海と月

# 01 不思議なおじいさん

霧のかかった池のほとりに白い服の女性が立っている。

小舟がやってくる。

小舟には少女と少年が座っていて、少年は少女を降ろす。

すると、白い服の女性が彼らに何か話しかけた。

「こっちに来なさい。この森の奥に行くと、とても美しくて、この世にはないすてきな宝物があります」

少女と少年は、その言葉を聞いて森に入った。

森の中は薄暗くしーんとしていた。

まるでもののけの住む森のようだった。

しばらく歩いて行くと、小さな小屋が見えた。

その小屋からオレンジの明るい光が漏れていた。

2人がおそるおそる窓から中をのぞくと、

白くながいヒゲをたくわえたおじいさんが木彫りをしている。

おじいさんが掘っているのはマリア様の像のようだった。

少女と少年が勇気を出して小屋の扉を叩くと、緑の帽子をかぶって白いヒゲをたくわえ、メガネをかけたおじいさんが出てきた

「何の用だい?」おじいさんが聞いた。

少女が答えた。

「湖のほとりで白い服を着た女の人が、森の奥に宝物があると言ったんです」

少年は少し怖がっている様子だった。

おじいさんは、

「白い服の女性?もしやこんな感じかな?」と

自分が掘っていた木彫りのマリア像を見せた。

少女は驚いて答えた。

「そうです、この人です!」

おじいさんは少し考えてから、

「とりあえず中へお入り」と言った。

少女と少年は中に入った。

おじいさんは、しょうがのクッキーと一緒に温かいヤギのミルクを出してくれた。

少年と少女は、「ありがとう」と言って、ヤギのミルクを一口飲んだ。

おじいさんは立ち上がり、別の部屋から何かを持ってくる。

それは凝った装飾が施された布張りの箱だった。

「実は、これはある旅人が置いていった物でな、

いつか白い服を着た女性に導かれた者たちが来る。その時、渡してくれと頼まれたんだ。

それまで中を見ず大事に保管してくれとね。

わしはまだ一度も開けたことがない。」

そう言って、おじいさんは少女にその箱を渡した。

少女は、少し驚いた様子で、その箱を受け取る。

突然、少女の目から大粒の涙がこぼれた。

「何だか懐かしい気持ちがする」

少女はそうつぶやいた。

おじいさんにお礼を言って、2人は来た道を戻った。

少女は大事そうにその箱を抱えていた。

少年は少女を守るように歩いていた。

もうだいぶ日が落ち、あたりは暗くなっていた。

湖に出た。

あの小舟がなくなっている。どうしよう…

2人は途方にくれた。あれがないと帰れない。

もう一度、あの白い服の女性が現れてくれないだろうか。

そう思っていると、森の方からおじいさんが追いかけてきた。

何か持っている。

おじさんは息を切らしながらこう言った。

「これを忘れていたよ。これも渡すように頼まれていたんじゃ」

おじさんがそう言った途端、

白鳥が2羽、小舟を引いて現れた。

少年と少女は、おじいさんにあいさつをして、急いで小舟に飛び乗った。

「暗くなったら帰れない。急がないと。」

少年はおじいさんに手を振り、急いでオールをこいだ。

何とか向こう岸に辿りついた少年と少女。

不思議だ。

ここは公園だったはずなのに、あの森はなんだったんだろう。2人はきつねにつままれたような気分だった。

そう…

そこは確かに、公園のボート乗り場だった。

(公園)

2人は池のほとりに立って、向こう岸を見ようとしたが、霧に覆われてしまい、あたりは真っ白だった。

仕方なく、2人は手をつないで湖をあとにした。

(バス)

家に帰るバスの中で、2人は黙りこくっていた。

少女の膝には、あのおじいさんがくれた箱が置いてある。

少女は大事そうにそれをなでていた。

少年は音楽を聴いている。

バスの窓からソウルの町並みが見えてきた。

もうすぐ家に着く。

2人の住む街は、ソウルが一望できる丘の上にあった。

バスは急な坂をどんどん上っていき、

立派な邸宅がある通りで止まった。

この街まで来る乗客はほとんどなく、

乗客は2人だけだった。

バスを降りた2人は、しばらく歩いて、

バス停の近くの公園でベンチに座った。

もう日はとっぷりとくれて、少し肌寒い。

不思議な森での出来事についてそれぞれ考えている様子で、2人はただぼんやりときらめくソウルの町並みを見下ろしていた。

20分ほどして、少年が「帰ろう」と言い出した。

少女は黙ってうなずき歩き出す。

1つ目の角を曲がると、赤い屋根の韓国風一軒屋が見えた。

少女の家だ。

家の前まで来ると、「また明日」と少女が言った。

「ああ」と少年は、ぶっきらぼうに返事をして、来た道を戻る。

少年の家は、先ほどのバスが止まった立派な邸宅の並ぶ地区にあった。

       

#02 箱の秘密

 

家に入るとエプロン姿の少女の父が待っていた。

 

少女は「ただいま」も言わず、おじいさんからもらった箱をテーブルに置くと、

「これ、何か分かる?」と聞いた。

 

すると父は驚いた顔で、「これ、どうしたんだ?」と聞き返す。

 

少女は責めるような口調で続ける。

「それより、これ何か分かるの? 何なのよ?」

 

 

少女の父は「ひとまず座ろう」と言って、

古めかしいキッチンでコーヒーをいれ始める。

 

食卓にはころんとした白いマグカップに入ったコーヒーが2つ置かれ、

少女と父は、食卓の端と端に向かいあって座った。

 

少女の父はしばらくの間、しかめ面で箱をじっと見つめていた。

すると突然、こわばっていた表情がふっと崩れ、

父の目から涙がこぼれだした。

 

少女はおどろいていた。父が泣いたのを見たのはこれが初めてだった。

しばらくして父が語り始めた。

 

(少年の家)

 

少年は暗い部屋に座っている。

家には誰もいない。

 

少年の家はお金持ちで、山の上でも大邸宅に住んでいた。

両親は健在、韓国ドラマにもよく登場する財閥一家だ。

 

少年と少女は同じ山の街に住んでいたけれど、

2人の住む世界は全く違った。

 

少年は今日起きた不思議なできごとを思い返していた。

あの森はなんだったんだろう。

あのおじいさんは?

僕らは確かに公園でボートに乗っていたはずなのに、

なぜあんな森に迷い込んだんだ?

 

少年は訳が分からなくて混乱していた。

「夢だったのかな」

ふとポケットに手を入れてみた。するとおじいさんが彫っていた木彫りの木くずが出てきた。

「ありえない、やっぱり本当だったんだ、あの森は…」

 

# 少女の家

 

食卓のランプのアップ。

 

「この箱はもともとお前のおばあさんの物だった。

おばあさんは日本人で実家は神社だったんだが、

おじいさんとお見合いをして韓国へ渡ってきた。

おばあさんはいつも実家の神社に帰りたがっていた。

箱のふたを開けると、小さなペンダントと、

白いヒラヒラのついた木の枝のようなものが入っていた。

これはおばあさんが自分の娘…、

つまりお前の母さんに託したものだ。

でもお母さんが亡くなった時、探したがどこにもなかった。

それがなぜここに…?」

 

父は不思議そうに首をかしげていた。

 

 

少女は今日の出来事を話そうかと思ったけれど、

なぜか今は話してはいけない気がしてやめた。

 

そして、父にはどこでもらったかはまた今度話すと言い、部屋に引っ込んだ。

 

 

(部屋)

 

ケータイを見ると少年からおやすみとメールが来ていた。

少女は頰が緩んだ。

 

少女の名はマイ。少年はシンジと言った。

 

(違う場所)

 

少女は思った。なぜ私はここにいるのだろう。

気づくとそこは暗い部屋の中だった。

 

おっかしいな。さっきまで、自分の部屋にいたはず。

そう、少年とメールをしていて…

 辺りを見回すと、目の前に扉があった。

マイはそこを開けてみた。

すると外は明るく、神社の境内のようだった。

中に入ってみよう。そう思った。

 

中から何か聞こえる。

 

中年の女性が、お祓いのようなことをしていた。

マイは、少し離れた場所からそれをぼんやり見ていた。

 

するとその女性がこちらに気づいた。

「●●ちゃん?」マイではない誰かの名前で呼ばれて、

マイは「はい」と答えた。

 

その女性が「こっちにおいで」と言う。

マイは無言で前に出て座った。

 

おばさんはまた何かを唱え始めた。

 

なんだろう、懐かしい感じがする。

 

その感覚に浸っていると急に意識が遠ざかった。

 

#マイの部屋

 

「マイ」

 

父さんの声だ。

ハッっと気づくと、ベッドの中だった。

父さんがカーテンを開けている。

「学校、遅れるぞ」と言われて、時計を見たら、もう7時30分だった。

「ヤバい!」

今日から新学期だった。

 

マイは慌てて飛び起き、制服を着た。

シンジからメールが来ている。

 

「バス停で会おう」

 

#バス停

 

シンジが立っている。

リュック姿。

 

マイが息を切らしてやってきた。

「おはよう」とシンジが言う。

「どうしたの?いつも運転手付の車なのに珍しいね」とマイが話す。

 

「うん、ちょっとね」とシンジ。

 

本当はマイと学校に行きたくてバスにしたのだ。

「昨日の箱の話も気になったし」

でもそれは黙っていた。

 

秋だけど、まだ寒くなくてとても気持ちがいい。

空気が澄んでいて紅葉もきれいだ。

 

