サウナ愛好家のための極めて簡易な商標Q&A

最近、SNSなどで商標に関する話題が増えてきました。サウナ界隈も例外でなく、TTNE株式会社が「saunner」を商標登録したり、「テントサウナ」は実は株式会社メトスが既に取得済みであったり、といったことが明らかになったことも少なからず影響しているでしょう。ここでは、商標法に関してサウナ愛好家が安心してサウナを楽しむにあたって、最低限知っておいた方がよい予備知識を少しばかり提供します。簡単に説明したいため厳密さに欠けると思います。もっと役に立つサイトがあればそのサイトに譲ります。教えてください。念のため申し上げますが、ここを見て何か不利益を被ったとしても当方は責を負いかねます。参考までにしてください。

Q1.twitterで「saunner」は使えなくなるの?

まず、SNSやブログなどで「saunner」などの登録商標が使えなくなるかという問題ですが、結論から言うと、皆様が普段日常的にツイートやブログ記事にする範囲では今後も自由に使えます。もちろん「saunner」に類似する「サウナー」についても同様です。商標登録が問題になるのは、商用で登録商標を使用する場合です。商標の使用とは、例えば「saunner」というロゴを付けたサウナハットを作って、ネットショップで販売するなどの行為です。これは他の登録商標でも同じで、商用でない場面、会話、SNS、ブログの記事などで使用する分には全く問題ありません。ただし、ブログでアフィリエイトをやっている人はこの限りではありませんので要注意かもしれません。普通にサウナを日常的に楽しんでいる人にとってはこれでほとんどのモヤモヤが解決するはずです。

Q2.商用ってどういうこと?

より正確に言うと「登録商標(含類似)を(指定商品等に)使用する」ことです。ここで、「商標」とは「業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの」(商標法2条1項)です。ポイントは「業として」の部分です。業としてというのは、事業として、という意です。ですので、「saunner」のボックスロゴが付いたサウナハットを手作りした場合でも、単に自分で使用するだけであったり、無料で他人に譲るっていうのは事業ではないので「業として」に当たらないのでセーフです。「使用」については、そのパターンが法律で決められています。

商標法2条3項1号~10号

また、使用とみなされる行為として37条1号~8号が規定されています。

上記のパターンに当てはまると「使用」にあたります。ただ見ても理解しづらいと思います。販売行為が「使用(譲渡)」に当たるのはわかると思います。気を付けなければいけないのは商品そのものに直接商標を付す場合だけでなく、その商品の広告に商標を表示することなども「使用」にあたる点です。ブログに登録商標を含むレビュー書いてアフィリエイトのリンク張る場合なども使用に当たる可能性が高いです。

Q3.お金の支払いを要求されたのですが?

突然知らない人から「あなたのブログで使用している○○はわが社の登録商標ですので、△月×日までに○○円を当方の口座に振り込んでください。さもないと商標権侵害で裁判所に訴訟を起こします。」という趣旨のメールが届く、そういった事例があります。こんなとき、どうすればよいでしょうか。「まず、○○は確かに登録されているか特許庁のホームぺージを調べましょう」とかものの本に書いているかと思いますが、その○○が登録されていようといまいが、そのブログが商用目的でなければ商標権侵害は起こり得ません。ブログ内でとある商品を紹介してたまたま登録商標○○を使っていたとしてもアフィリエイトのリンクを張ったりしていない限り、商用には当たらず、商標権侵害になり得ません。上記事例はかなりざっくりとした要求になりますが、中には「登録商標を使用している者同士でアライアンスを組みましょう。とりまとめを私どもが行いますので会費△△円を支払ってください」などと比較的個人でも支払いやすい少額の支払いを求めるといった姑息な例もありますので、うっかり支払ったりしないようにお気を付けください。

Q4.「アレ」な品物を譲り受けたのですが?

古い言い方ですが海賊品などを譲り受けた場合、譲り受けた人は商標権を侵害しているといえるのでしょうか?上記の通り商標法では「使用」をしっかりと定義しており、「使用」する場面で侵害となります。基本的には「譲り受け」は使用に挙げられておりませんので、侵害行為とはなりません。ただし、譲り受けた海賊品を、メルカリで転売しようと出品したとたんにアウトになりますので注意してください。

Q5.マグカップに「saunner」はアウト?

