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コインランドリーに洗濯物を取りに行った。信号を渡ってランドリーの前に来たところで、前を歩いていた小学校低学年くらいの女の子が小銭をバラバラと落とした。俺は百円玉を一枚拾った。直接、彼女の手に渡そうと思ったが、彼女がビニール袋に小銭を入れながら拾い続けているので、俺もそこに入れた。「すみません」とたどたどしく申し訳なさそうな声で言われた。整然とはしていないアスファルトの凸凹に、まだ小銭があるような気もした。けどなんとなく、完全に足を止めて一緒に拾うということができず、それ以上は探さずランドリーに入った。ランドリーの窓からは、小銭を拾い終えた女の子が、下を気にしながら何度か振り返って、横断歩道を渡っていくのが見えた。

ほどなくして、ランドリーの前を通った女性が屈んで何かを拾った。小銭だ。女性は小走りで女の子の歩いて行った方へ向かっていった。女性は、女の子が小銭を落とした始終を見ていたのだろうか。そういうことなのだろう、そういうことだといいなと思った。

女の子が持っていたビニール袋は、スーパーの袋詰めカウンターでロールされている、ミシン目で切り取って使うあの袋だった。そこに駄菓子と小銭が無造作に入っていた。駄菓子と小銭。それは小学生の「全部」と言っていい。「全部」が入った、持ち帰り自由のビニール袋。

乾燥機から洗濯物を取り出し、袋に詰めてランドリーを出た。信号待ちの間、足元をくまなく見る。

大丈夫、もう落ちてない。全部拾ってある。

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