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Dare#12 「バッファロー・クイーン vol.2」|Che' Noirについて

Armani Caesarに続き、バッファロー・クイーンの第二弾はこの人、Che' Noirをピックアップします。

ニューヨーク州・ロチェスターのコレクティヴ、「TRUST GANG」が活発なリリースを行っていた、2018年以降に彼女の存在を知り、その動向を追ってきました。

発展途上ながらも、確かなラップスキルと恵まれた声質で、ここ数年急成長を見せてきたChe' Noir。

"ポスト・Rapsody"と言われるまでになった、彼女のバックグラウンドやこれまでの歩みについて触れていきます。

Che' Noirのプロフィール

Che' Noir(本名:Marche Lashawn)は、"Butter Queen"の異名を持つ、ニューヨーク州・バッファロー出身の27歳のMC・プロデューサーです。

彼女は、ロチェスター出身の38 Speshが主催する、「TCF(Trust Comes First Music Group:通称、TRUST)」に所属しています。

Cheの音楽性は、DMX、Foxy Brown、Jay Z、Biggie、2PAC等、90年代黄金期に活躍したアーティストから大きな影響を受けました。ヴァースやパンチラインについては、特にJadakissを参考にしていたそうです。

バッファローからワールドワイドへ

Cheは、ニューヨーク州でも犯罪率の高いバッファロー出身ということで、幼い頃からゲットーでの貧困やバイオレンス等を目の当たりにし、その劣悪な環境や生い立ちをライムに綴ることを自身のスタイルとして確立してきました。

彼女にとって、生い立ちや境遇は自身の音楽の大きな糧になっており、自分が自分であるために、必要不可欠な要素だと語ります。

また、Cheは同じ境遇を持つ、プロジェクトの人達のための音楽を作っていると言います。

Cheの音楽キャリアの入口は、ビートメイキングからでした。15歳の頃に付き合っていたボーイフレンドが地元のプロデューサーで、FL Studioを使用していたことから、高校の授業が終わると毎日の様にビート制作に勤しんでいたようです。

16歳の時、自分の作ったビートに初めてラップを乗せましたが、その頃はまだ本気で音楽に取り組むことは考えていませんでした。

本格的なラップキャリアの始動は21歳頃からで、バッファローにある友人のアパートメントにスタジオを作ったところから始まります。

その後、ナイアガラフォールズにスタジオを持ち、当時知り合ったBenny The Butcherと「Tyson」という曲をレコーディングしています。

Bennyは以降から、Che' Noirのことを「ホットなスピッター」として何度か公の場でも紹介しています。このことも彼女の才能に対する大きな自信につながっていたようです。

Cheはひたむきに音楽活動を継続する一方、何度か大きな挫折を経験します。

2017年、ショーケースに出演するため、アトランタに向かう予定だった彼女は、同伴者に約束を反故にされ、バスでアトランタに向かう羽目になった上、ライブでは大ブーイングを受けてしまいます。

更に数ヶ月後、シカゴで現地プロデューサーとEPの制作を行いましたが、リリース手前で、スタジオに侵入した何者かに全てのセッションデータを壊されてしまい、そのプロジェクトも白紙となります。

不運続きだったCheは意気消沈していましたが、そんな時に彼女の支えとなったのは、周囲からの期待や声援でした。

アトランタの件で落ち込んでいた時も、同郷バッファローの先輩でもある、Westside Gunnから「You Dope!Keep going」と声をかけてもらったそうです。

その後、2018年には38 Speshに気に入られ、TRUSTへの加入、多方面での客演、ソロプロジェクトの推進等、2020年に至るまで順調にキャリアを進めてきました。

そんなCheに再度、大きな試練が待ち受けます。彼女は、昨年の5月に最愛の弟を亡くし、音楽活動を一時休止していました。

再開して新たな制作を進める最中、今度は8月にコロナウイルスに感染して活動に足止めを食らいます。

現在は、音楽活動を本格的に再始動させ、2022年の初頭にニューアルバム、「Food For Thought」をリリースしました。

38 Speshとの出会い、TRUSTファーストレディの誕生

Che' Noirのキャリアの大きな転機となったのは、バッファローからほど近い、ロチェスターを拠点に活動するMC・プロデューサー、38 Speshとの出会いでした。

彼女は、Speshの存在を元々認知しており、Facebookではフレンドになっていたそうですが、その後に「The Thrill Of The Hunt」のリードシングル、「Champions」を彼に送ったところ、3分で返事が来て、翌日にはロチェスターに出向き、TRUSTのファーストレディとなります。

Speshは、Cheの才能に心底惚れ込み、彼女を表舞台に押し上げるために全面的なバックアップを行っています。

ライブ中のトークでも、本人を目の前にその才能をベタ褒めしたりと微笑ましいまでの溺愛っぷりです。

Cheは、Speshから音楽やビジネスのプロフェッショナルな手ほどきを受け、「Son Of G Rap」のレコーディングでも「俺が君の最大の批判者になる。もし気に入らなかったら遠慮なく言う。最高のヴァースを持ってくるまで妥協しない」と、ストイックな姿勢を示されます。

