上の方の決定は、わからない。
指揮官が去ってからそのことをリンに話すと、彼女は言った。
「大丈夫。今にわかるようになる時が来るわ。そういうことも含めてね。だって、あなたはそういう人だもの」


ー9ー

「大丈夫よ。何も心配することはないわ。私が副隊長としてついているもの」と、リンがやさしく告げてくる。
「副隊長?君が…」と、僕。
「そうよ。だから大丈夫だって!」
「でも、どうして君が隊長じゃないんだい?だって、おかしいじゃないか。どう考えたって、普通、君の方が上官になるはずだろ」
「さあ?どうしてかしらね?」
そう言って、リンはイタズラっぽく笑ってみせる。仕事ではあまり見せない時の笑顔だ。
「まあいいさ。流れに乗って生きていれば、いつかなんとかなるものさ。これまでだってそうだったのだから」
「そうそう!なんとかなるわよ!」

やれやれ。まったく何がどうして、こんなコトになっているのだろう?
頭は混乱しかけているのに、それとは別に体が勝手に動いていく感じだ。まるで僕には全然関係のない場所で、天井から見えない糸に引かれて動かされてしまっているようだ。人形使いの操るマリオネットのように…

さらに、リンが続けて言った。
「あ…それと新しく入隊したいと言ってきている人がいるそうなので、私たちの部隊に入れてもらうことにしたわよ」
「新しく?ってことは新人?なんで、僕らの部隊に?」
「だって、2人だけじゃ部隊は成り立たないでしょ。当面は私たちとその人と3人で活動していくことになりそうよ」


ー10ー

それから、僕らは新しい基地とそれぞれが寝泊まりする部屋を与えられた。

数日後、新しい隊員が来るというので、僕はリンと共に基地で待機していた。

コンコン!
午前10時キッカリにドアをノックする音が聞こえた。
「ハイ、開いてますよ。どうぞお入りになって」
そう、リンが返事をする。

「こんにちは。今日からお世話になります。大木正です」
そう言って、背の高い男が入ってきて、あいさつをする。
「おおき…ただしさん?よろしく」
そう言って、僕は新人の隊員と握手を交わす。
ん…どこかで、見覚えがあるような?
「アッ!あの時の!!」
「そうです。覚えていらっしゃいましたか!」
新しく入隊してきたのは…
なんと!その昔、喫茶店で話をしたあのサラリーマン風の男の人だった。僕らが無気力レーダーで発見して、やる気レーザーで撃ったあの人だ!

大木さんは笑いながら言った。
「アハハ…そうだよ。私も君らの仲間になったんだ。なんらかの力になれればな…と思って」
「じゃあ、やっぱり、やる気レーザーが効いたんだ!」
「ハハハ…そうじゃない。そうじゃないさ!」
「だったら、どうして?」
「私は君らの…特に君の魅力にひかれたんだ」
「僕の?」
「そうさ。君を見ていたら、なんだかやる気が起きてきてね。こんなコトじゃいけない!つまらない会社でなんて働いてはいられない!…ってね」
「そんな…」
「いや、ほんとに君にはそれだけの力があるさ。まあ、なんにしてもこれからよろしく頼むよ!」
なんだか、僕なんかよりもこの人の方が隊長に向いていそうだ。

とにかくそんなわけで、新しい隊員に『大木さん』が加わった。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。