サウナ室内装の意匠登録について

はじめに

先日、tune株式会社さんが手掛ける「一人用サウナ室の内装」が意匠登録されました。

法改正により、今までは登録の対象ではなかった「建物の内装」について新たに保護が及ぶことになりました。意匠法8条の2は、「店舗、事務所その他の施設の内部の設備及び装飾(以下「内装」という。)を構成する物品、建築物又は画像に係る意匠は、内装全体として統一的な美感を起こさせるときは、一意匠として出願をし、意匠登録を受けることができる。」としています。これにより今まで登録できなかった「サウナ室の内装」についても意匠登録が可能になりました。

意匠登録とは?

「意匠」とは物品の外観です。更にいうと、「意匠」とは、「物品の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの(意匠法第2条第2項より抜粋)」です。要はモノの見た目、外観のデザインのことです。その「意匠」を「意匠権」として登録することができるのが意匠登録の制度になります。「意匠権」は登録されると、権利が無い第三者が事業として同じか又は類似した物を作ったり使用したりすると意匠権の侵害となり、事業の差し止め、民事の損害賠償、刑事罰等の適用があります。ところで内装は物品の外観ではありません。サウナ室の外観と言ったら今まではボックス状の箱が外観となり、意匠登録の対象となっていました。従って登録されるのはバレルサウナや、アウトドアサウナ等の独立した「ブツ」として流通可能なものに限定されていました。しかしながら我々需要者の視点から言うと、サウナ室内の意匠は一番に目に触れるところであり、そのレイアウトやデザインはサウナ室(の内装)という商品として保護対象に足り得ます。

意匠登録による影響範囲は?

意匠登録されているサウナ室だからといって一般のサウナーの方の利用には当然影響がありません。ただ、一旦内装の意匠が意匠登録されると、意匠権等を有するもののみがそのデザインを採用した内装を作ったり、営業を行ったりする事ができるようになるので、将来いわゆる「大人の事情」でNGとなってしまうレイアウトがあるのかもしれません。

サウナ室の内装だけで意匠登録は…

なかなか厳しいのではないかと思います。上記のtune社さんの登録は「一人用サウナ室」に限定されており、さらにサウナ室+シャワー+整いスペースの構成をもって登録に至っています。これは、サウナ室単体での内装レイアウトやデザインで登録を受けることが難しいことを物語っています。既にサウナ室のスタイルは何個かの類型にハマッていて、デザインも似たりよったりのものが多い気がします。よっぽど奇抜なレイアウトとしない限り意匠登録の要件(新規性や創作非容易性)のハードルを超えるのは厳しそうです。また、意匠権の権利範囲を必要以上に広くすることは、不当に他者の権利を制限し、経済活動が減退することにつながります。従って思ったほど強力な権利ではないとの個人的な印象です。例えば上記のtune社さんの意匠の構成要素としてととのい椅子が表されていますが、この椅子の位置や方向を変えるだけで別意匠になる可能性があります。

ダメ、絶対!デッドコピー

意匠登録をすれば当然その意匠権に基づいて、同一又は類似の内装を有する者に権利行使(差止請求や損害賠償請求)が可能です。願わくば保有する権利に基づいてならず者を排除したいところですが、そうも行かない場合があります。そこで、不正競争防止法という法律があるのですが、そこでデッドコピーを禁ずる規定があります。不正競争防止法2条1項3号に禁止される行為として「他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為」です。知る範囲ではこの規定を適用すべく、内装について争われた判例を知らないのですが、意匠登録されていなくても商品のデッドコピーは訴えられる可能性があるということです。(ただし、物品の機能を確保するために不可欠な形態や、ありふれた形態については除くといった制限等があります。)

おわりに

サウナ室は高温環境下ゆえ、極めて研ぎ澄まされた機能的な空間であると思います。従来その機能性ゆえデザインの自由度が小さかったように見えていたのですが、最近は色んな趣向を凝らした特色あるサウナが出始めました。そういった特徴あるデザインを保護するためにも内装の意匠登録の効果的な活用について一度は検討する価値はありそうです。サウナ室内装の意匠登録については引き続き情勢をウォッチ&レポートしていきたいと思います。


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