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物語

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2021年2月の記事一覧

凛と

時間が消える時間を大切にね 祖母はそう言い遺し 笑窪の窪みを沈めた 大きな山が崩れていくように 昔見た悪夢が世界を包んで 崩壊の中で優しさを見つける

明るい窓に朽ちる世界

私は私の自慢ばかりで顧みない 私を自慢するあなたに私を見せたい あなたは世界が終わった様な顔で 私のことを見ていない だから私は高らかな笑みと手振りで いかに凄いかをパフォームする 笑みは多種多様あるはずなのに その時は1種類としか思えない 私は息継ぐ間もなく喋り終えると コーヒーで喉を落ち着かせる 悲しみの空気が渦巻いていても 香りも雰囲気もカフェインで霧消する ああやってしまったなと 気づく日は来ないまま 私たちは疎遠になってしまった

短い日々

短い日々を 点と点でつないで 長めな毎日 に替えていかなきゃね さよならしても 死んでなきゃ会えるさ 一度だけメール 返してよ ぼくも また 思い出すから そのときは よろしくね

雪だるま

雪の山に埋もれ 月が出るの見ている 除雪車のピポパポ 遠くどこか鳴ってる 朝になるまでに 溶けてなくなれば 夜が更けるまでに 犬に見つかれば

消灯

電気消し忘れ眠る夜 手術室に乗った夢ごこち 朝か夜かすら霧になる 冗談みたいに喉渇く 上手に寝るにはコツがいる 夢は観るなと血が強請る 覚めてはいけない人もいる 時限爆弾に火が落ちる 目覚まし時計を壊す夜 ブルーライトが色落とす 真っ暗なままで起きている 本当はずっと起きている

あずき

新品のスニーカー白に黒がついて 細菌は蔓延していつ間にかもう中 アノ子ハ拒否シタ アノ子ハ拒否シタノニ私ハ 水を飲んどきゃ気分はオーライ 脳まで乾いて赤い水蒸気 恐ロシイ夢デアレ

木陰でひっそり

怒られないように わたしらはひっそり せつない物語 なぞるようにひっそり 痛み分けもせずに 治るようにひっそり 自由の羽根やすめ 木陰でひっそり 草の上に座って 細い糸をたぐって 未来を引き寄せて 過ぎる日を見ている 絵の具だけ揃えて 薄い色を重ねて 浅い海に沈めた 船で旅をする 思いは逸れない 言葉は溺れない 視界はふせげない 飛躍におどけない

上を向いて歩こう

田中くんはいつも上を向いている。 生まれつき肩が凝りやすくて こうしてないと肩が痛くなっちゃって 頭痛になるんだよ。いやなんだよな。 テストのときも 怒られてしょげてるときも みんなでゲームしてるときも 田中くんはいつも上を向いている。 そのせいか、身長もグングン伸びて 中学ではバスケで県代表にもなった。 そのままスポーツ推薦で高校に行くんだけど 肩凝りがひどくなってバスケはやめた。 学校にも来なくなった。

ホーリー

どうか私には要らないから 美しい魂を差し上げてください 見つめれば恥ずかしい身体に 飾り程度の彩りをください 不明点を正せばそれはもう 私が何者でもなくなってしまいます 追放されてもいいのです ただ木漏れ日のような眼差しと 水辺を揺らす波紋のような 無意識の美しさに纏われたい 祖国を思い返すこともありません 傷や飢えの苦しみを忘れるために 思い出すだけの記憶があれば 私はいつまでも僅かな希望を 失わずにいることができるのです

ブルーハワイの国

黄金色のまちに向かって 淡い色したバスが走る オンボロギターかき鳴らせば リンゴが地面に転がった 
 夕陽がちょうどいい角度 寂しげな顔が影になる 窓から吹き込むぬるい風 錆びれたチャイムがリンと鳴く 
 車掌さん 車掌さん ここはいったい どこなんだい ここは南 まちの南 ブルーハワイの夢の国

ワーキングホリデー

英語が話せたら たくさんの意味がわかってしまうのか 世界を切りとって 満足いくまで悦にひたっていたい 飽き足りない日々を 背中におぶって 正直な花が 私は生きたいと咲いている

風が吹いて

無軌道な夜風が吹いた あちらは畦道経由で峠へと こちらは大気圏経由で星屑へと なにも揺らすことなく なにも奪うことなく 選ぶことも諦めることもなく それはただ吹いた 海にも空にも 過去や未来があり 膨大な情報と歴史が 存在しているというのに それらは刻まれない ただ風が吹いて それをなぞる ただなぞるだけなのだ 鮭は失敗だった どうして鯵にしなかったのだ 秋にくたびれた男の背中に 丸みを帯びた風がふふふ