近年のCheの作品を聴けばわかる通り、ラップの抑揚やビートメイク等においても、彼からの影響を随所に受けている印象があります。

「TRUST GANG」は、GRISELDA加入前のBennyが参加していた時期があったり、年代によってメンバー編成がだいぶ入れ替わってきましたが、現在は、38 SpeshRansom、Che' Noirが、TRUSTの三枚看板として定着しています。

"MC"としての彼女のアイデンティティ

Cheは以前、ドレスコードや扱う曲のトピックについて、ある種の「ウケの良いもの」をやるように周囲からアドバイスを受けていたそうですが、彼女にとってそれは価値の無いものでした。

Cheは作品を作る上で、自分の感情にとても忠実であり、自身の弱さを見せることにも恥じず、常に強い女性像を演じる必要性がないことを語っています。

世間一般の描く、"フィメールMC像"をことごとく粉砕し、この業界の悪しき価値観やしきたりを破壊・再構築していく様が、彼女の音楽の痛快さと魅力です。

Cheの掲げるビジョンは、「他の誰よりも目立つこと、人と違うことをすること」それらを見事に体現してくれています。

彼女は、プロデューサー・MC、どちらのレーンに立っても、男連中よりも優れた能力を発揮できる自信に満ち溢れているのです。

そして、自らを偽ること無く"自分らしくいること"、それがChe' NoirのフィメールMCとしての一番のアイデンティティだと感じます。

Cheはまた、デトロイトの骨太プロデューサー、Apollo Brownとの共作、「As God Intended」のリリースによって注目を浴び、多くのフォロワーを獲得します。

彼女が敬愛する、グラミー賞へのノミネートやBETのリリシストオブザイヤーとしても名高い、「Roc Nation」「Jamla Records」所属のRapsodyや、同じく各所で高い評価を得ている「Rhymesayers」所属のSa-Rocからも称賛を受けました。Sa-Rocとは既にコラボレーションも果たしています。

また、Cheが一番プロデュースしたいアーティストは勿論、"Rapsody"だそうです。おそらく時間の問題だと思いますが実現が楽しみですね。

Che' Noirのディスコグラフィ

Art by.Data Mack 

男臭いTRUST GANGの紅一点として、彼女の存在が認知されるきっかけとなったのは、38 SpeshとKool G Rapの強烈なタッグ作、「Son Of G Rap」に収録された「Young 1's」です。

DJ Premireがプロデュースした熱気ムンムンのブーンバップで、鮮烈にその存在感を残しました。

その後の「38 Strategies Of Raw」「The Trust Tape 3」での活躍は言うまでもないですが・・・とにかく、久しぶりにパンチの効いた、ドープなハーコー女子来たーって印象でした。

ビートメイキングに関しても、フル・セルフプロデュースの「After 12」辺りから本腰を入れ出したようで、今後は外部仕事も増えてくると面白くなりそうですね。(実は、ラップよりプロデュース業の方が好きなのだそう)

また、ナイアガラフォールズのMC、 Jynx716のEP「Careful What You Wish For」では、全曲フルプロデュースを行っています。(まだ出てないみたいですが)

過去のソロ作品もMixtape形式ではありますが、その勇猛なスピットの原点を探ることができるので、一聴してみてはいかがでしょうか?

「POETIC THOUGHTS」(2016)
「The Thrill Of The Hunt」(2018)
「The Thrill Of The Hunt 2」(2018)
「Juno」(2020)
「As God Intended」(2020)
「After 12」(2020)
「Food For Thought」(2022)

リリースされたばかりのChe' Noir待望の新作、「Food For Thought」では、12曲中、6曲をセルフプロデュースし、その他、CartuneBeatzTricky TrippzGods ChildrenChupJR SwiftzMotif Alumniらが参加。

客演には、Jynx7167xvethegeniusArmani CaesarRansom38 SpeshRome Streetzを迎え、彼女のリスナー層にも馴染みの深いメンツで固めています。

プリモエッセンスを感じる、セルフプロデュースの「Bless The Food」、TRUST衆によるGシットの「Table For 3」、飛ぶ鳥落とす勢いで躍進中のRome Streetzを、贅沢にフック起用した「Gold Cutlery」、JR Swiftzとの相性も抜群の「Brains For Dinner」辺りは堪能させて頂きました。

また、本作一番のハイライトといっても過言ではない、バッファロークイーンズ揃い踏みの「Ladies Brunch」では、マフィオーソ系の渋さ全開なビートで、各々スキルフルでタフなマイクリレーを展開しています。

「TRUST」「Drumwork」、「GRISELDA」のファーストレディ達のボス感がヤベー・・・(笑)個人的には、ArmaniがChe'、7xveとどう混ざり合うかが非常に楽しみだったので、GRISELDAのボイスタグからのラストヴァースへの流れにはクソ痺れました!

延期からの満を辞してリリースされた本作ですが、まだまだ2022年は始まったばかり。Che' NoirやTRUSTのネクストの動きにも期待が高まります!

Che' Noir Instagramアカウント
Che' Noir  Twitterアカウント
Che' Noir オフィシャルサイト

peace LAWD.

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