ホスクラのせいで職を失ったAD

全国放送のテレビでもホストの番組が流れるようになり、一般の人にもその大まかな業務内容が知られるようになっていた。

ホストクラブからすればタダで宣伝できるのに対し、テレビ局側も製作費がほぼかからないで製作が出来るのだからお互いにとってウィンウィンであるこの手の番組はかなり増えつつあった。

そんな中歌舞伎町で有名店であるヒモーズにも取材の依頼が来ていた。 まずディレクターが店に現れて、一通り撮影の概要を説明する。

すると下っ端ADがハンディーカムより一回り大きなカメラを持って、 「これからよろしくお願いします。」
と挨拶してきた。

とても感じのいい青年だった。

・・・その感じの良さが時には仇となってしまう。

それからというもの毎日ADがカメラを持って営業風景を撮りに来たのであ る。

ジゴ郎には真面目に仕事をしている人間を見ると邪魔したくなってしまう傾向があった。

もちろん、ADが撮影している最中ずっとチャンスをうかがっていた。

初日はきっちりと彼のお仕事をさせてあげることにした。

二日目、シャンパンコールを入念に撮影する姿を見て、とりあえず一杯飲ませてみた。

ここでこいつは墓穴を掘ることになる。

「お酒は好きなの?」 という女の子の質問に対して

「はい。大好きです。」と一言。

この言葉はホストクラブでは禁句のうちの一つだ。

どんなに酒が飲めるホストでも決して口にはしない言葉である。
この言葉を発したその瞬間から標的になってしまうからだ。

標的になったらそれは大変で、シャンパン丸々2、3本一気で飲まされる。

このADは標的になってしまった。

シャンパンコールの最後のビンダはこのADが飲まされる流れにすっかりなっ てしまい、最初は楽しんで飲んでいたが徐々に新人ホストと同じような表情に なってヒモーズに顔を出すようになってしまった。

このADは人がよく、頼まれたら断れない性格が災いとなり次々と酒を盛られては飲んでいた。

一週間ほど経ったころだろうか。 急にADが顔を出さなくなって、企画倒れかとだれもが思った。

すると、企画倒れは企画倒れだがADが会社を飛んだことによる企画倒れであることが判明した。

飛ぶ前に現場を変えてほしいと懇願していたそうだ。

テレビ局直属のADになるのは大変なのに残念ながらその努力もむなしく彼は 職を変えてしまうという結末を迎える。

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