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バイクエッセイ①「Dax125、松島、冬」

 冬はバイカーにとって敵だらけだ。寒さ、雪、凍結……特に積雪や路面凍結があると走れないので、その場合そもそも戦いにすらならない。
 が、少ないながらも味方はいる。とりわけ日光は優しい。
 夏は逆に強烈な日差しとなって無防備に地べたを這う僕らを焼くが、冬は寝返って癒してくれる。太陽は、というか自然は年単位でツンデレだ。そんな世界に裸を晒して走る僕らはツンデレに振り回される運命にある。「でもこういうの嫌いじゃないんでしょ?」と問われたらきっと否定できないから、おそらく僕らの性癖は歪んでいる。

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 運良く欲しかったバイク——Dax125(赤)を見つけて買い替えてから、しかし運悪く天候に恵まれず、遠出をする機会がなかった。そして12月も下旬に差し掛かった頃、ようやく晴れて予定の無い日、僕と赤犬は松島まで走った。

 宮城県仙台市から松島までは、個人的にバイクで往復するにはちょうどいい距離で、また海岸沿いは見晴らしがいいため気持ちがいい。また松島はさすがに日本三景に数えられているだけあって、見慣れている身からしても素晴らしい景色だと思う。よってバイカーにはおすすめのスポットだ。

 ただそれだけに休日は混雑する。この日は平日だったが、年末で冬休みということもあってか、松島のメインスポットである松島海岸駅前は割と人出があった。

 そこも観光するにはいいが、バイクで走るなら、おすすめは松島近郊、特に奥松島と言われる、松島と石巻の間に位置するエリアだ。具体的には野蒜海岸や、太平洋に突き出た宮古島あたりが良い。この付近は信号も少なく交通量も多くないので、走りを楽しむにはうってつけだと思う。

 野蒜や宮古島には行ったことがあるため、この日はその手前にある「手樽海浜公園」を目指した。

 松島湾は湾内に島が散在しているせいか、はたまた単に太平洋側だからか、基本的に海が凪いでいて、静かで心地が良い。

 手樽海浜公園あたりはちょっとした岬になっているので、その先端の八坂神社まで足を伸ばしてみる。

 末詣という言葉がある。一般的にあるのかはわからない。僕が作った。
 初詣ならぬ末詣。年末にお参りに行くこと。
 初詣は人が多い。なので神様も忙しいはずだ。であれば暇な年末に行った方が願いを聞いてくれるのではないか? という考え。また単に人混みが苦手なので避けたいという理由もある(というかそれがほとんど)。
 おみくじも先んじて置いている場合もあるので、人混みを避けて詣したい人には末詣はおすすめできる。

 八坂神社で引き返す。少し登ると視界が開けて、松島湾を見下ろせる。生まれたてのダックスにお気に入りの海を見せる。

 ダックス125に乗り換えて特に感じた優位な点のひとつは安定感だ。海沿いで冬で、つまり風が強いのにふらつきがないから怖くない。低回転で粘る時、エンジンが低く重く唸る。それが落ち着いて賢い犬を想起させる。跨っているとプレスフレームが犬の背にも見え、たまにぽんぽんと労うように叩きたくなる。
 イメージとしているだけあって、ダックス125は犬感が強い。走行に不安がなく、乗り出しやすいサイズなこともあり、ちょっと乗らないでいると、「ああ散歩に連れていってやらないとな」と思わせてくれる。

 さて、次はどこを散歩させてあげるとしよう。

その分活字を取り込んで吐き出します。