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エッセイ 星々ワークショップのはなし

 先週の土曜日(9月16日)にオンライン文芸コミュニティ「星々」さんの「星々ワークショップ2023」の最終回に参加してきました。

 あまり積極的にここに書いてきませんでしたが、2023年3月から先週までの半年間、月に一回のワークショップに計6回参加して、半年間かけて一つの短編を書きあげるということをしていました。

 今年のワークショップの課題は「土地を取材して短編小説を書く。」ワークショップの中で実際に土地への取材も行いました。参加者がその土地を書くかは任意ですが、他のワークショップ参加者の方々と同じ場所を取材して、取材した結果を文字として出力した際に、それぞれがそれぞれの見方、感じ方をしているのを目の当たりにするのは本当に面白く、新鮮な喜びでした。

 また、「取材」という行為自体、インターネットでただ自主的に文章をあげているだけの自分にはなかなかできなかったことでした。何か特別大きい媒体にのるでもないのに「取材させてください」とは相手の方に言えなかったのです。相手のないものでも、観察したり、写真を撮ったりしながら「私、これ、なにしてるんだろうなあ」という気恥ずかしい思いを中途半端にかかえながらやっていました。ワークショップの課題として思い切り取材するのは、胸が踊る、楽しい体験でした。

 基本的にオンラインで行われたワークショップの冒頭では、講師の小説家、ほしおさなえ先生からその回の課題に即した、小説を書くときの考え方などのお話をうかがうことができました。最近シリーズが完結したほしお先生の小説「菓子屋横丁月光荘」の取材の時の話などもお話いただくこともできました。書籍として手元にある本を書いた方の話を聞くというのは不思議で、得難い体験だと思います。

 また、ワークショップで毎回だされる課題について、ほしお先生の講評をいただくことができました。大変貴重な機会をいただけたと思います。すごく勉強になりました。

 そして、毎回、他のワークショップ参加者の方々の小説(課題)を読み、講評しあう、ということを繰り返してきました。

 このワークショップには色々な方々が参加していて、書く目的も、ジャンルもそれぞれ別々です。その、最初の取材の内容から始まって、プロット、小説ができあがるまでの過程を間近で見ることができたんです。実際に人が集まって活動するワークショップ(講義やセミナーなどでなく)に参加して、本当に良かったな、と思ったのはこの点です。

 みなさん、自分ではない誰かが小説をいちから作っていく様子を見たことがあるでしょうか。私はないです。本や創作ではあるけれど、実際の人が書いていく、途中の原稿や、書き直しの様子を見る機会なんてありませんでした。

 典型的なのがプロットで、特に私は学生時代に文芸サークルなどにも入っていませんでしたから、「プロットを書く」というのが実際どのように行われているのか分かっていませんでした。書籍などではよく見るんです。書き方も読んでいくつか知ってはいました。でも、なんだか「レストランのオムレツの作り方」みたいな印象で、本当にみんなそんなことやってるんだろうか、とか、特に誰も見ていないのに作り込むのが気恥ずかしかったりとか、がっちり正面から向かい合って取り組めてこなかったように思います。

 ところが、課題のプロット持ち寄ってみると、本当にプロット段階で設定が細かに見えている方がいる。鮮烈な驚きでした。ああ、そうなんだな、と思って。多分、講師の先生のプロットを拝見してもそこまで驚かなかったと思います。小説家はすごいな、と遠くに思っていたことでしょう。参加者の方々は実際に実力者揃いだったんですが、それでも、ああ、こうやって作っているんだというのが分かるのに本当に刺激を受けました。完成するところ、しないところ、次に直すところ、直さないところ。この方は何を考えてそうしたのか、たくさんたくさん刺激を受けました。

 また、自身も他の方に講評をしなくてはいけなかったことで、「読む」ことの訓練も積むことができたと思っています。個人的な意見ですが、「書く」以上に「読む」というのは訓練のいることだと思っています。ましてや、それを書いた方に感想や意見を述べるんですから真剣勝負です。

 最終課題の小説の完成には8,000字程度の下限がありました。私には公募でも超えられたことのない長さです。7月にいきなりnoteをお休みしていたのは、8,000字の壁をどうしても超えたかったから。私は「また超えられませんでした(やっぱりね」となるのがどうしても嫌でした。これも、「課題に取り組む」という行為で超えることができました。本当に嬉しかった。

 冒頭でお話した最終回は、皆が完成させた小説の合評会と先生による講評、そして人気投票でした。
 

 ありがたいことに、優秀作のひとつに選んでいただいています。本当にありがとうございます。

 半年間、真正面から「書く」ことに真剣に取り組めたこと、先生のお話を聞けたこと、物語を書いている他の方々と出会えたこと、8,000字の壁を超えることができたこと。

 外から分かるほどではないかも知れませんが、半年間のワークショップを通して、自分の中で「物語を書く」ということに対する意識がほんの少し変わったように思います。いくつかの書き方の技術も意識できるようになったと思う。

 そして、もう少し長い物語を書こう、書けるんだ、と自分を信じられるようになりました。長編小説を書く方からしたら、まだまだ短いでしょうが、これはものすごい進歩で、8,000から10,000、20,000と少しずつでものばして行きたいと思います。一度超えたのだから、次の壁もきっとこえられる。

 参加することができて、本当によかったと思います。ほしお先生、関係者の皆様に心よりお礼を申しあげます。

 書いて、もっと書いて、上手くなれたらいいと思う。
 頑張りたいです。

エッセイ No.072