バスはイチョウの並木道を下っていく。

2人は一番後ろに座った。まだ学生は少なかった。

                          

シンジ「で、あれは?」

 

「あれって?」とマイが聞く。

 

シンジ「あの箱、どうだった?お父さんに見せたの?」

マイ「うん、見せたよ でも詳しいことはわかんない」

「おばあさんの物みたい」

 

シンジ「おばあさん?日本人の?」

 

マイ「そう、お父さんもよく知らないみたい」

 

これはウソだった、詮索されるのがイヤだったのだ。

 

シンジ「ふーん、そっか」

 

シンジはそれ以上、聞かなかった。

マイはホッとした。

 

●学校前

 

山の中腹にある高校

私はのんびりした雰囲気のこの学校が好きだった。

ここでは普通の子でいられる。

 

シンジはハンサムで背も高くてお金持ち。

もちろん勉強もできるし、紳士的(のはず)だけど、私にはつっけんどんだ。

 

そもそも彼との出会いからして、変だった。

出会ったのは占いの館。

私がバイトをしている店だった。

 

彼はお母さんと来ていて、志望校に受かるか知りたいと、彼のお母さんに聞かれた。

 

私は占いの世界では有名な巫女で、その時忙しくて、正直疲れていた。

強烈なおばさんばっかり来るから。

 

その日の最後のお客さんがシンジ親子だった。

 

シンジは困ったような顔で母親と座っていた。

そりゃそうだろう。学生服の男子なんて占いの館では浮いてるもの。

 

「次の人」

 

そう言うと、シンジと母親が来た。

お母さんはかなりの美人で、
シンジがハンサムなのも頷ける。

 

シンジ母 「大学に受かるか視て欲しいんです」

 

私はシンジの顔をじっと見つめた。

 

私には「視える力」がある。

あるスイッチが入ると、顔に文字が浮かんで見えるのだ。

「合格」の文字の下に「不」と視えた。

 

マイ「五分五分ですね。第一志望は?」

シンジ母「S大です」

マイ「そこは落ちます」

シンジ母「Y大は?」

マイ「そこも落ちる」

シンジ母「K大は?」

マイ「うーん、そこは受かります」

 

とりあえず、毎日、お餅を食べること。

それも自宅で作った「みたらしだんご」を、と伝えた

あとお札も作ってあげた。

 

シンジはうさんくさそうに「俺は、信じねえ」という顔をしていた。

別にいいのだ。信じる、信じないはその人の自由だから。

 

シンジ母「あと1つ」

「夫が浮気をしている気がするんですが…」

 

マイは「ありがちだな」と思いつつ、シンジの母の顔を見た。

 

女と出ている。

 

あーやっぱりそうか。まあ、仕方ない。

マイは「いますよ」と答えた

 

シンジ母、悲しそうな顔。

 

「でももうすぐ別れます(字が薄いから)」

「毎日しょうが湯にコーヒーを入れて、
にんにくと果物の梨を加えて煮た物を、
ご主人に飲ませるといいです」と伝えた。

 

 

●占いの館

 

封筒にお金がいっぱいある。

だいぶたまった。

もう少したまったら家を出るか旅に出よう。

それか山奥で修行をするか。

 

●丘の上

 

シンジが立っている。いつも見ている風景だ。

 

しばらくそこに立っていた。

秋のコスモス、野原…

シンジにとって、誰にも邪魔されない場所だ。

 

振り向くと、マイが立っていた。

いつものことだ。

シンジが「何?」と聞く。

 

マイは何だか疲れた顔をしている。

 

シンジ「どうかした?」

マイ「箱がないの」

「あのおじいさんがくれた箱が。

大事にしまっていたはずで、机の上に置いておいた

部屋に入れるのは父さんだけ。

父さんが取ったとしか考えられない」

 

シンジ「あれがないとどうなるの?」

マイ「戻れない」「あの神社に戻れない」

 

なぜか涙が出た。

また、あそこに戻りたいのに、どうしたらいいんだろう。

 

シンジ「もう一度、あの公園に行ってみようか?」

マイがうなずいた。

 

●バス

 

学校帰り、2人はまたバスの後部座席に座っている。

公園行きのバスだ。

今日は秋雨でちょっと肌寒い。

 

少女はブレザーにマフラーを巻いている。

少年は、また一人で音楽を聴いている。

しばらく走るとあの公園についた。

 

2人、バスを降りる。

 

傘が1つしかない。相合い傘。

公園の奥の池に着いた。

 

シンジ「またあの森に行けるかな」

マイ「さあ」

シンジ「とりあえずボートに乗ろう」

2人はボートに乗った。

霧が出てきた。

前も見えないほどの濃い霧だ。

 

「どうしよう」とマイが思った時、

あの時の白鳥が現れた。

首には黄色いスカーフを巻いている。

白鳥のあとについて、こいでいく。

するとまたあの湖のほとりだった。

 

2人はあのおじいさんの家に向かう。

濃い霧、何か出てきそうだ。

あたりはしんと静まりかえっている。

 

マイは心細くなり、シンジの手をつかむ。

 

おじいさんの小屋についた。

おじいさんは今日も木彫りの人形を彫っている。

2人はおじいさんに「あの箱をなくしてしまった」と話した。

 

するとおじいさんは、今度は白い紙袋を持ってきた。

 

マイ「何だろう?」

おじいさんは袋から手ぬぐいを取り出す。

日本風の手ぬぐいだった。

 

「実はこれも渡し忘れていたんだよ」とおじいさん。

 

てぬぐいには、刺繍で神社の絵が描かれてあり、

隅っこにリョウコと名前が入っていた。

 

(神社と海と月)

 

「リョウコって、誰だろう

この神社があの夢で見た場所なのかな?」

とマイは考えた。

 

●帰り道

 

シンジが手をつないできた。

マイは心があたたかくなった。(マイ、ホッとした表情に)

まだ雨は降り続けている。

秋なのによく雨が降る。

 

シンジ「コーヒー飲んでいく?」

気づいたら行きつけのカフェの前だった。マイが昔バイトをしていたカフェだ。

 

●カフェ

 

シンジ「アメリカンとカフェオレ」

シンジが注文し、マイはぼんやりと椅子に座っている…

マイ「神社、箱、何のつながりがあるんだろう」

 

あの箱には、白いヒラヒラがついた神社でよく使われるという棒が入っていた。

(紙垂、しで、というものらしい)

 

 

コーヒーが来た。

雨で冷えた体が温まる。

コースターもかわいい。

マイ「あれ?これは?」

「あのヒラヒラのマークがついてる」

写真を撮るマイ。

 

シンジ「その神社、知ってるの?」

マイ「うん、一度行ったことがあるんだ。私は子供でおばさんがいた」

「そのおばさんがリョウコさんなのかも」

 

私は夢で見たことを話した。

シンジは「ウソだろ?ありえねえ」という顔をしている。

マイ「そりゃそうだ。私だってこんな状況、考えられない」

 

しばらく雑談をして、マイが席を立った。

 

マイ「じゃもう行くね」

 

バイトもあるし1人で考えたい。

 

「送るよ」と言うシンジ。

 

●カフェの前

 

外に出ると雨はまだ降っていた。

シンジが傘を差した。

何だかドキドキした。

 

 

シンジと出会ったのは占いの店という話は、以前した。

彼は優等生、でも私にだけ意地悪だった。

「巫女なんかして」そんな目でいつも見られている気がした。

 

●学校

 

まさかあの日、学校で再会するなんて。

学校の前に赤いポストがある。

近ごろ、手紙を書くことは少ないけど、

私はポストが好きだった。

死んだ(といわれてた)母にいつも手紙を書いていた。

 

あの日も手紙をポストに入れようとした時…

 

シンジ「おい」

シンジが声をかけてきた。

 

私はびくっとして後ろを振り返った。

不思議な感覚だった。デジャブ。

 

 

シンジ「そのポスト、かざりだぞ、もう使えない」

 

マイ「え、そうなの?」

シンジ「書いてあるだろ」

確かに円柱のポストの横に「使用禁止」と貼ってある。

マイ「ああ…ほんとだ」

そう言って、マイは立ち去ろうとする。

 

すると

シンジ「お前、あの占いの店の...」

私はとっさにシンジの口をふさいで、

辺りを見る。

マイ、「やばい、聞かれたら大騒ぎになる」

 

私は彼を人気のない脇道に連れていった。

マイ「お願い、このことは黙ってて、内緒ね」

 

シンジが手を出した。

マイ「何?」

シンジ「口止め料」

マイ「あなたはお金持ちでしょ?」

シンジ「金じゃないよ」

「俺の頼みは何でも聞く、でどう?」

 

マイ「え?、でもどうして?」

シンジがウインクした。

 

●占いの館

 

シンジと母がいる

私はシンジの母にまた聞かれる。

シンジ母「この子は将来、何になると出てますか?」

マイ「職人です」

シンジ母「え?」

マイ「職人と出ています」

シンジの顔を見る。本当は「社長」と書いてある。

でもシンジに頼まれたのだ。

「職人」と言ってくれと。

 

シンジ母「何の職人ですか?」

マイ「家具です」

 

マイの心の声、

シンジ、あいつの夢は家具職人らしい。

カッコいい。

 

私の夢は?巫女?分からない

 

●家

 

マイ「ただいま」

父はいない。

部屋に入って音楽をかけた。

写真がある。母と撮った写真。

マイ「母さん、会いたいよ」

そう声をかけるマイ

 

●夜・家

 

夜、また夢を見た。

目を開けると納屋のような場所だった。

 

●納屋?

