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珈琲専門館 伯爵 (巣鴨) #最近行ってよかった店

このニュアンスの店名の喫茶店は数多存在するが、「伯爵」とは、絶妙と思う。

東京は山手線、JR巣鴨駅から徒歩1、2分。 

"年長者の竹下通り"こと、巣鴨地蔵通り商店街とは反対方向に、この店は位置する。
公式ではないが、1978年に創業との情報がある。

特に何することも、行く当てもない休日に、その退屈な様を惜しむことなく全面に出した私を見かねて、とある有名喫茶店チェーンのモーニングを食べに行こうと、妻が言う。

そこでも良かったのだが、もう一つ、何かしらのスパイスを欲した私は、以前より少し気になっていた、この伯爵を提案し、採用に至った。

私たちの住まいはJR大塚駅と巣鴨駅の中間地点に位置し、越してきて1年ほどである。

巣鴨駅、およびこの店までは、徒歩で15分ほど。

最寄駅は別の路線であり、また、たまにJR線を利用する際も、大塚駅の方が若干近かったり、その他諸々の都合も良いため、巣鴨方面へ行く頻度は割と少ない。

朝8時過ぎに家を出た。

その方面には、ちょっと引いてしまうような大きな邸宅があったり、高貴な雰囲気を醸し出す一角が存在する。
そんな感じが、伯爵という名の喫茶店へ行く気運を高めてくれる、というのは言い過ぎであるが、何にせよ、退屈はしない道のりである。

大通りに出てしばらくすると、それを隔てた先に、店名が描かれた赤い看板が見えてきた。

青になってしばらく経っていたであろう信号を悠々と、難なく渡り切る。
これは歩行者の青信号の時間が長めにとられた、この土地特有の設定の恩恵である。

モーニングの立て看板が出ている。
「AM7:00〜PM2:00」
そう、こんな早くに来る必要はなかったのだが、これは気分的なもので、何となく10時くらいまでに食べるものをモーニングと言いたい。

初めての店であるから、少し緊張しつつ中へ入る。

事前にネットで見ていたイメージ通りの雰囲気と空気感の中から、ピシッとした格好の店員さんが出迎えてくれる。
「お好きな席へどうぞ」と促されるも、まだ客が疎らの広い店内に、様々なタイプの席が並び、少々迷ってしまう。
テーブルがゲーム機になっているタイプのものに少し興奮を覚え、一旦座りかけるも、気を取り直し、シンプルで無難な席に落ち着く。

2人とも、モーニングのメニューの中からサンドイッチとドリンクのセットを選び、私はアイスコーヒー、妻はアイスティーを注文。

しかし最初、妻はモーニングとは無関係のドリアのセットを頼もうとしていた。
他意はない。

ここで、改めて店内を見回す。
いろいろなタイプの灯り、照明、そして天井のステンドグラスにより、上品で絶妙な明るさが作られている。
余裕のある座席と通路、壁には絵画が飾られ、大きな花瓶や調度品のようなものが並ぶ。
そして、それを置くためだけの台などで、たっぷりと場所がとられており、その惜しみない空間の使い方に、店名に恥じない優雅な姿勢を感じる。

シニアの姉様方の女子会、年配の2人連れ、手慣れた仕草でラックの新聞を手に取り席へ着く常連と思しきおじさん、流行りのレトロを求めて来たような若者、ついでに私たち中年夫婦など、客層は様々。

騒がし過ぎず静か過ぎず、それがちょうど良く、心地が良い。
この時点で既に、やはり来て良かったと思った。

程なくして、注文の品が来る。
美味しかった。
こう言っては何だが、私は喫茶店にさほど、味を求めない。
雰囲気が良ければ、それで良いと思っている。
何なら昔、通っていた喫茶店のコーヒーは好みではなく、あまり美味しいと思っていなかったが、それでもその店が好きで、何らかのルートの行く道すがらでもなく、わざわざ行っていた。

山登りやキャンプなどで飲むインスタントコーヒーが美味いみたいなことだろうか。違うかもしれない。

これだと伯爵が実際にはそうではないみたいになってしまうが、シンプルなサンドイッチは素直に美味しく、アイスコーヒーも銅製の器が相まって、いや、多分それ抜きにしても普通に美味しく、むしろ好みの味であった、なんてことを言うのも、コーヒー専門店に対して、おこがましい限りである。

実は裏手にも入口があり、その隣に定員1名の喫煙室がある。
それも非常に良かった。
1畳ほどの広さに椅子と灰皿が置かれており、そこに腰掛け、ガラス越しに外を眺めながら、気兼ねなく、ゆったりと一服できる。
レジ脇に紙巻きタバコが置いてあるのも、趣を感じる。

小1時間を過ごし、店を出た。

何かをするためにそこへ行く、あるいは一旦そこで休憩をするという活用の仕方が、喫茶店にはある。

しかし「伯爵」は、この場所自体が目的で、それで十分と思った。

今現在は暇な部類の人間であるが、仮に多忙だったとしても、その合間を縫って、わざわざ行きたいお店である。

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