少しだけ「商用」に当たる場合の話をしておきます。サウナハットを制作して「saunner」の文字を刺繍してネットショップで販売することを考えます。「saunner」はいまのところTTNE株式会社の登録商標ですので、商標権侵害になる場合があります。では、マグカップに「saunner」のロゴを付したものを販売することを考えます。これは商標権侵害になるでしょうか?最終的には侵害になるかどうかは裁判の場で判断されますが、商標権侵害と認められる可能性は限りなく小さいです。なぜでしょうか?商標権は商標(マーク)と指定商品・役務(商品・サービスのカテゴリ)が組となって登録されます。商標権侵害となるのは登録商標かそれに似た商標を指定商品・役務とこれに類似する商品・役務を使用(商用)した場合です。TTNE社の登録商標(第6218993号)「saunner」は、指定商品「男性用・女性用及び子供用の被服,つばつき帽子,つばなし帽子,帽子,靴下」の範囲で認められています。「サウナハット」はこの中の「帽子」に該当するので商標権侵害の可能性が高いのですが、マグカップが該当しそうなカテゴリはこの中にはありません。おそらく「サウナハット」と「マグカップ」は類似カテゴリの商品ではないでしょうから、「類似する商品・役務」の使用にも当たらず、侵害となる可能性は低いでしょう。登録商標だからと言って何でもかんでも侵害となるわけではありません。

Q6.テントサウナを普通に「テントサウナ」って書くとまずい?

そんななわきゃないです。テントサウナはテントでできたサウナ、そのまんまですよね。それをテントサウナといわずにどう言うのでしょうか?「テントサウナ」は株式会社メトスが取得していますが、サウナ用途のテントのことを「テントサウナ」と記すのは自由です。これは商用で用いられる場合にも適用されます。商標法には登録された商標があっても、普通名称や、テントサウナのように「そのまんま」の言葉の使用を担保する規定があります。

商標権の効力 3.商標権の効力が及ばない範囲

https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/seidogaiyo/shotoha.html

この規定は、条件があって「普通に用いられる方法で表示」する場合に限られます。「普通」っていうのもよくわからないですが、例えば突飛な書体で登録された登録商標にわざわざ似せて表示した場合にはこの規定の適用は受けられないでしょう。

Q7.®をつけなきゃいけないの?

商標法では、「商標権者、専用使用権者又は通常使用権者は、…中略…その商標にその商標が登録商標である旨の表示(以下「商標登録表示」という。)を付するように努めなければならない。」との規定があります。商標登録表示とは、「○○(商標)はどこどこの(会社)登録商標です」と記載したり、簡単には「®」とかのマークを商標のそばに記すといったものです。ここで、「努めなければならない」のは商標権者と使用権者(ライセンスをうけた者)です。よくあるのが、商標権者から、「これはウチの登録商標だから、「○○(商標)はどこどこの(会社)登録商標です」との記載を入れろ」、という要求です。特に契約などしていない限り、入れたければ入れてもよいし、入れなくても法的には問題ありません。ちなみに指定商品「帽子」についての登録商標〇〇を保持している者××が指定商品以外の「マグカップ」を販売するネットショップのページに「〇〇は××の登録商標です」などと表示すると虚偽表示とされ、罰則がありますのでご注意ください。

Q8.著作権侵害だといわれたのですが?

まず著作権法は商標法とは違います(笑)。需要者の利益を保護する商標法とは違って、著作権法は創作を保護するための法律なので商用か否かに関わらず著作権侵害となる場合があります。もちろん商標(ロゴやマーク)にも著作権が別途発生しますから、お気を付けください。よくあるのが、有名なロゴマークを自分のアイコン画像にしたりする場合、そのロゴマークの著作権の侵害になり得ます。

Q9.誰に相談したらいいの?

だいたいのケースでいきなり訴状が届くことはまずありません。まず、お手紙(警告)が届きます。メール、DMなどの場合がありますが、相手が本気なら内容証明郵便で届くでしょう。実感ですが、メール、DM、通常の封書などで届く場合には的外れな要求が多いです。それだけにこの段階で安易にお金を支払ったりすることのないようにしたいものです。身に覚えがある場合、まずは特許庁のHP(正確にはj-platpatというサイト)で相手の商標が本当に有効であるかぐらいのことは調べておきます。その時、「指定商品・役務」に関してもできればチェックしましょう。警告対象の品物が「マグカップ」なのに実は登録されているのは「帽子・衣類」だけだった、というケースが良くあります。この場合、侵害に当たる可能性は低いです。ただ侵害の判断についてはケースバイケースの事項も多いので、専門家に相談した方が良いと思います。このときの専門家は弁護士か弁理士になるでしょう。割と専門が細分化されているので、医者とおなじで専門外の領域には疎い場合が多いです。なので、商標が得意な弁護士か弁理士に依頼するべきです。その辺のところはHPを見るとなんとなくわかると思います。

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