 

かの国の使者が来た。

私はその人を出迎えている。

供え物を渡したらしい。

中へ通す。かの国の使者を前にして、私の心は震えている。

初めて感じる、気持ちだった。

私はとっさに目を伏せた。

一行は、神社を去って行く。見送る私の前には、長い階段があった。

下には駕籠が待っている。

私は巫女で、彼は身分の高いお役人。

マイ「この箱をあの人に渡してください」そう言った。

 

それか、いくつかの季節が過ぎた。

毎年、近くて遠い。かの国から参拝にやってきた。

 

●家

 

マイは飛び起きた。

マイ「今のは夢?」「何だろう」

気づくと涙を流している。

もう7時半だ、早く学校に行かないと、

私は急いで身支度をする。シンジからメールが来ていた。

シンジ「いつものバス停で待ってる」

私はほほ笑んだ。

 

●バス停

 

シンジが音楽を聞きながら待っている。後ろからマイが近づく

マイ「背中がまぶしい」そう思った。

もう少し見ていたい。

シンジはいつも温かいオーラが漂っている。
ときには心地よく、ときにはまぶしすぎるほどのオーラだ。

 

●夜・バス停

 

マイはバス停に座っている(雨)

シンジが来た。あえて声はかけない。

もの思いにふけるマイ。これからバイトだ。

でも今日は何だか行きたくない。

シンジが声をかける。

シンジ「送ろうか?今日はバスじゃないんだ」

車があった。マイが乗り込む。

車の中でもずっと外を見ているマイ。

 

●車の中

 

「母さん」ってどんな人だったんだろう。

母さんとは小さい頃、家を出たきりでずっと出ていない。

生きているかどうかも分からない。

(死んだと言われていた)

あの夢に出てきた人が母さんかな。

 

シンジ「その人誰?」

知らない間に声に出していたようだ。

シンジ「夢って?」

私はシンジに夢を話をした。

海の神社と社の境内で見た女の人の話も。

 

シンジ「ふーん面白いな」

「どうやったらその夢を見られるんだ?」

マイ「それは分からない」

「どうやったら、なんて考えたこともなかった」

何か法則があるんだろうか。

 

占いの館についた。

マイ「送ってくれてありがとう また明日ね」

マイはそう言って、シンジに手を振る。

 

●占いの館

 

私はぼうっとしていた

今日はお客さんがいない。

だからずっと考えていた。あの手ぬぐいと箱のこと。

「リョウコ…」誰だろう。母の名前は「みよこ」だった、

母が日本人なのがイヤだった。
日本人の血が流れてると言って、いじめられた。
母も韓国で生きづらそうだった。

父と母のなれそめは聞いたことがない。

母が出ていってから、父ともちゃんと話したことがなかった。

私は父が母を追い出したと思っていた。

だから父が憎かった。母方の祖父母とも交流はない。

私は孤独だ。巫女の能力があってもいつも寂しい。

愛に飢えていた。

「さびいしい」

 

ドアの呼び鈴が鳴る。

 

お客さんが来た。

おばあさんだった。おばあさんはある手ぬぐいを取り出した。

おばあさん「夫の形見なんだけど、どうすればいいか分からなくてね」

 

手ぬぐいにはきれいな「海と月」の刺繍がしてあった。

どこかで見た気がする。

あの夢で見た島の風景だ。マイの体に戦慄が走った。

なぜあの絵が?

おばあさんは話始めた。

日本人だった夫が残したんだ、と。

なぜかこれを持ってここへ来るように言われた気がしたと。

 

マイ「これ少しおあずかりしてもいいですか?」

おばあさん「どうぞ」

 

●マイの部屋

 

机に手ぬぐいが2つ並んでいる。

マイは「これは一体何だろう」と考え込んでいた。

ベッドに横になる。

目をつぶるとあの神社の光景が浮かんだ。

あの女性、この海、でもあの昔の着物を着た風景とは

時代が違う。

 

携帯「ピンポン」

シンジからメールが入る。

 

シンジ「ちょっと出てこない?」

マイは思う。

今から?もう夜中だった。1時を過ぎている。

 

●学校(回想)

 

占いの館での一件から私たちは急速に仲良くなっていった。

シンジは優等生だけど、何だか時々すごく寂しそうだった。

自分と似ている気がした。

ぶっきらぼうだけど、心があったかい。そして、さりげなく優しい。

 

ほら今日も私が屋上で1人でお弁当を食べているのを知ってて、

コーヒーを買ってきてくれた。

背も高くてすてき。

「はっ、私ったら何考えてんだろう」

「あいつは私のことなんて別に何とも思ってないんだ」

「ただ珍しだけ、好奇心だよ」

 

となりに座るシンジの気配を感じながら、冷静なフリをする私。

好きだなんて知られたら大変だ。

きっとからかわれる。

「お前、まさか俺のこと好きなの」って。

でも1人で想像するのは私の勝手だから

ひとりでニヤニヤしていたら、

シンジが「そろそろ授業が始まるぞ」と言った。
 

「あ、うん」と、私は立ち上がる。

 

秋の空気の澄んだ日だった。

 

私が先にドアを開けて入った。

後ろ姿を見ているシンジ。

 

シンジ(心の声)「不思議な奴、何だか気になる」

「女なんて面倒くさいと思ってた

親の言うとおり勉強して、大学に入るしかないって。

でもアイツを見た日、

あのポストの前で、突然、違う生き方がしたくなった」

 

●マイの部屋

 

私はもう一度、携帯を見た。どうしよう。

でもこんな時間に来るってことは、きっと何かあったんだ。

私はマフラーとコートを取って外に出た。

 

●丘の上のベンチ

シンジが座っている。何だか寂しそうだ。

私は黙って横に座った。シンジは泣いていた。

シンジが泣くなんて…いつも自信にあふれ、冷静で落ち着いていて、

そんな彼が…あり得ない。

シンジは(ひとしきり声を押し殺して泣いて)「ごめん」と言った

 

シンジ「兄さんが死んだ」「ずっと寝たきりだった」

「俺のせいで」

両親は僕を責めた。兄のようになれと言われた。

それで俺はずっと兄を恨んでた。

なぜかばったんだと、なぜ俺の代わりに寝たきりになったんだと、

なぜ俺を地獄に突き落としたんだと、

助けてなんて頼んでないのに、

ずっと恨んでた。

ありがとうとも言わなかった。俺は許されない。許されちゃいけないんだ。

そしてシンジはまた泣き始めた。

 

私はかける言葉が見つからず、シンジの頭をそっとなで続けた。

子供にするように。

私が感じたのは彼の中にある十字架だった。

背負わなくてもいい十字架。自分を縛り付けている十字架。

どうすれば、シンジはその十字架を下ろすことができる?

 

●マイの部屋

 

私はまた夢を見ている。

あの納屋だ。本当にこれは夢なのだろうか、とてもリアルだ、鮮明で…

リアルすぎる、

マイ「パラレルワールド?」そう思った

 

納屋は外から光りが差し込んでいた。

あたしはまた小さな子供の姿になっていた。

外に出ると、境内に人が集まっている。

どうしたんだろう、すると人が倒れていた。

マイ「あの人だ」「あの女性はあの時私を呼んだ人」

私は怖くなった。

どうしよう、なぜ?あの人は誰なの?

 

●マイの部屋

 

ノックの音がして目が覚めた。

やっぱりあの手ぬぐいだ。あれがカギなんだ。

でも海と月の絵は?

私はぼんやりと机の上を見た。

 

てぬぐいが光っている気がする。

 

あれ?ここに人が…

そう思った瞬間、私は手ぬぐいの中に吸い込まれた。

 

●海の神社

 

私は今度はあの昔の世界に来ていた。

巫女さんが使者を見送っていた場所だ。

振り返ると子供がいる。

誰?私?

その子は私にすごく似ていた。

あの時、納屋にいた私の姿。

 

私は声をかけようとしたが声が出ない。

手を見ると半透明だ。

どうなってるの?私はあの子には見えないんだ。

そこへあの巫女が現れた。

巫女と子供は神社へ入っていく。

 

●マイの部屋

 

ボーンボーン 時計の音がする。

私は机の前に立っていた。

今のは何?手を見る。よかった透けてはいない。

 

今7時30分だ。学校へ行かないと。

待って?

よく考えたらこの前と同じ時間だった。

 

●学校

 

シンジは休みだった。

お兄さんのお葬式かな?とマイは思った。

ふと外を見ると校庭に喪服を着たシンジが立っている。

 

休み時間、マイは校庭を見た。シンジはいない。

屋上に上がるとシンジが座っていた。

マイ「お葬式、行かないの?」

シンジ「うん、俺行く資格がないから」

マイはそっとシンジの手を握った。

マイ「コーヒー飲もうか」

シンジ「うん」

 

2人はしばらくそのまま座っていた。

 

マイ「うち来る?行くとこないでしょ?」

マイがシンジに聞く

「うん」

 

●マイの家

 

「あの子は誰だろうと考えていた

今度は神社が光ればいいのに、

そう思ったらマイは神社の中にいた。

あの女性は?どうなったのだろう?

なぜ私はここに?

神社に入った。私は子供の姿だった。

 

私だ…そう思った。この子は私の子供だ。

この世界は何なんだ?

