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Dare Issue#11|Jay Royaleについて

今回は、以前の記事で紹介したデラウェア州に隣接する、メリーランド州の独立都市、"B-More"ことボルチモア市出身のJay Royaleにフォーカスします。

ボルチモア出身のMCとしては、A$AP Ant、Jayy Grams、King Los等が挙げられますが、ボルチモアのHip Hopと聴いてもあまりピンとこない人も多いかもしれません。

Jayの周辺アーティストですと、Ill Conscious、Jamil Honesty辺りは馴染みがあります。

加えてアンダーグラウンドシーンでは、90年代から活動するOGのK-MackやBloonz Billionfold、Dirt Platoon、Guy Grams等も、知る人ぞ知るって感じで、知名度があるアーティストは少ない印象です。(ブーンバップ以外はいるかも?)

ちなみに、自分がボルチモア出身と言われて真っ先に思い浮かぶのは、「SCARFACE」Elvira Hancockです(笑)

また、ボルチモアは、アメリカでも有数の治安の悪さで有名で、人口の過半数を占める、アフリカン・アメリカンの多くが貧困に直面し、超格差社会が犯罪を助長する社会構造となっています。

Jay Royaleのプロフィール

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Jay Royale(本名:Justin Johnson)は、メリーランド州イースト・ボルチモア出身の1980年代生まれのソロMC。2010年代前期は、「Gritty Gang」という地元のコレクティヴでも活動していました。

現在は、Pro Dillinger、Mickey Diamond、Snotty等が所属する、ハードコアなクリエイティヴ集団「The Umbrella Collective」に籍を置いています。

Jayの音楽性は、ド直球に言うと「90年代の東海岸スタイル」の直系ですが、更に嚙み砕くと、クイーンズやブルックリン辺りの影響も強く感じます。

また、オーセンティックという言葉がバチバチにハマる、「ザ・B-Boy」な出で立ちで、フィッテド&ティムズの王道スタイルで、POLO、Nautica、Tommyを始めとしたヴィンテージギアの愛好家でもあります。

特に影響を受けたアーティストは、AZ、Wu-Tang Clan、Big Pun、Sean Price、Kool G Rap、Westside Gunn等々を挙げ、ドープな音楽・ドープなアーティストが彼にとっての重要事項の様です。

Jayの父親はサウスカロライナ出身、母方の家族がボルチモア出身で、幼い頃は両親が愛聴していた、Ray CharlesやThe Shirelles、Sam Cooke等を聴いて育ちました。

彼の個性は、「The Boondocks」や「Curtis」といった漫画のキャラクターの会話やセリフからも大きく影響を受けているそうです。

Hip Hopに出会った当初は、MCハマーやRun DMCを聴き、クラウドを熱狂させる爆発的なエネルギーを感じ、自身もいつか観客を沸かせるアーティストになりたいという想いが芽生えました。

ボルチモアで育んだHip Hopへの情熱

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JayがHip Hopに対して向き合う姿勢は、まず何よりも「Hip Hopという音楽のファン、ヘッズであること」と語っています。

彼にとっての人生の救いは、聖書ではなく、ひたすらライムを紡ぐことに捧げてきました。

若い頃から、地元のThe Sound GardenというCDショップに通い、ディグを重ね、今でもCDコレクターであることを公言しています。

また、「Rap City」「Strictly Hip Hop」といった番組を録画・録音しては、夢中でHip Hopにのめり込んできました。

Jayの音楽は、黄金期のHip Hopスタイルにカテゴライズされますが、彼の音楽にふんだんに込められたリスペクトやオマージュは、ヴィンテージギアのリバイバルの様に、復刻・再構築され、新たな価値の継承を実践しているように思います。

親交の深いボルチモアのアーティスト

彼の相方の様な存在でもある、ウエスト・ボルチモア出身のIll Conciousもまた、90年代のHip Hopを忠実に再現した作品を多数リリースしています。

Conciousの使うビートに関しては、Jayの様なハードコア・ブーンバップとは少し毛色が異なり、A Tribe Called Quest等を彷彿する様な、ジャジーさが垣間見れる感じのモノが多いです。

とはいえ、彼はプロダクションに関しては割とフィーリング重視で、リリック映えがする、ノスタルジックさのあるモダンなトラックを選ぶそうです。

彼のラップは、ボルチモアのいびつな社会構造や現実を生々しくも深みのある、知識と知恵のライムでリリカルに表現しています。

Jay RoyaleとIll Conciousの組み合わせは個人的にも大好きで、ボルチモア・アンダーグラウンドを象徴する様なアイコニックな存在であることにとても魅力を感じています。

