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いかにして過去のコンプライアンス違反と共存するか——『炎炎ノ消防隊』にみる組織論

はじめに

 今回は「いかにしてコンプライアンス違反と共存するか——『炎炎ノ消防隊』にみる組織論」というタイトルで書きたいと思います。
 ご存知の方もいらっしゃると思うのですが、『炎炎ノ消防隊』(大久保篤、週刊少年マガジン連載、2015年〜)という漫画があります。現在も連載が続いており、アニメの第二期(弐ノ章)が毎日放送・TBS系列で放映中です。

 この作品には様々なモチーフ(元ネタ)が散りばめられており、それらを取り上げるだけでも一冊の本が書けてしまいそうな内容を含んでいます。
 しかし、それ以上にこの作品は幅広い年齢層に支持されるエンターテインメントであるだけでなく、子どもにも大人にも学びが深いと思われるメッセージを発信していると私は考えています。そのメッセージの一つが、「いかにしてコンプライアンス違反と共存するか」というテーマです。

コンプライアンス違反のモデルケースとしての『炎炎ノ消防隊』

 このテーマが扱われているのは、アニメ『炎炎ノ消防隊』第一期(壱ノ章)の第七話『第一調査開始』、第八話『焰の蟲』、第九話『燃え広がる悪意』です。
 主人公である森羅日下部(シンラ・クサカベ)は、普段は第8特殊消防隊に所属する隊員ですが、ここで第1特殊消防隊への潜入調査を行います。
 第1特殊消防隊の中隊長である烈火星宮(レッカ・ホシミヤ)は、名前の通り松岡修造ばりの熱血キャラなのですが、子どもたちを集めて人体実験をしていました。その人体実験とは、蟲によっても「焰ビト」化しない「適合者」を見つけるというものでした。ほとんどの場合は「蟲」によって「焰ビト」化してしまうので、子どもたちはその人体実験の犠牲になっていました。この人体実験のために子どもたちを集めてくる役割を担っていたのが、第1消防隊の環古達(タマキ・コタツ)です。

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(子どもたちに声をかけるタマキ。アニメ『炎炎ノ消防隊』壱ノ章第八話『焰の蟲』より)

 「焰ビト」と化した人々を鎮魂すること、これが特殊消防隊の任務であり、この組織の目的です。しかしながら、「蟲」によって人工的に「焰ビト」を作り出していたというレッカの行為は、特殊消防隊という組織の目的に相反するものであり、言い換えるならばコンプライアンス違反だと言えるでしょう。「コンプライアンス」とは、日本語では「法令遵守」と訳されますが、ここでは社内規則や社会通念に照らした倫理観のようなものを意味するものとして用います。そして『炎炎ノ消防隊』のストーリーは、言ってみれば『特殊消防隊という組織が、その隊員がコンプライアンス違反を犯した時に、どのように対処したか』のモデルケースを示しているといえるのです。

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(人工的に「焰ビト」化する「蟲」を使って、子どもたちの中から「適合者」を見つける人体実験を行なっていたレッカ。アニメ『炎炎ノ消防隊』壱ノ章第九話『燃え拡がる悪意』より)

いかにして過去のコンプライアンス違反と共存するか

 レッカはこの事件の主犯であり、コンプライアンス違反としては重い処罰が下されてしかるべき人物です。その象徴としてか、レッカはストーリーの中では死ぬ運命にあります。
 一方、この事件に間接的に関与していたタマキにもまた組織として処分が下されています。タマキはこの事件の当事者でありながら、同時に犠牲者でもあります。なぜなら、タマキは自分の集めた子どもたちが「焰ビト」にされるとは知らなかったからです。しかし、タマキもまた組織として処分が下されたということは、「事件に関与した以上は、知らなかったで済まされない」というメッセージを、『炎炎ノ消防隊』は視聴者に発信していると受け取れるわけです。
 タマキに下された処分とは、第1特殊消防隊における活動自粛であり、その代わりに第8特殊消防隊に無期限で研修配属されることになりました。特殊消防隊は別の部署で生かす道をタマキに与えたことになります。
 タマキが、本来は第1特殊消防隊に所属する隊員であるにもかかわらず、第8特殊消防隊にいるということは、その背後には常に過去のコンプライアンス違反が象徴されているわけです。
 その後、タマキが第8特殊消防隊のメンバーとして生き生きと活動している様子は、この続くストーリーを通じて、我々がいかにして過去のコンプライアンス違反と共存していくかの良いモデルケースとなっているのです。

おわりに

 今回はレッカとタマキの事件をコンプライアンス違反のモデルケースとして取り扱いました。実はこの事件には他にも言及すべきテーマが含まれています。それはレッカによる洗脳という側面です。この事件でレッカから被害を受けたのはタマキだけでなく、人体実験のために集められた子どもたちもまたそうなのです。ただし、この洗脳の側面については、現在放映中のアニメ第二期(弐ノ章)で決着がついておりませんので、別の機会に書きたいと思います。

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