 

●●ちゃん、私は私に呼ばれた。

この世界で私は幸せそうだった。

 

リョウコと呼ぶ声がした。

見るとシンジが立っている。

いや、シンジではない。この人は誰?

私とシンジはなぜか違う名前でこの世界にいる。

「パラレルワールド?」

分からない。

 

●夜・7時30分

 

時計が鳴る。

私はまた机の前に立っている。

 

シンジは寝ていた。

私はふとんにもぐりこんだ。

急に怖くなった。あの2人は誰なんだろう。

 

しばらくベッドの中でじっと天井を見ていた。

シンジとあの男性。

シンジは私にくっついてきた。

私はじっとしていた。頰にシンジの顔がくっつく。

ドキドキした。

 

気づくと朝だった。

シンジはいない。メールが来ている。「昨日はありがとう」

すると机の上の手ぬぐいが1つなくなっていた。

シンジが持っていたのかも?と持った。

 

今日は土曜日で学校はない。

私はもう一度、あの池のある公園に行こうと思った。

手ぬぐいをカバンにいれた。

 

●バス

 

すっかり葉が落ちていて、下は落ち葉が積み重なっている。

1人でここに来るのは初めてだ。

 

●公園

 

私はボート乗り場に立っている。

ボートをこぐ。ボートに乗ってこいでいく。

でも向こう岸はいつもの公園だ。

やっぱり1人じゃダメなのか

シンジがいないと。

私は帰ろうと思い船着き場についた。

顔を上げると、シンジが立っていた。

あれ?でもシンジだけど彼じゃない。

あの時の人だ。そう思った瞬間。私はあの神社にいた。

 

●神社

 

シンジが私に話しかける。

リョウコ、リョウコ。

私は、あの女性だ。

子供もいる。食事の最中のようだった。

私はビックリした。

ここの私は幸せそうで、心が満たされている。

巫女の能力もありそうだ。

手ぬぐいが見えた。神社ともう一枚、海と月の手ぬぐい。

 

マイ「あの手ぬぐいは何?」と私は聞いた。

シンジ「あれはこの神社に古くから伝わる手ぬぐいだよ」

「お前も知ってるだろう?」

 

昔、この神社は海に浮かぶ島にあった。

その島には毎年かの国からの使者が来た。

この神社はもうすぐ取り壊される。

村人が怒ってしまった。

日照りが続き、神社などいらないと言う。

 

「僕らももう少ししたらここを発たないと行けない」

マイは驚いた。

「どこへ行くの?」

シンジ「さあまだ決めていない」

 

次の瞬間、私は海の神社にいた。

私はこの3つの世界に存在している。

ここは過去でも未来でも現在でもなく

今、存在している別々の世界なのだ。

私は、それに気づいた。

 

私には今、時空を越える能力があるらしい。

シンジとあの森に行ってから?

じゃあ母は?祖母は?それも私?

 

また行列が来る。

私は選ぶのだ。どの世界に住むのかを。

だからあの箱が私のもとへやってきた。

 

あの箱はどこだろう。

探さなくては、

向こうから牛車が来る。

そうだここは島だった。あの神社のある島。

 

牛車は私の前で止まった。

 

あの人が下りてくる。私の名前を呼んだ。

私はどうやらこの人と、かの国へ行くことになったらしい。

かの国の使者は私に優しく微笑みかける。

気づくと私の手にはあの箱があった。

 

ぼんやりと牛車の中で考え込んでいた。

この人と私はどこへ行くのだろう。かの国とはどこだろう。

私は今、どの時代にいるのだ?

 

ふと外を見ると海が見えた。

港だ。船があった。

私は牛車を降りて船に乗り込む。

使者の顔を見た。

とてもなつかしい気がした。

この人が夫になるんだろうか。

 

3日ほど海を渡った。

大きな港が見える。

ここも夜。

なつかしい言葉が耳に飛び込んでくる。韓国語だった。

 

海の宿で1泊した。私はチョゴリに着替え、輿に乗りこんだ。

使者は私に安心しろというように優しくしてくれた。

彼の名は●●と言った。

私は無邪気で若かった。

王宮らしい場所に着いた。

そうか私は王宮で仕えるんだ。巫女として。

 

 

●家

気がつくと私の部屋だ。

また7時30分、階下で時計がぼんぼん鳴っている。

 

涙… 泣いてるの?なぜ?

私は、あの場所に戻りたかった。

 

●バス停

 

学校は休むわけにはいかない。

バスを待っていると珍しくシンジが来た。

「今日もバス?」

「うん、お前と行きたくて」

「そういうの照れるからやめてくれる?」

シンジは笑った。

 

あの世界は気になるけれど、
シンジの笑顔で、
現実に引き戻されて幸せな気分になった。

時間どおりバスが来た。
 
一番後ろの席に座る。

やっぱりここが一番落ち着くと思った瞬間、
信じられない光景が目に飛び込んできた。

バスの横を牛車が通ってる?

ウソ?!
目をごしごしさえてもう一度見てみると
もう牛車はない。

…何だったんだろう。

どうやら現実世界にも変化が起きてる気がする。

私はそのままぼんやりしていた。

シンジが「もう学校だよ」と手をつかんだ。

ホッとした。

この手のぬくもりが私を現実に引き戻してくれる。

 

●教室


先生が日本のことを話している。

朝鮮出兵の話。

私はぼーっとしながら聞いている。

するとふとあの島は朝鮮出兵の時代じゃないかという気がした。

あの島に、秘密が隠されてるのかも?

そう思ったら、
時空を越えてではなく、実際にあの島に行ってみたくなった。

家に帰ったら早速調べよう。


 

●帰り道

 

1人でいるとまたシンジが現れた。

「時間ある?」

「またあのカフェに行こう」

「バイトまで時間あるしいいよ」

 

●車

頭の中はあの島のことでいっぱいだった。 

シンジが心配そうに聞く。
「最近どうしたの?」「元気ないな」

 

●カフェ

 

シンジが前に座っている。

私は、またほっとした気分になった。

でも何を話していいか分からない。

ぼんやり考えていると、シンジの姿が薄くなっていく…

シンジ「どうしたの?」

私も体が動かない。

 

 

●神社 

 

気がつくと、そこはまたあの神社だった。

私は神社で、忙しそうにしていた。

もうすぐここから出ないと行けない。

夫も子供も後ろにいる。

不思議な感覚。私は私であって私ではない。

ここにいるけどここにいない。

 

●カフェ

 

すぐまだ意識が戻ってきた。

シンジが不思議そうに見ている。

「わたしバイト行く」と席を立つ「。

シンジが突然手を握った。

「行くな」

「なんちゃってー」とおちゃらける。

「ドキドキするからやめてよ」

 

カフェを出るマイ。

 

●バイト先

 

今日は人が不思議と少ない。

物思いにふけっていると、チリンチリンと音がした。

「お客さんだ」

 

あのおばあさんだった。

「あのてぬぐいのことで何か分かりましたか?」

「いいえ、残念ながら何も。

でも不思議な手ぬぐいですよね」

「実はね。一度あの手ぬぐいの中に入り込んだような気がしたことがあったの」
「ずいぶん昔だけど」

「あの…それって、神社みたいな所でした?」

「そうよ、なぜ分かるの?」

「私がおじいさんと出会った神社なのよ」

 

マイはますますワケが分からなくなった。

この手ぬぐいは誰でも入れるの?

神社は一体何なのか…

おばあさんは誰なのか?

 

マイの頭はこんがらがってきた。

 

「おばあさん、今日は何を聞きにきたんですか?」

「今日はおじいさんが私に何か伝えたいことがあるんじゃないかと思ってきたのよ」

「じゃあ、わたしの前に座ってください」

 

マイは目を閉じた。

 

すると、おじいさんの姿が見えた気がした。

何だか懐かしい感覚。

あれ…このおじいさんは、あの神社にいた私の夫?

じゃあ、このおばあさんが私…?

私の未来?

未来からここに来たの?

 

おじいさんはこう話始めた。

 

「おばあさんに伝えておくれ。

肉体はなくなったけれど、また違う人生で待ってるとな。

私のことはもう気にせず、

ゆっくり残りの人生を楽しんでくれ」

 

私はそのままのことをおばあさんに伝えた。

 

おばあさんは目をウルウルさせて、私の話を聞いていた。

私はその時、はっとした。

ここで時空が交わり合ってる。

ここがパラレルワールドなんだ、と…

 


じゃあ、時空の交わるきっかけは?

