階段

I

君の手が
暗い光を放つ手摺りに触れた時
僕はかつてここが
深い森の中であったことを思い出した

深い深い森の中
梢が幾重にも重なり合い
僅かな光もその葉に捕らわれて

延々と編み上げられた静物の
誰の目に触れることもなく
誰をも逃さぬ陰影の奥底で
君は白く柔らかい光を放っていた

深い深い森の奥
存在し得たはずの全てから
誰一人に気づかれることもなく
厳かに築かれた景色の中で

澄んだ街の匂いがあたりを満たし
家々の明かりが寄り添って
密やかに営まれる夜が溶け出している

そして隔たれた
どこまでも流れ落ちる円柱に
頼りなく伝わる暖かさを手繰り寄せ
見上げた先に君はいた

II

君の手が
暗い光を放つ手摺りに触れた時
僕はかつてここが
深い森の中であったことを思い出した

深い深い森の中
踏み越えられない一段を
折り重なる草木が覆い隠し

延々と寄せては返す静寂の
誰に感じ取られることもなく
誰をも離さぬ夜の奥底で
君は淡く燃える灯を背に佇んでいた

深い深い森の奥
存在し得たはずの全てが
誰一人に気づかれることもなく
撚り合わさるように像を結び

美しく透明な底流があたりを満たし
深奥から溢れ出る輝きが
消えゆく二人を内に孕み瞬いている

そして隔たれた
どこまでも零れ落ちる瞬間に
あるがままの姿を手繰り寄せ
見上げた先に君はいた

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