また、未発表のままとなっている「The Tutelage」という共同プロジェクトも、お互いのタイミングが合致した時に何らかの形で出すそうです。

両者とも親交の深い、スタテンアイランド出身のMC、プロデューサーのJamil Honestyもまた独特の異彩を放ち、スタテン・WU信者特有の音楽性や空気感をボルチモアの地で表現しています。

また、Jay Royaleの確固たる音楽性を支える、ボルチモアのプロデューサー、Ray Sosaの存在も外すことができません。

Ray Sosaのビートは、往年のクイーンズ感溢れるピアノのワンループに、硬質で乾いた分厚いドラムが特徴的です。

Jayのソロ作品内の1/3以上はRay Sosaが手掛けているので、Jayのビートの方向性を築く、重要な基盤となっています。

その他にJayは、Ill Bill、Buckwild、Vinnie Paz、Snowgoons、Machacha、Rasheed Chappell、Daniel Son、Supreme Cerebral、Milano Constantine、Big Twins、Grime Lords、B Leafs、Substance810、Asun Eastwood、M.A.V、IAMT2、Guy Grams、Sauce Heist等々・・・挙げきれない位の名だたるアンダーグラウンドアーティスト達との客演やコラボレーションを行っています。

Jay Royaleのディスコグラフィ

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最後に、2012年以降のJay Royaleの作品を紹介します。昔から、好き所のHip Hopが変わらないのが伝わり、軸のブレないカッコ良さを感じます。

勿論、現行メインストリームでウケる様なHip Hopでは無いですし、これだけ音楽的にも多様化が叫ばれる現代ですが、好きな物を貫き、スタンスにこだわりを持つアーティストは"ドープ"だと思います。

自分がカッコ良いと思った音楽をやればいいし、聴けばいい、そんな至極シンプルなメッセージを、いつも彼等の様なアーティスト達から受け取っている気がします。

未聴の作品があれば、是非聴いてみて下さい!

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「The Crown Royale Mixtape」(2012)
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「The Decline」(2015)
「The Collab Work EP」(2018)
「The Ivory Stoop」(2018)

本作のタイトルは、ボルチモアの長屋に敷かれた大理石の階段(=Stoop)を意味します。

廃屋となった建物の屋上はドラッグディールの温床となったことから、Jayはボルチモアの「トラップハウス」の象徴として、Hip Hopカルチャーと結び付けたそうです。

この作品では、イースト・ボルチモアの生活そのものをHip Hopに落とし込み、この街のイントロダクションとして位置付けています。

彼にとって、本作が自身のキャリアの駒を進める重要な作品となり、デンマークのレーベルCopenhagen Cratesから、初のVinylやカセットテープのリリースも行いました。

イースト・ボルチモアのストリートの明暗を投影する様な、冷淡でモノクロームな世界観を感じることができます。

前半こそ、夜明けの訪れを感じる様な温かみのあるビートで展開しますが、中盤から導入するRay Sosaのビートは、Mobb Deep「Hell On Earth」を思わせる、ハードなブーンバップへと切り替わります。

Benny The Butcherを客演に迎えた「The Iron」や、Conway The Machineとの「Walk With A Gun」では、GRISELDA節全開の硬派すぎるビート上でのスキルのぶつけ合いが聴き所です。

Jay Royale作品ではお馴染みの、ベルギー出身のDJ Grazzhoppaによるスクラッチも随所で華を添えます。NasやRakimのサンプリングも是非探してみて下さい。


「The Baltimore Housing Project」(2020)

前作のエンディングから繋がり、続編という位置付けとなった「The Baltimore Housing Project」では、ボルチモアの"プロジェクト"の話と彼の"プロジェクト"の続編という意味のダブルミーニングとなっています。

本作は、前作で語られたボルチモアの全貌から、更に掘り下げたストリートのリアルな側面をテーマにしています。

ボルチモアの人々が見る街の視点や声を、この街を知らないリスナーに伝えるストーリーとして語られます。

この作品の客演には、SkyzooRansomTermanologyWillie The Kidといった、現行アンダーグラウンドの第一線で活躍するベテラン勢を取り込み、Jayが次の段階に移行したことを示唆しています。傍らには勿論、パートナーであるIll Conciousも参戦。

「The Ivory Stoop」よりも物悲しく、ダークでグライミーな楽曲が中心となった本作は、ブーンバップリスナーやリアルなHip Hopを好むサポーターに捧げた作品だと語っています。

「Skee Rak」「Pearl Handle」、本人も気に入っている「Reef Clouds」辺りのシリアスなビートは、その世界観を十分に反映した良曲となっています。

Jay Royale Instagramアカウント
Jay Royale Twitterアカウント
Jay Royale Bandcampページ

peace LAWD.

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