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エッセイ スーパースヤキキャット【連作SS 「スーパーバグメーカー」あとがき】

 小さい頃からぼんやりした子供で、寄せ書きや手紙など、機会があるたびに「いつもぼんやりしていて心配でした」と友人や先生に告白されてきました。
 本人としては、みんなどれだけぎらぎらに覚醒しているんだと驚く(なにしろ『ぼんやりしている』が素に近い状態なので)ばかりですが、多分、『ぼんやりしている』と言われているのは何かを考えているためです。

 これからの日本社会のあり方とか、持続的な経済と環境の両立とか、そういう大層なことではありません。あえていうならお話のようなものです。

 夕焼けが綺麗ならば空を赤く染めるインキを作る男を。雨が降れば唄うツユクサとカエルの会話を。コンテストに出すとかSNSにあげるとか、ましてや誰かに話すあてすらなく、ただ、映画の前の予告編のようにそうした物語の断片が、日常、何かに心動かされるたびに頭の中に流れるのです。断片のひとつひとつは確かに何かの美しさや真理をついているように見えますが、ちゃんと捕まえて並べてみると、意味がわからなかったり、めちゃくちゃに矛盾していたりします。おかしな箇所を見つけたら「あ、まって。こうじゃない」と映像をとめて、カットしたり作り直したり。あっという間に時間が過ぎています。

 『スーパーバグメーカー』は、私が大学生のとき、友人とお昼を食べていてできた話です。校内の広場で、私はお弁当、友人はコンビニのおにぎりを食べていました。
 校内には、学生のお弁当に味をしめた凶暴なハトが常駐しており、ランチタイムはけして優雅なものではありません。すぐに足元がハトまみれになります。時々おにぎりの具をつまんでハトにやる友人に戦慄していました。友人のおにぎりはいつも鳥五目ごはんにきまっていたからです。

 確か、最近面白かった漫才について話していたんだと思います。あれがおもしろい、これがおもしろい、じゃあ、こういうのはどう? と話していくうちに、ひょっこり、『五厘ブラザーズ』という架空の漫才コンビが出来上がりました。なんだかそのコンビが気に入った私たちは、設定の詳細について話し合います。頭は五厘刈り、長身の方が実は弟、決め台詞はこう。

 当時、私は大学のサークルで人形劇を作っていました。台本や演出が主な担当です。どうにかして、何かの公募に文章を出したい、と思っていた時期でもありました。
「このお話書いてよ」
友人が、自分達の作った架空の漫才コンビに笑い転げながらいいます。
「いいよ」
私も、笑いながら言いました。書ける、と思っていたからです。

 そう。
 書けませんでした。

 公募を書こうとした時点で薄々気がついていたのですが、私は実際に使われる予定のものしか書く勇気がないのです。高校時代も演劇部で台本を書いていました。大会用だったり、公演用だったり、あるいは依頼を受けたり。それらはみんな実用品で、書き直したりする可能性があるにしても、みな、使われる予定のある道具でした。出来による程度の差こそあれ、作れば誰かが使うし、喜ばれます。誰かのために夕食を作ったりするのと一緒です。あの人が喜ぶな、という動機なしに、私はものを書き上げることができませんでした。書くことはもちろん好きでした。でも、なんていうか、途中で何をやってるんだろうと思ってしまうのです。こんなことより先にやるべきことがあるんじゃないだろうか、と。

 ほろり。
 涙が流れます。もともと、家族や、ましてや社会のために「役に立った」ことがない人間です。読まれもしない長編、うかりもいない公募に金にも等しい時間を使っているのがその証拠。身体中が針のむしろに覆われたような気分になります。それまで書いた原稿、設定、プロット、資料。なにもかもをゴミ箱に捨て、その時々の『やるべきこと』に戻る。そういうことを呆れるくらい何回も繰り返して生きてきました。

 なんとなく『書かない』ことを決めた毎日でも読書はします。意図せず、ああ、これはあのお話に使える、と思うこともあります。いつか書くためにメモしておこう。そうしたメモが何枚も積み重なります。

 年に数回、自分の書き写した資料を整理します。たまってしまうから。
 必要、不必要を判断して、不必要なものはゴミ箱へ、必要なものは分類して置いておきます。

 そして最近、思ったのです。
 いつか書くお話のためのメモって、いるんだろうかと。

 「スーパーバグメイカー」に限らず、実はいつか書こうと思っている比較的長いお話の筋のようなものは、両手にあまるほどのストックがあります。長期間文章を書いていると悲しくなってやめてしまう自分の性向を理解していますので、書けるようになったらいつか、と目をつぶってきました。それらのお話はどのくらいの年齢層向けなのかはっきりせず、需要のありそうなポップなものでもありません。資料を集めるのにかなりの労力もかかります。コンテストに出すようなものでもないしな。いつか書こう。

 けど。
 今更になって思うのです。
 いつかって、いつだろう。

 「いつか」書こうと思っているのって、結局、「書きたい」と思ってはいるってことなんです。じゃなきゃメモなんて溜め込んでおくはずがありません。

 誰の目にもふれないかもしれないし、面白がってももらえないかもしれない。どこかのコンクールにすら出せない、役立たずの無用な文字の山。
 それでも、仕方がない。
 私が、書きたかったのだから。

 何年も頭にあった、この奇妙なSFを、写真をとったり、会社帰りの疲弊した頭がこれ以上1文字だって絞り出せねえと悲鳴をあげたり、思いもかけずご感想をいただいたりと紆余曲折をしながらも書き上げられたことを、とてもありがたく、嬉しく思っています。本当に、泣いちゃうほど。素敵な曲までいただけました。そんな小説、なかなかないよ。

 自分の夢を、叶えちゃっても良いんだね。

 お付き合いくださった方々、読んでくださった方々に、心から感謝いたします。

 そして無茶苦茶、くたびれました(苦笑)。
 おやすみさい。どうぞみなさんよい夜を。
 本当にどうもありがとうございました。泣


superbugmakerのコピー

連作ショートショート 「スーパーバグメーカー」
目次
1st Week 「五厘兄弟」
オトウト
山田太郎(仮)
アニ
Mr.ピジョン
ルートサン
2nd Week 「妖精荘」
記憶奴隷(藤井誠)
サンダーボルトガール(早川千夏)
モンテカルロシミュレーター(佐藤直樹)
キャンガール(新美さやか)
β(加藤清正)
3rdWeek「SABURO」
松本三郎
安藤花
鈴木優
安藤裕太
BMP(ビットマップ)
4th Week スーパーバグメーカー
QinB
山田太郎(本名)
ナゴヤ
雷ちゃん
スーパーバグメーカーズ

5th Week おまけのはなし

スーパーフィッシュキャッチャー
スーパースヤキキャット(あとがき)