この手ぬぐいかな…

 

そうじゃない気がする。

 

とにかくおばあさんは、

先に死んでしまった夫のことが気がかりだったけど、

これで安心した、と言って、帰っていった。

 

○バイト先

 

しばらくお客さんがこなかった。

私は観葉植物の葉っぱを拭きながら、
さっきのおばあさんのことをいろいろ考えていた。

 

チリン。

ドアが開いた。

 

シンジが立っていた。

 

「どうも」

「(うれしそうに)どうしたの?」

 

「これ差し入れ」

 

と、ケーキの箱を差し出す。

 

「実は今日は僕も聞きたいことがあって」

「何?」

「お前、死者と会話ができるんだろ
?」

「うん」

「じゃあ、兄さんと話がしたい」

「何を聞きたいの?」

「今どんな気持ちか、俺に怒ってないか、恨んでないか」

「どうして?お兄さんと何があったの?」

「とりあえず、聞いてもらえる?」

「分かった」

 

マイは目を閉じた。

シンジのお兄さんの姿が、シンジの背後に感じられる。

 

お兄さんは笑っている。

シンジのおかげで、楽になれた。

窮屈で縛られた人生から解放された。

今はとても心安らかで、感謝してるよ。

この世にいることだけが幸せじゃない。

もっと自由な世界に今はいる。

 

シンジもこの世で、心から楽しめることを探すんだ。

僕に申し訳ないとか思わなくていい。

おかげで僕は早く自由になれた。

 

お兄さんの真心が伝わってきて、

私も心が温かくなった。

 

この内容をシンジに伝えた

 

シンジは無表情だった。

半信半疑のようだ。

 

いいのだ、

ここで伝えて信じられなくても、

その言葉のエネルギーは必ず相手に伝わっている。

 

だから私はただ伝えるだけ。

相手の反応は気にしないというスタンスでいる。

ひとまず、お兄さんからのメッセージを伝え、

キッチンにお茶をいれにいった。

 

ここ占いの館には実はオーナーがいる。

大先輩の巫女さんだ。

とても有名な巫女さんであちこちに占い館を持っている。

だから、ここに来ることはめったにない。

 

お気に入りの紅茶を入れて、

ケーキと一緒に食べた。

シンジはいつもどおり無口だった。

 

○マイの部屋

 

ノートに書いているマイ。

 

おばあさん=わたし?

おじいさん=神社での夫?

シンジ=おじいさん?

海の神社の巫女は?=わたし?

 

 

「関係が分からない」

 

「どうやらこの3つの世界は同時進行で進んでいるらしい。

だから私が意識をどこへ向けるかで交わることができる。」

 

とそこまで書いて、マイはベッドに横になった。

 

今日は何だかどっと疲れた。

睡魔に襲われ眠りにつく。

 

 

#海の神社

 

船が迎えに来る。

私はその船に乗り込んだ。

あの人だ。

 

またあの場面…

 

そして韓国に渡ったんだ。

私は王宮にいるはず。

 

すると、場面は王宮へ。

 

#王宮

 

部屋にいるマイ。

女官たちがひそひそ話しているのが聞こえる。

倭の巫女だって、どんな顔なんだろう。

 

緊張しているとあの人が来た。

偉い神官のおばさん、優しそうだ。(現在での占いの館のオーナー?)

巫女は男を近づけてはいけない。

神に仕える身だから、

神にささげた能力が落ちてしまう。

 

私はガッカリした。

じゃあ、昔のこの世界で私は1人で生きのびていかないと行けないの?

そんなのイヤだ。

この人と一緒にいたい。

 

インサート(街を歩く巫女と男性)

 

# 巫女の引き継ぎ儀式が行われた。

 

「待って?そもそも私はなぜこの国につれてこられたの?」

「あの人に気に入られたからじゃないの?

なぜ?取り引き?

まずはその謎を解かないといけない」

 

「そうよ、それが先」

 

#マイの部屋

 

韓国風の部屋に案内される。

どうやら1人で使えるようだ。

彼はいなくて女官が案内してくれた。

よく考えたらここは王宮ではない。

よし外へ出てみよう。

 

その前に女官に彼の居場所を聞く。

 

「○○街のほうです」

 

地図まで書いてくれた。

 

見知らぬ街だけど、私は韓国語が分かる。

さて、冒険だ。

過去と現在、どんなふうに違っているのだろう。

ワクワクしながら、市場を探索してみる。

 

すると、前からあの国の使者が歩いてきた。

私は店のかげにかくれた。

彼のあとをついて行く。

 

彼は、あるお屋敷に入る。

彼の家ではないらしい。

王族の家だ。

 

彼が出てくるまで待った。

偶然を装って声をかける。

 

「●●さん」

驚く使者。

 

使者(日本語で)「なぜここに?」

マイ(日本語で)「街を見物していたんです、ここは誰のお屋敷ですか?」

「そうだ。よければ私に韓国語を教えてください」

「退屈だし、お屋敷に伺います」

使者(ちょっと面食らった様子で)

「では私の都合をつけて、またご連絡します」

 

使者に見とれるマイ。

あの島の神社では、ゆっくり顔を見る時間もなかった。

優しそうな顔で、なんとなくシンジにも似ている。

 

私のおなかがぐーっとなった。

笑う使者。

「早速、習うお礼にごちそうさせてください」

「私も食事をしていなかった。街を案内しよう」

 

私は、ドキドキしながらついていく。

 

#街

 

食堂風のような場所に着く。

外のテーブルでクッパをごちそうになる。

 

「使者様は、お名前は何と言うのですか?」

「私はチョン・シニルという」

「『シニル」いいお名前ですね。」

「私は、マイ。神戸マイです」

 

使者はニッコリした。

 

食事をして、外へ出る。

「そろそろ、お屋敷に戻らないと」

 

使者と別れて屋敷に戻った。

 

 

#韓国の屋敷

 

マイはうとうとしている。

すると、女官が来た。

「王様がお呼びです」

「王様が私を?こんな時間に?」

「ええ、着替えて外に出てきてください」

 

 

#庭

 

外には輿が2つあった。

もう1つの輿には、韓国の巫女が乗っていた。

私は会釈し、輿に乗り込んだ。

 

#王宮、王の部屋

 

王が待っている。

とても若い王だ。

まだ王になったばかりだと聞いた。

重臣たちは若い王をバカにしている。

彼らを従えるには巫女の力、神の力だ必要だった。

 

内官「王様、巫女たちが到着しました」

王「中へ通せ」

 

巫女と私は中へ入った。

 

巫女「王様、ご健勝であられますか?」

 

「今日はどういたしましたか?」

「今日は、倭から来た巫女の話を聞きたくてな」

「倭の国の状況や神ごとにも興味がある」

 

 

マイ「光栄です」

 

私は神社のこと、島のこと、

日本の神のこと、神話のこと、

あれこれと話した。

 

王はとてもご満悦で熱心に聞いていた。

「また聞かせてほしい」と、王は言って、

2人の巫女は下がった。

 

 

韓国の巫女は年を取っていて、

思慮深そうだった。

巫女は、現在の王の状況を話してくれた。

頼る人のいない孤独な王様だと。

他国から来たけれど、どうか力になってあげてと。

巫女の言葉の端々から、王への愛情が伺えた。

 

私は「分かりました」と言って、

輿に乗り込んだ。

 

 

#道

 

帰りの輿。

私は、考えこんでいた。

そして昼間の疲れも出て、

ウトウトしまっていた。

 

すると…

何かがぴかっと光った。

気づくと私は、また現在に戻っていた。

 

 

#マイの部屋

 

目覚めた私は飛び起きた。

あの使者に会いたいと思った。


「チョン・シニル…」

 

時計を見るとやはり7時だった。

いつあの時代に行けるのだろう、

時空を越えるカギは何なのだろう?

 
ぽーん。

シンジからメールが来た。

 

「一緒に学校に行こう」

 

#バス停

 

バス停で落ち合う。

いつもならシンジに会うとうれしいのに、

今日はシニルさんのことで頭がいっぱいだった。

何だろう、彼の顔が忘れられない。

 

シンジ 「今日はどうした?うわの空だけど」

マイ 「うん…また、違う世界に行ってたんだ、

   だけど、今度は過去の韓国だった」

シンジ「またってどういうこと?

   違う世界って?何だよ」

マイ(しまった、シンジには行ってなかったんだっけ)

   「いや、夢の話よ。最近、不思議な夢をよく見るって言ったでしょ?

   お母さんの遺品って手ぬぐいがうちに来て以来」

シンジ「そうなんだったな」

   「それで、何かつながりがありそうなの?その手ぬぐい」

 

マイ 「ううん、まだぜんぜん分からない」

       「でも占いの館にもおばあさんが、

       同じ手ぬぐいを持ってきたから、

       どうしても偶然とは思えないんだ」

「どうやったら分かるかな」

 

と話していたら、学校へ着いた。

2人は、学校の中へ。

 

#学校

 

授業ではまだ朝鮮出兵の時代の話をしている。

イムジンウェラン、宣祖の時代。

対馬…

 

そんな内容だった。

「日本に行けばいい」

実際に朝鮮出兵とかかわっていた島へ。

 

対馬の地図を見ていたら、

壱岐島という島を見つけた。

どうやら、神社がたくさんあるようだ。

 

私は急に「壱岐島」に行ってみたくなった。

 

#マイの家

 

マイ「ただいま」

 

もう父が帰っていた。エプロン姿で料理をしてる。

マイ「お父さん、私、日本に行ってくる」

マイ父「何だって?いつ?」

マイ「今週末、お金ならあるから」

マイ父「でもどこへ?」

マイ「九州」

 

 

#マイの家

 

早速神社を調べた。

私が見たあの神社、どこだろう。

今もあるのだろうか。

朝鮮出兵に関する神社があった。

日本で一番パワーがあるという神社も見つけた。

 

「ここにしよう」

またシンジからメールが来る。

 

「会いたい」

 

#夜 いつもの公園

 

シンジが座ってる。

手には、コーヒーと肉まん。

 

マイ「肉まん?」

シンジ「腹へっちゃって」

マイ「笑」

  「シンジらしくないね。お金持ちのお坊ちゃまが」

シンジ「俺、こういうのが好きなんだ、ほんとは。

庶民的だろ?」

マイ「庶民的って久々に聞いたわー」

シンジ「それより、両親が旅行に行くから、

その間に、俺も羽根伸ばそうと思って」

(ちょっとモジモジして)

