ショートショート(と、朗読) 一番じゃなくても【SAND BOX 1099】
ー「なかなかだろ?」ー
子供の頃から万事負けん気が強くて、なんでも一番でなくては気が済まない性分だった。一種の業だ。当然なんでもなんて無理だ。悔しくて布団に潜り込んでは朝まで唸った。
夜明け近くによく夢を見た。いつも同じ夢だ。青い空が手が届きそうに近い。険しい山肌に緑が張り付いている。私は座ると黙って空を見上げた。
夢の場所が実在すると知ったのは高校生の時だ。地理の教科書の写真に驚いた。夢で立っていたのと同じ場所だ。「北岳」と書いてあった。「日本で二番目に高い山」とも。
この山も、一番にはなれないのか。私は思った。結局私は日本で一番ではない大学に行き、山岳部に入った。北岳に登ってみたいと思った。
初夏だった。小さな花が咲いていた。仲間達と声を掛け合いながら山頂に立つと、抜けるような青い空だ。
「なかなかだろ?」
どこからか声が聞こえた。
「一番じゃ、なくてもさ」
私は頷いた。順位なんてなかった。
「また来るよ」
空に向けて言って、山を降りた。
SAND BOX 1099 No.40
声のお仕事をされている(詩や小説も書いておられます)水上洋甫さんにお願いして、朗読をしていただこう、のシリーズ「SAND BOX 1099」です。
今月のイラストはuchakoさんにお願いしております。Xやpixivでイラストを描いておられる方です。
Xのアイコンもご自身で描いたイラストなのだそうです。共通の相互フォローの方がいるせいか、時折拝見しておりまして、素敵だな、とずっと思っていたのです。お引き受けくださって、大変嬉しく思っています。
抜けるような青空です!
(声を感じながら青空を見上げる感じでお描きになったそう)
一ヶ月、よろしくお願いいたします!