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Dare#10 「バッファロー・クイーン vol.1」|Armani Caesarについて

2021年も、大いにN.Y Hip Hopを盛り上げてくれたバッファロー勢に敬意を込め、GRISELDAのメンバーで締め括りたいと思います。

GRISELDAのファーストレディこと、Armani Caesarがメンバー入りした当初は、単に意外性を狙ったWestside Gunnの策略だと思っていました。

しかしながら、彼らとArmaniのつながりを遡ることで、その関係値の深さや脈絡のあるストーリーを知ることができます。

また、近年の女性アーティストの地位向上や多方面での活躍が、シーンそのものに強い影響力を与え、より活性化を促す力を持つことを、彼女から感じ取ってもらえたら面白いかと思います。

Armani Caesarのプロフィール

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Armani Caesarは、ニューヨーク州・バッファロー出身の32歳のMCです。

MCネームは、昨年コロナの合併症で亡くなった、バッファロー出身の故DJ Shayが名付けの親です。"Armani"はアフリカで「信仰」を意味し、"Caesar"は、古代エジプト王「カエサル」のことで、支配者の権威的なエネルギーを表しています。

Armaniは現在、Westside Gunnの主催する、「Griselda Records」に所属し、自身でも「Mani Moves」というレーベルを持っています。

見た目はド派手なギャルですが、音楽活動以外にも、自身のブランド「Armani's Closet」等を経営する実業家としての一面も持ちます。

Armani Caesarの経歴

Armaniは、母親が聖歌隊、祖母がHip Hop好き、叔父はDJという音楽好きの一家に育ち、幼い頃から母親が熱烈なファンだった、Lil' KimやEVE、Biggieや2PAC等を聴いて育ちました。

また、Hip Hopに限らずロックも好んで聴いており、No DoubtやSpice Girls、Kurt Cobain等もお気に入りだったそうです。

12歳頃からラップをすることに興味を持ち、高校1年の時にライムを書き始めました。

一番最初に乗せたインストは、The Clipseの 「Grindin'」だったそうで、SoundclickやLimeWire等の共有サイトでインストを拾ってきては、車や家の中でリリックを書いていました。

Buff City Records時代

Armaniは16歳の頃に、バッファローのParkside AvenueでShayが運営していた、「Buff City Studio」の門を叩きます。

そこに居合わせた、BennyやShayの目に留まり、「Buff City Records」に加入することとなりました。

ArmaniはBuff City時代に、デビュー作の「Bath And Body Work」「Hand Bag Addict」をリリースしました。("ハンドバッグ中毒"は、ShayがArmaniに付けたあだ名だそう)

ノースカロライナへの移住

その後、North Carolina Central Universityに通うため、ノースカロライナ州に移住してからは、一時Buff Cityとの関係は疎遠になります。

彼女は大学で、「Hip-Hop In Context 1993-1997」というクラスを専攻し、Kid 'N PlayのPlay(Christopher Reid)や9th Wonder等、業界の著名な人物から講義を受けたそうです。

Armaniは9th Wonderに、Lil' Kimイムズバチバチの「Bath & Body Work」を聴かせましたが、リリックの反応があまり良くなかったそう。

大学時代は、Hip Hopカルチャーの歴史のみならず、音楽的な多様性や様々な価値観を学び、Armaniにとって、現在のスタイルにも通じる基礎を築くことができました。

Armaniの第二の故郷となった、ノースカロライナ州・シャーロットでは、ストリップクラブでダンサーをやりながら、生活費やレコーディング費用、事業立ち上げのための資金作りに明け暮れました。

彼女は、知り合いのいないノースカロライナの地で、自分の夢の実現のために惜しみ無い努力を積み重ねてきたのです。

その後、2015年に「Caesar's Palace」をリリースし、シャーロットで活動基盤を築いた彼女は、偶然の出会いから、有名シンガーソングライター・プロデューサーのRico Loveの「Turn The Lights On」というアルバムに参加し、まさかのRaekwonと共演することに。

また、2017年には、シャーロット出身のMC、DaBabyの「Above the Rim」や、2019年のWale feat .Megan Thee Stallionの「Pole Dancer」のMVにカメオ出演する等、着実に人脈や経験を蓄えてきました。

2020年、Armaniの旧友でもあり、シーンに一大革命を起こしたGriselda Recordsと満を持して契約し、現在に至ります。

Buff City・GRISELDAのファーストレディ

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Armaniのキャリアを語る上で、GRISELDAも勿論重要ですが、彼らと密接なつながりがあった、バッファロー出身のDJ Shayの存在も切り離すことは出来ません。

彼は、現在のバッファローシーンの隆盛を築く礎となった重要人物で、GRISELDAの成功もArmani Caesarという存在も、Shayがいなければ成立していなかったかもしれません。

バッファローシーン全体のメンターであり、父親的な存在であったShayが居なくなったことは、バッファローにとって大きな損失でした。

現在は形としては残っていませんが、Shayが立ち上げた「Buff City Records」には、当時、B.E.N.N.E.Y. as 2 Chain Bennymane(現Benny The Butcher)やKannon as Jimmy Conway(現Conway The Machine)も所属していました。

Armaniは、スタジオ
に居合わせたBennyやShayにラップを聴かせると、「コイツのスピットはヤベー!」となって、Buff City Recordsのメンバーに招かれることになります。

当時、メンバーには既にファーストレディがいたそうですが、その人はあまりイケていなかったらしく(笑)、Armaniが入れ替わる形で加入しました。

彼女が、ノースカロライナとバッファローを往来していた時期、Conwayはアトランタに引っ越していて、Gunnはオツトメ中だったらしく、2人にはあまり頻繁に会うことはなかったようですが、同じくBuff City Studioで出会っています。