 

「よかったら、どっか行かない?」

「えー、ウソ、私ちょうど今週末、

日本に行こうかと思ってたの、九州の島なんだけど」

「マジかよ?」

「(ためらい気味に)一緒に行く?」

 

シンジ、うれしそうに笑う。

 

#マイの部屋

 

ベッドに横になり

 

「どうしてあんなこと言っちゃったんだろ」

  「あー、恥ずかしい」

  「いきなりお泊まり?」「付き合ってもいないのに…」

  「そりゃシンジは好きだけど、急展開すぎるわ」


 

おとりでひとしきり照れてから、起き上がり、旅行の支度を始める。

手ぬぐいを見つめるマイ。

「この神社があればいいんだけど」

 

 

#出発日

 

シンジとバス停で落ち合う。

お抱え運転手が空港まで送ってくれるらしい。

持つべきものは金持ちの友達である。

 

クラクション

 

シンジ「おはよう」

マイ 「うん、おはよう」

 

車に乗り込み

 

シンジ「で、なんて島だっけ?」

マイ 「壱岐島」「福岡から船に乗るよ」

   「観光じゃないけどいい?」

シンジ「お前と一緒なら楽しいと思う」

マイ 「(照れる)」

 

#空港

 

福岡行きの飛行機。

ドキドキするマイ。

シンジが手慣れた感じで荷物を預ける。

 

#福岡空港から船着き場へ

 

#船着き場

 

マイ「チケット買ってくるね」

  「1時間でつくらしいよ」

シンジ「意外と早いな」

   「で?今日はどこに泊まるの?」

マイ 「お金がないから民宿だよ、ツインで」

シンジ「ツイン?」

 

 

船の時間になった

 

船が近づく。

 

#船の中

次第に島へ近づいていく。

小さな島がたくさん見えた。

マイ「あの風景だ」

  「やっぱりこの島だったんだ」

 

下りてすぐ、

日本でも有名な神社へ行くことにする。

旅館の人にガイドを頼んでおいた。

 

旅館の人「こんにちは!」

     「今日はご一緒させていただきますね」

     「どうぞよろしく」

マイ   「最初に月読神社へお願いします」

 

女将    「はい、分かりました!」

        「最近、パワースポットとして人気なんですよ」

     「たくさんお客様がいらっしゃいます」

マイ   「そうなんですね。私たち韓国から来たんです」

     「楽しみです」

 

早速、車に乗り込む。

緑が多くてとてもきれいな島だ。

 

15分ぐらいで神社についた。

 

長い階段の上に、ほんとうに小さな神社がある。

 

マイ「この神社だ…」

 

海の神社ではないけれど、

ほとんど一緒だった。

長い階段も、鳥居も…

 

「月読み神社」

海と月。

 

中に入って、宮司さんの説明を聞く。

中には、あの手ぬぐいの海と月の絵が飾ってあった。

 

マイ「やっぱり」

 

目の前に、あの島の間を通り抜け、現れた神社の映像、

そして大きな満月の映像が見える。

 

#韓国の王宮

 

王に呼ばれたマイ。

 

王「日本の神々の話をしておくれ」

マイは月の神、月読命について語り出す。

王は熱心に耳を傾けている。

 

何度も王に呼ばれ、マイは日本の神について話した。

そんな王の姿をよく思わないのは、重臣たちだった。

ただでさえ、倭が侵略してくる気配があるのに、

王はなぜ倭の女をそばに置いているのだ。

 

王は寂しかったのだ。

党派争いで疲れ切っていた。

王を癒やせるのは神仏だけだった。

 

神官をそばに置き、

様々な話を聞くうちに、倭の話が出た。

倭と朝鮮、近くて遠い国。

それをつなぐ神々の存在。

倭の神について聞いてみたくなった。

そこで信頼する使者を送り、巫女を連れてきた。

倭でも最もパワーのある神聖な土地から。

何度も使者はやってきた。

だが、神主は、巫女を送りたがらなかった。

忠誠心の厚い使者は、めげずに、足を運んだ。

 

#月読神社

 

マイ「ここがすべての発端だったのね」

  「ここに時空を越えるカギがあるんだ」

 

そう思った。

すっかりシンジのことを忘れていたマイ。

シンジは外に出て、お守りを買っていた。

日本のお守りが珍しそうだった。

 

#夜

 

その日は、ちょうど満月だった。

いくつかの神社を周り、宿に行ったあと、

海に行った。

 

ちょうど海に浮かぶ島に小さな神社があった。

満月の光りを浴びながら、

シンジと海を眺めていた。

ここが今なのか過去なのか未来なのか…

分からなくなってしまいそうだ。

 

海辺に座って風に当たっていると、

シンジが聞いた。

シンジ「謎は解けそう?」

マイ  「とにかく月読神社が、過去に出てきた神社なのは確かよ」

    「てぬぐいもあった」

シンジ 「そもそもあの手ぬぐいは、おじいさんがくれたものだろ?」

マイ  「もしかして、あのおじいさんは…

     占いの館に手ぬぐいをおいて行ったおばあさんの旦那さんかも?」

シンジ 「そんな…だって、もう亡くなってるんだろ?」

マイ  「だからそもそも、そこは今現在とは別の時空なのよ」

シンジ 「ならリョウコって?」

マイ   「おばあさんかもね」

    「そろそろ月が完全に満ちる時間だわ」

満月の光がとても明るい。

 

マイがそう言った瞬間、

シンジの横から、マイは姿を消していた。

 

#海(過去)

 

気がつくとマイは、

白い服を着た巫女の格好で、

満月の下海辺に立っていた。

頰がぬれている。泣いている?

 

マイは、満月の下で踊りを踊り始めた。

1人で…

それは神を慰める舞だった。

 

なぜ1人で踊っているの?

何があったの?

その時、分かった。

 

王宮で何かあったのだ。

「使者のシニルさんは?」

 

 

#時はさかのぼり(王宮)

 

舞が韓国に渡って数年後、

壬辰倭亂が起きた。

 

重臣らは、早くに侵略に対処できなかった無能な王を影でののしった。

そして、倭の神に仕える巫女を処刑しろと言い出す。

重臣「王様のお心を惑わす倭の巫女は処刑なさるべきです」

重臣たち「処刑なさるべきです」

 

王には選択の余地がなかった。

 

#街

 

数年間で私はシニルさんとかなり親しくなっていた。

韓国語を学ぶという口実で、

お屋敷に通い詰め、ずうずうしく、あちこち連れ出してもらった。

 

シニルさんは私の理想どおりで、

優しくて、穏やかで、心が広く、親切だった。

巫女の私を恐れず、受け入れてくれた。

ユーモアもあった。

役人なのに、偉ぶったところもなかった。

 

男を近づけてはいけない、と言われていたけど、

そんなこと知ったこっちゃない。

ここで絶対にゲットすると、あらゆる手を使って、

猛烈にアピールした。

 

マイ「シニルさん、今日は外でお花見をしましょう」

  「有名なお茶屋さんにも行ってみたいわ」

シニル「分かりました。いいでしょう」

 

#お花見

 

マイ 「巫女は本当はお酒を飲まないけど、ちょっとだけ」

ほろ酔いで、シニルにもたれかかる。

サクラの花が舞う。

シニルが眠り込んだマイに口づけ。

マイ、薄目を開ける。

 

#巫女の屋敷

 

神官が飛び込んでくる。

神官「マイ、大変なことになりました。あなたは処刑されます」

マイ「えっ?どうして?」

神官「倭が侵略してきたのです、あなたは王様を洗脳したと思われています」

  「私が逃がすので早く逃げてください」

マイ「でも、それでは神官様の身が危なくなります」

神官「心配要りません。私は大丈夫。誰も王宮のお抱え神官を罰することはできません」

マイ(心配そうな顔)

 

 

#屋敷・裏口

 

シニル「早くこちらへ」「カゴは目出つので、密かに逃げましょう」

マイ (ことの重大さが身に染みる)

   「(泣きながら)どうしてこんなことに…」

 

#街

 

役人にバレた。

探している。

シニル「ひとまずここに隠れていて」とある両班の屋敷の納屋に入れられる。

 

#納屋の中

 

座り込むマイ。嗚咽。

 

#宿(現在)

 

いつの間にか寝てしまっていたようだ。

あれ?私は海にいたんじゃ…?

 

シンジ「大丈夫か?」

「突然、お前の姿が消えて」

「しばらくしたら、海辺に倒れてた」

「何が起きたんだ?」

 

マイ「大変…シニル様が危ない」

シンジ「シニル?」

 

マイは正直に時空を越えていることを話す。

 

一体、きっかけは何?

いつも決まって夜だった。

今日も夜…

そして手ぬぐいが…

そうか!月の力だ。

月が一番満ちている時間、

その時に私は呼ばれていく。

 

ひとまず、明日帰国する前に、もう一度、月読神社を訪ねることにした。

 

#翌朝

 

荷物をまとめて早速、月読神社へ。

宮司さんもいたので、中へ入れてもらった。

マイ、額がジンジンする。奥にあるご神体が気になります。

何があるのですか?と聞いた。

 

宮司「鏡です」

マイ「鏡?」

宮司「これは特別な鏡なのです」

 

マイ「月、海、鏡、神社」

  「この4つが合わさった時…?

