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140字小説集 三角定規はなぜ2つ(2023年1月のまねきねこ座)

 Twitterで毎月開催されている140字小説コンテスト「月々の星々」に参加しています。1月の文字は「定」。本文のどこかに「定」の漢字をいれます。応募数はひとり5本まで。1月の星々の参加記録です。


No.1

喫茶店で母と待ち合わせる。休日にいつも行く店。中に入ると店の人が「今片付けますね」と言う。他の席も空いているのに。「どうぞ」と窓際の席に通される。いつも座る場所。「指定席だね」母が小声で言う。「そんなのないよ」私が答える。店の人が笑顔で注文を聞きに来る。恥ずかしい。けど、嬉しい。

「指定席」
 同じ店に通い続けてしまうほうの人間です。習慣づくともう、ずっと飽きない。
 常連、とお店の方が認識してくださって、いつも座る席を早く片付けてくださる、なんてことも起こったりします。ちょっと恥ずかしい。
 でも、それって、自分で作った居場所なんだと思います。実家にいる頃、学生だった頃は与えらた居場所で安全暮らしていたけれど、常連席は自分で作った小さな居場所。ほんのいっとき、椅子一個分だけなんだけど。


No.2

「僕の方が人気があるね」三角定規の二等辺三角形が言いました。「左右対称で可愛いもの」「人気があるのは私」今度は直角三角形が言いました。「90度ほど美しい角度はありません」男の子が2つの定規を手に取りました。くっつけて線を引いて、ずらしてまた引きます。満足そうに言いました。「平行線」

「平行線」
 小学生の頃「三角定規ってなんで2個あるんだろう」と思っていました。ただでさえ忘れ物が多い私は持ち物の数を最小限にすることに日夜心血を注いでいたのです。そもそも彼らは筆箱に入らないのです。すぐどっかいってしまう。これ持ってくる意味あるの。せめて一個減らしてほしい。
 ある日、先生が「三角定規を二個組み合わせると平行線がひける」とおっしゃいました。なんと。おっしゃるとおり美しくひけます。しかし。しかし私は思ったのです。「分度器と定規を組み合わせてもひける」
 かくして三角定規は私のお道具箱から消えました。定規と分度器があればいい。家にしばらくおいてありましたが、ポケットにいれて移動している最中しゃがんで割ってしまいました。鋭い角がふとももに突き刺さってとても痛かったです。ごめんね、三角定規。

No.3

赤白ピンクの横縞のドリンクが来て娘が歓声をあげる。「邪魔」私のコーヒーが押しのけられる。スマートフォンを両手の指先で遠くに持つ。カシャリと音がした。「写真か」私が聞くと「季節限定だから」とこちらを見もせず言う。今度は何か打ち込み始めた。限定か。春には娘は東京の大学だ。今だけ、か。

「季節限定」
近所にスターバックスがありまして、通りがかるたびに「季節限定」の文字にそわそわします。お腹が冷えるので食べないのに。
「あれ食べた?」「限定商品!」などと言いながら写真をとってはSNSにアップする若い子達を横目に見て(誰かとお茶を飲む今を大事にしなよう……)とつい思ってしまいます。それからいつもおんなじブラックコーヒーを頼む自分を鑑みて、ああ、でも季節を一番楽しんでるのはあの子達かもなあ、なんて苦笑いしたりするんです。


No.4

定時に起きて散歩する。米を洗い窓を開け鉢植えに水をやる。昨日より空が青い。身支度をして仕事に行き、終われば帰る。「何が楽しみなの?」同僚に聞かれる。夕飯を作る。洗濯物を取り込む。シャツにアイロンをかけると背筋が伸びる。パソコンのキーボードを叩く。「何が楽しみだろう」と曖昧に笑う。

「定時起床」
『モーニングルーチン』を見るのが好きです。他の方の生活スタイルに興味があるんです。(ちょっと気持ち悪いんですけど)少しでも書いたりする時間が欲しくていつも自分の時間割についてうんうん考えています。何かいい方法はないものか。
勤め人の悲しさで帰宅すると頭がふらふらです。そこで早朝に書き物をする習慣付をしました。同僚に起床時間を聞かれると、たいてい相手が怪訝な顔をします。そんなに早く起きてどうするの? 無理してない? 楽しいのそれ?
 どうだろう。わかんないけど。
 でも、明日も早く起きるんです。


No.5

自由研究。1ヶ月間の定点観測の結果、河川敷に住む通称ノラ(又はボス、ミケ、ニャー)は周辺に住む複数の住人に餌を貰っていると分かった。どの名前で呼んでもにゃあと愛想良くなく。誰かがボスと呼んで探すと、ミケはあっちにいましたよと他の人が答える。結論。ノラはみんなの猫で、誰の猫でもない。

「定点観測」
集合住宅に住み着いた猫が、みんなに違う名前で呼ばれていたという記事を読んだことがあって、なんか、いいなそれと思いました。
散歩コースの河川敷にも野良猫がいて、早朝に餌をやりにくるおじさんがいます。
「ミケ!」「ノラ!」
叫んでいるのですぐわかります。にゃあ、とさっきまでベンチでおばあちゃんになでられていた猫が立ち上がっておじさんのもとに走っていって、「ああ、あれがミケなんだな」って思うんです。


月々の星々への応募作品はnoteでも読めます。
いろんな方が参加しているので、興味のある方はぜひのぞいてみてくださいね。

ショートショート集 No.008