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Buff CityからGRISELDAへ

時を経て、別の形でバッファロー勢と合流することになりましたが、Gunnは、"ファーストレディ"として迎えるメンバーは「Armani以外は考えられなかった」と言います。

Armani自身も、GRISELDAの活動はずっと注目し続け、彼らの示すビジョンの明瞭さに惹かれ、新興勢力としてのフレッシュなムーブメントに参加したい、という想いがあったそうです。

ファミリービジネスに重きを置き、成功を掴んだGRISELDAにとって、信頼のおける彼女をパートナーに選んだのは、ごく自然な流れだと感じました。

Gunnの求める、「どんなスタイルもこなせる、オールラウンダーなアーティスト」というニーズに、Armaiは十二分に応えることのできる存在です。

2020年にGriselda Recordsとの契約後、Gunnの曲、「Lil Cease」で客演デビューを果たし、その後にデビュー作の「THE LIZ」をリリースしました。

2021年は、GRISELDA周辺の客演以外は特に個人の作品は出していませんが、来年には続編、「THE LIZ 2」や、ラジオ向けのプロジェクト等も計画しているようです。

女性アーティスト、実業家としての活躍

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Armaniの持つアーティスト観は、自身の学びから得た、多様性を持つこと、枠にハマらないことの大切さを語っています。

それは、音楽であれ経営であれ同様で、彼女のアグレッシブな活動に魅了された男性ファンも多いのではないでしょうか。

女性は常に「見られている」、「聞かれていない」と言われてきた世界で、近年は男性以上の活躍をするアーティストや実業家もどんどん増えてきています。

勿論、彼女も女性としての芯の強さや、男勝りのスピットをしてきたMCですが、ジェンダーの線引き以上に、何よりもこのゲームを楽しもうとするポジティブな姿勢が、Armaniの魅力の一つです。

Hip Hopチャートを女性が席巻する時代となり、今後のビジョンとしては、更に女性アーティスト同士の団結を強め、Megan Thee Stallion等とのコラボレーションも実現したいと語っています。

また、Armaniにとって、ストリートもストリップクラブもそれぞれのステージは違えど、ハッスルすることに違いは無いと言います。

ストリッパーとしての経歴を包み隠さず曝け出し、メッセージとして伝えることで、同様の境遇を持つ女性達からの共感を生み、力になることを彼女は望んでいます。

だからこそ、同じバッファロー出身のChe' Noir等のハードライマーとは、また違った角度でのライムができること、それが彼女の強みとなっているのです。

また、Armaniは南部発祥のサザンビート、GRISELDAのグライミーなサウンド、どちらのファン層も満足させるアプローチができ、メインストリームとアンダーグラウンドの架け橋にもなれる存在です。

そして、その役割を担う女性アーティストは、これまでに中々見られなかったタイプだと思います。

実業家としてのArmani Caesar

音楽以外では、タグ付きで一度も着ていない服や、ショーや写真撮影に一度だけ使用した服等を売ったことで始まった、ECショップのArmani's Closetでの華々しい成功も収めています。(フォロワー14万!)

ちなみに、Megan Thee Stallionが「Armani's Closet」のドレスを着用したことも話題になりました。

また、ArmaniはMalcolm Xに感化され、ブラックビジネスのサポートやコミュニティに対する還元を強く望み、自身の経験を生かした起業家に対する支援活動等々、様々な分野での活躍を見せています。

彼女の基金である「 Black Girl Foundation」では、パンデミック下において、困っている人々の請求書の支払いや物資等を支給し、地域社会やブラックコミュニティへの貢献活動にも努めました。

Armani Caesarのディスコグラフィ

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Buff City Records~現在のGriselda Recordsに至るまで、Armani Caesarのこれまでの軌跡を紹介します。

クラシックなビートからメジャータイプのビートまで、そのキレのあるスピットとエッジの効いたリリック、大衆向けの見せ方も含め、パフォーマンス力の高さも評価のポイントであると感じます。

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「Bath & Body Work」(2009)
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「Hand Bag Addict」(2011)
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「Caesar's Palace」(2015)
「1990 Caese」(2018)
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「Pretty Girls Get Played Too」(2018)
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「THE LIZ」(2020)

Griselda Recordsからのデビュー作、「THE LIZ」は、アトランタにあるWestside Gunnのレコーディングスタジオ、「The Five」で1週間で完成させました。

LIZの名前は、アメリカのファッションデザイナー、Liz Claiborneが由来です。その他に、女優のElizabeth Taylorや著名なプロレスマネージャーのMs.Elizabethを融合させた、複数の意味を持つタイトルになっています。

クレオパトラを演じたTaylorとカエサルの名を冠する自身のつながりを意識し、また、自分にとってのMs.Elizabethの様な存在であるGunnと共に制作を行ったことを意味しています。

Elizabeth Taylorが描かれたジャケットアートは、GRISELDA周りの作品でお馴染みの、Isaac Pelayoが担当しました。

Redmanの「Da Countdown」の声ネタを引用した、「Countdown」やDJ PremireのビートでBennyと鮮やかなハスラーラップをキックする「Simply Done」等、旧来のHip Hopヘッズへのサービスは勿論のこと、「Drill a RaMA」「Yum Yum」の様な曲で汎用性の高さを見せつけ、自身のファン層へのアプローチも忘れません。

また、「Simply Done」の収録時、Armaniは誰が作ったビートか聞かされていなかったようです。Gunnは、彼女に気負いさせない様に配慮し、後からPremireのビートだということを伝えた、というエピソードもあります。

GRISELDA、そしてニューエイジの新たなアイコンとなるべく、彼女のオリジナリティへの探求心はこれからも留まることはなさそうです。

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peace LAWD.

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