  時空を越える何かが起きる?」

 

鏡は人を映し出すもの、魂を現実に呼び寄せるもの。

時空を越える入り口。

人の魂は様々は現実に鏡のように映し出されている。

 

 

#港

 

女将さんに送ってもらった。

船の中で、なぜか寂しい気分になるマイ。

 

マイ(心の声)「でもまたきっと来る気がする」

 

#マイの家

 

マイ「ただいま」

マイ父「おかえり、楽しかった?」

マイ「うん、シンジ…」

(あ、そうだ 父さんには言ってなかった)

「楽しかったよ、きれいなところだった」

父はまだ何か言いたそうだった。

マイはしらんぶりして部屋に入った。

 

 

#部屋

 

今夜もまた過去へ行けるだろうか、

「ああ、でも残念!シンジと一気に近くなれるチャンスだったのに」

「メールしてみよう」

「ついた?」

 

シンジ(メール声)「うん、お前と旅行したってのは、口止めさせてるから。知られたら親がいろいろうるさいしさ」

マイ「もちろん。私も秘密にしてあるよ」

シンジ「おやすみ、また明日」

 

マイはカバンから、手ぬぐいを取り出す。

「月と海」「月は海を司る」「潮の満ち引きは命の誕生を決める」

「鏡…」

そういえば、机の上にいつも鏡を置いていた。

マイ「これで?」

「あのあと私はどうなったんだろう、捕まって拷問されたのかな・・・」

「シニルさんは?」「王様は?」

 

すると、ピカピカと鏡が光り始めた。

手ぬぐいの神社も光っている。

これは…また…?

 

#神社

 

今度は、あの追い出されるという神社にいた。

「本当は、韓国のほうが気になるけど、自由にはいかないものね」

 

マイはまた子供だ。

リョウコさんはお母さん、お父さんは神主?

そんなことあるだろうか。

 

ここの神社は何なのだ。と思った時、ふと、ああ…

「おばあさんの母親ね」と私は、気づいた。

神社出身のおばあさんを産むのが私なのだ。

私は私のひいおばあさんなのだ。

リョウコさんは私のひいおばあさんだ。

 

現在の私とつながっている。

 

(ひとりごと)「ここは日本で、この神社はなくなる。

でもおばあさんは韓国にお嫁に来る」

「もしかしたら、この神社で問題が起きて、

私がおばあさんを産まなくなったら…」

「未来は変わってしまい、私も生まれない・・・?」

「それは困る…」「つまり私は、私が生まれるように、この時空に来たってこと?」

 

 

リョウコさんらしき人がやってくる。

 

リョウコ「●●、こっちへいらっしゃい」

と、神社の中へつれて行かれる。

 

また廃社や移社、合社について話し合っている。

マイは直感で感じた。

「守らねば」

 

マイ「お母さん、ここは移しちゃダメだよ、ご神体も守らないとダメ」

リョウコ、驚く。

リョウコ「突然、どうしたの?」

マイ「夢を見たの、ここを廃社にしたら、村にさらによくないことが起きる」

  「ここのご神体は?」

リョウコ「あんたはみたことがないわよね、鏡よ」

    「古い古い鏡」

マイ  「それを移しちゃダメだって」

リョウコ「どんな夢?」

マイ  「その鏡はね、村の邪気を祓うと共に、海を治める力がある」

    「神様が、ここから動かすなと言ってる」

リョウコ、半信半疑

リョウコ「おかしな夢でも見たの?」

 

 

ひとまず、父が呼ばれて何か話している。

マイ「どうしよう、何としてもここに神社を存続させなきゃ」

 

空を見上げた。白昼に月が見える。

 

ふと「嵐が来る」と聞こえた気がした。

 

マイ「嵐が来る…」

 

#崖の上

 

海を見やるマイ。

 

海が荒れてきている。

マイ「大変だ、早く知らせなきゃ」

 

ここは海辺の村。

神社は山の上にある。

 

マイ「村人をみんな、神社に集めよう。

でもどうやって?」

 

マイ「火事、火をおこそう」

 

#海辺

 

海辺、だんだん風が強くなってきた。

嵐には敏感な村人も、

なぜか今日は安心しきっている。

 

雨も降っていないし、時季外れの嵐だからだ。

 

マイには波に飲み込まれる村が見えた。

 

いとまず、ひとりで海辺で火を起こす。

 

ゴゴゴゴーと大きな音がする。

村の子に手伝ってもらって、

「火事だ!」神社へ逃げろ!と、知らせる。

 

寝ぼけていた村人たちは、

燃える火を見て、とりあえず神社へ向かった。

取り残されてる人がいないか見るマイ。

 

突然、どーん!、ぐらぐらと地面が揺れた!

高い波が襲ってくる。

 

村が波に飲み込まれる。

 

幸い、山の上にあった神社は無事だった。

みなマイのおかげだと喜んだ。

 

マイは「神社の神様が教えてくれたんだ」と話す。

 

#翌朝

 

村はすっかりなくなっていた。

復興にはだいぶ時間がかかるだろう。

でも村人は全員、生きている。

神社もそのまま残すことになった。

 

#夜

 

空には大きな月が浮かんでいる。

マイは眠りについた。

 

#マイの部屋

 

やはり同じ時刻。7時30分。

目覚ましで目が覚める。

 

マイ「あのてぬぐいをくれたおばあさんを探さなきゃ」

 

 

#占いの館

 

マイ「たしかここに…」

来客表を確認する。

 

お客さんには、電話番号と名前を記入してもらっていた。

マイ「おばあさんの名前は…」  

  「神宮みか…?」

  「電話番号は…」

 

 

電話をかけるマイ

 

マイ「こんにちは、占い館の者です、先日はどうも」

   「どこかでお会いできますか?

 

#カフェ

 

 

「おばあさん、もしかしてお子さんの名前はみよ子じゃありませんか?」

おばあさん「いいえ、私には子供がいないの」

     「おじいさんと2人で暮らしてたのよ」

マイ(がっかり)「そうですか…」

おばあさん「でもどうしてそんなことを?」

マイ   「実は母が日本人なのですが、家を出て生き別れになってしまったんです」

        「最近まで、ずっと死んだと思っていたのですが…」

     「母方の親類とも親交がなくて…」

おばあさん「でも確か、あの手ぬぐいをくれた人も日本人だったわ」

     「昔、偶然出会っただけだから、名前は知らないけれど」

マイ (期待したがガッカリ)

 

 

#占いの館

 

マイ「おばあさんは私とは関係がなさそうね」

  「お母さんの居場所も分からない」

おばあさんとお母さん、私。

そして過去生の私…

一体、どういうつながりなの…?

 

シンジ(メール)「ちょっと会えない?」

マイ「6時にバイトが終わるから、いつものカフェで会おう」

 

 

#カフェ

 

マイが座っている。

シンジが来て注文する。

 

シンジ「それであのあとまたおかしなこととかあった?」

マイ 「うん、また過去に飛んだの」

   「やっぱり月が関係するみたい」「あと鏡ね」

シンジ「鏡?」

マイ 「鏡が時空を越えるカギなんだと思う」

シンジ「鏡と言えば、兄さんの形見も鏡だった」

マイ 「お兄さんの?」

シンジ「すごく大切にしててさ、最後に俺にくれるって」

   「最近、持ち歩いてる」

 

 

シンジが巾着から鏡を取り出す。

それは古びた漆器の鏡だった。女の人が持つような。

 

マイ「ちょっと手にとってもいい?」

シンジ「どうぞ」

 

手に取るマイ、涙が流れる。

 

フラッシュバック

(過去の映像)

 

#牢屋

 

牢につながれたマイに、漆器の鏡を渡す、シニル。

シニル「必ずまた会おう」「君を救って見せる」

 

 

#カフェ

 

驚くシンジ。

マイ「この鏡、知ってる」「これをなぜシンジが?」

 

シンジの兄は骨董品集めが趣味で、その鏡は骨董品店で買ったものだった。

マイ「大事な鏡だと思うけど、しばらく貸してもらってもいい?」

 

 

#マイの家

 

机の上に置かれた、手ぬぐい、鏡。

今日は満月だ。

 

月のパワーが一番強くなる時、

きっと私はまたシニル様のいるあの時代へ行ける。

 

そっと目をつぶる。

 

#韓国・牢

 

マイが目覚めると牢だった。

足が痛い、血だらけた。

 

シニル「マイ、マイ」

 

マイが見上げる。

 

シニル(泣きながら)「マイ、マイ、すまない、助けてあげられなくて、こんなつらい目に遭わせてすまない」

「本当は王様ではなくて、私がそなたをこの国に連れてきたかったのだ」

「あの神社に通ったのは、そなたに会いたかったから」

「すまぬ、私がそなたを連れてこなければ…」

 

(インサート)

神社に通うシニルの姿。

マイに見送られてほほ笑むシニル。

 

シニル「必ず.必ずやそなたを救い出す」「この命をかけてでもそなたを救い出す」

 

シニルがマイに、漆器の鏡を渡す。

「神に仕えるそなたを私のものにできぬのは分かっていたが、

せめて私の気持ちを伝えようと、これを準備していた」

「どうか身につけていてくれ」「これがそなたを守るだろう」

 

マイは弱々しくうなずいた。

 

#王の部屋

 

シニル「王様、どうか、どうか、マイをお助けください」

「私が身代わりになります」「王様!」

 

王「私もマイを助けたい、だが重臣らが言うことをきかん」

「今私が強く言えば、この王座すら危うくなる」

「一介の巫女のためにそこまですることはできん」

 

シニル「王様、私に妙案があります」

       「私を悪者にすればよいのです」

       「私がすべての罪をかぶります」

 

#朝廷

 

王「倭の使臣、キム・シニルが倭と内通し、朝鮮の機密を漏らしていたことが発覚した、

倭の巫女が王を洗脳したのではなく、すべてキム・シニルが図ったこと」

「よって、キム・シニルを大罪人とし、処刑する」

 

#処刑場

 

家臣「売国奴、キム・シニルを、斬首刑に処する」

処刑されるシニル。

 

#牢

 

ほおかむりをした神官が来る。

 

神官「マイ、歩けますか?ここから出ましょう」

マイ「でも…」

神官「このままではなたは死んでしまいます」

  「倭との戦が起きたゆえ、倭の者は血祭りに上げられる」

  「こっそり、逃がします」

 

 

足を引きずりながら歩くマイ。

 

#海辺の家

 

マイ、神官に聞く。

マイ「シニル様はどうなったのですか?」

神官「あなたの代わりに罪をかぶり、斬首になりました」

マイ「そんな…(嗚咽)

神官「それでも、あなた方はいつかきっとまた、会えるでしょう」

  「そんな気がします」

  「朝鮮と倭、2つの国の架け橋となるために」

 

#海辺の家

 

泣き暮らすマイ。

 

 

#海辺の家(数カ月後)

 

満月が出ている。

壱岐島で踊った時のように、

海と月が見守る中、神楽を踊る舞。

満月の光り降り注ぐ。光る漆器の鏡。

笛を吹く月読の命

 

 

#マイの家

 

カーテンから差し込む、満月の光りの中、

ベッドで泣いているマイ。

 

 

#朝

 

7時30分

 

マイ「そうか、すべて分かった」

  「私たちはこの時代に会う約束をしてたんだ」

  「そしてあの神社が私たちのルーツだ」

  「海と月の神」

 

今までの記憶、出会いからフラッシュバック。

 

 

#バス停

 

マイ「でもシンジは覚えてないんだよね…」

 

シンジがやってくる。

 

シンジをじっと見つめるマイ。

 

シンジ「何?何かついてる?」

マイ「ううん、何となく」

 

マイ(心の声)「こいつが、シンジがシニル様なの?

ちょっとイメージが違うけど」

       「あのさ、前世って信じる?」

シンジ 「前世~~?信じない」

マイ   「なんで?」

シンジ 「今、生きている自分すらあやふやなのに、そんなの信じられるかよ」

マイ   「そっか…」

       「私は信じてるけどな」

シンジ 「どうして?」

マイ   「見えるから」

シンジ (あきれて笑う)「ハッ」

 

マイ   「ねえ、もう一度だけ、あの公園に行こう」

 

#公園前

 

2人は学校をサボり、公園へ。

またあの湖の前にいる。

1人で来た時はおじいさんに会えなかった。何とか会いたいと思うマイ。

 

マイ「シンジがいるから大丈夫」

  「一緒にボートに乗ろう」

 

2人でボートに乗り込む。グルグルと何度も回ってみる。何も変わらない、

やっぱりダメなのか…

そう思った時、霧が出てきた。以前、来た時のように。

ふと前を見ると、向こう岸に、うっすらと最初に来た時にいた、白い服の女性が見える。

 

マイ「ほら、あの人だよ、あの時の」

シンジ「何だかウソみてえ」

マイ「ウソじゃないって、行こう、こいで!」

シンジ「いてっ!」

 

シンジを足でつつくマイ。

シンジ、必死にこぐ。

 

#岸辺

 

下りた時には、もう白い服の女性はいなかった。

 

マイとシンジは足早に、おじいさんの家へ向かう。

でも…あの家があったはずの場所には、

もう何もなかった。空き地になっている。

 

マイ「ウソ…どうして…」

がっくりと座り込む。

死んだお母さんの唯一の手がかりだったのに。

 

シンジが「マイ!これ!」と呼ぶ。

すると、なくなったと思っていた箱がある。

 

箱を開けるマイ。

中に手紙が入っている。

 

「マイへ

よくここまで来てくれたわね。

母さんはマイをずっと見守ってた。

いろんな不思議な力を持ったあなたが、苦しんだり、悩んだり、

お父さんとぶつかる姿もずーっと、空から見てたわよ。

独りぼっちでさみしそうなあなたを見る度に、

胸が痛んで、そばにいって抱き締めてあげたかった。

だけどいつかは、それもすべて乗り越え、

本当の自分を見つけてくれると思ってたわ。

あのおじいさんは、あの世とこの世の番人。

たまに紛れ込んでくる、この世の人々に、あっちの世界の住人からの伝言を伝えたり、

預かり物を伝えてくれる。

いつかあなたが来た時のために、あなたが自分の本当の人生を生きていくための、ヒントを残したの。

あなたの隣にいるのは、昔々からあなたをずっと、愛し守ってくれる大切な人よ。

大事にしてね」

 

 

マイ「お母さん…(嗚咽)

 

#公園

 

湖の畔で、ボートを下りる2人。

 

シンジ「見えない世界なんて、魂とか前世とかぜんぜん信じられなかったけど、

       本当にあるのかもな」

       「だとしたら俺は、何のために、なぜ生まれてきたんだろ」

 

マイを見た瞬間。5百年前のマイの姿が重なる。

シンジ、目をこする。

シンジ「あれ?今、なんか、見えた気が…」

マイ   「見えた?何が?」

シンジ(ごしごし)「気のせいだよな」

 

#バスの中

 

音楽を聴いてうたた寝するシンジ。

 

マイ「倭の国の巫女、日本の神を伝える…」  

  「朝鮮の使者…」

  「私は何者なんだろう」

 

シンジ「そうだ、そろそろ受験だけど、お前、どうするの?」

マイ「私?」「大学には行かないよ」

  「占いの館でバイトしようかな」

シンジ「家を出るって言ってなかった?」

マイ 「うん、そうだけど、もうちょっといようかな」

シンジ「お母さんの手紙のせい?」

 

シンジに、この手ぬぐいと鏡を預かってもらってみようと、ひらめくマイ。

 

マイ「ねえ、シンジ」

  「あの神社と海と月のてぬぐい、何日か預かってえもらっていい?」

  「あと、この鏡を返すね」「ありがとう」

シンジ「え?ああいいけど」

マイ 「あー、どっと疲れた」

 

シンジの肩に頭をもたれて寝るマイ。

シンジ、うれしそう。

 

#シンジの部屋

 

両親は、最近仲がいい、

夫が浮気してると疑っていたのがウソのようだ。

おかげで俺にも平穏が訪れた。

 

シンジ「そうだ、手ぬぐい」

   「机の上に置いとけって言ってたっけ?」

   「鏡も一緒に、だけど一体、これで何が起こるっていうんだ?」

 

窓の外、月が出ている。今日は新月だ。

横になるシンジ。

 

#夜・シンジの部屋

 

真っ暗闇。新月の光、鏡と神社が光り出す。

消えるシンジ。

 

#過去・朝鮮の海辺

 

巫女の踊りをするマイ。

シンジ、見ている。(魂で)

魂で泣くシンジ。

 

シンジ「いつか、いつか必ず、また会おう、約束するよ、マイ」

天に昇る。

 

 

#シンジの部屋 朝

 

泣きながら目を覚ますシンジ。

シンジ「あれ、何だったんだ?」

       「まさかあれが前世?」

 

#バス停

 

マイに会うシンジ、

マイの顔をまじまじ見るが何も言わない。

マイもあえて無言。

マイに重なった、過去の巫女の顔がフラッシュバック。

 

#その夜

 

机に向かって手ぬぐいを見るシンジ。

シンジ「この神社と海と月、鏡がカギだって?」

でも妙にリアルだった。

過去とは思えないほど…

 

ナレーション

「人は何度も生まれ変わり前世で果たせなかったバトンを持ってくる。」

「いくつもの過去のバトンの中から、今回はこれ!と決めて、地上に下りてくるのだ」

 

#シンジの部屋・夜

 

月の力が最も強くなった時、

再びシンジが過去世へ行く。

 

王との約束、神社での出会い、マイと過ごした日々、

あらゆることを見てくる。

そして、今世で果たし得なかった1つの約束も…

 

それはマイをあの壱岐の神社へ。

生まれ育った場所へ、戻してあげること。

 

#過去・サクラの花の下

 

花見をしていて、酔っ払ったマイ。

マイ、もたれかかる。

マイに口づけをするシニル。

シニル「きっとまた、倭の国のあの神社へ戻して差し上げます」

マイ、うっすら涙を流す。

 

#シンジの部屋・現在

 

前世での約束を思い出し、泣くシンジ。

 

シニル VO「きっとまた、倭の国のあの神社へ戻して差し上げます」

 

 

#バス停

 

マイが座っている。

シンジ「俺、思い出したよ」

マイ 「何を?」

シンジ「お前との約束」

マイ 「私との?」

 

シンジ、ほっぺにキスしてささやく

「きっとまた、倭の国のあの神社へ戻して差し上げます」

 

#壱岐の海辺

 

インサート ○年後

 

ナレーションマイ

「シンジは、結局、両親の会社を継いで、趣味で時々、家具を作っている」

「私は、父と仲直りし、本格的に韓国で巫女修行をして開業した」

 

バイクに乗って、海辺の丘を越え、海に向かってくる2人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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