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Dare#6 「生粋のバッファローキッズ」|Billie Esscoについて

Hip Hopシーンにおいて、革新的なニュームーブメントを起こし、サクセスストーリーとレガシーを見事に築き上げた"GRISELDA(GxFR)"

しかし、大きな変革の側面には、必ず別の重要なファクトが存在します。

彼らと同じ、ニューヨーク州北部・バッファロー出身で、GRISELDAとも深い関係を持つクリエイティブ・アーティスト、Billie Essco

現行のNY Hip Hopシーンにおいて、最もHOTなエリアとなった716/Buffalo

その地で彼が積み上げた、ファッションや音楽の類稀な才能と多彩なキャリア、そして地元カルチャーの隆盛に貢献してきた背景を紹介します。

Billie Esscoのプロフィール

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31歳のBillie Esscoは、GRISELDAのメンバー達と同じ、イースト・バッファロー出身のMC、ファッションデザイナー、クリエイティブディレクターです。

"Billie Essco"の他に、"Chase Dinero"、"Uptown Chase"、"Bizzy B"等の別称を持ちます。

2005年から音楽活動を始め、現在は自身のインディペンデントレーベル、「Cafe Recordings」から作品のリリースを行っています。

また、音楽活動以外のもう一つの顔として、クリエイティブスペース・ストリートウエアブランド「CAFE+CZEN」の代表でもあります。

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Esscoは、先日癌で亡くなった、ファッションブランド「Off-White」の創業者であり、「LOUIS VUITTON」の黒人初のメンズ・アーティスティック・デザイナーの"Virgil Abloh"からも、ファッション面や人間性において、多大なインスピレーションを受けていました。

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Billie Esscoとファッションについて

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Esscoは、地元のラファイエットハイスクールを卒業した後、州立のバッファロー・ステート・カレッジに通い、ファッションデザインと美術史の学士号を取得しました。当時は、「1990s」というブランドを作ったそうです。

学生時代から、スニーカークルーの立ち上げに協力したり、スニーカーの売買を行って"学資金"にする等、ファッションに傾倒した学生時代だったようです。

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Esscoは、彼にとってもう一つのアートフォームである「ファッション」を通じて、自身の理念や思想、メッセージをフッドであるバッファロー、そしてグローバルに向けて投げかけています。

彼自身のブランドで、結合した思想と異なる機能に分かれた、"Cafe""CZEN"、それぞれに込めたコンセプトについてはここで多くは言及しませんが、人々に独創的な価値とライフスタイルを提供することに情熱を注いでいます。

Esscoは、都会的で高級志向のハイブランドとゲットー産のカルチャーの並存、ストリートウエアをランウェイで歩かせることの意味について深く考えています。

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「ファッションに必要なものではなく、誰かの "日常 "に必要なもの」それこそが彼のファッションに対する哲学の様に感じます。

Camoflauge Monkとの関係

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GRISELDAと親密なプロデューサーの1人でもある、"Camoflauge Monk"とEsscoは従兄弟同士の関係です。

2人は親族の葬儀で出会い、15歳から今日に至るまで活動を共にする仲となりました。

彼が音楽活動を初めたきっかけや、ファッションにのめり込むようになったのも、Monkがいなければあり得なかったといいます。

Esscoは、Monkからエアジョーダンのスニーカーサイトを教えてもらったり、当時日本でしか手に入らなかったG-SHOCKを引いてもらったり、Alchemistのインストで初めてヴァースをキックしたり、彼の人生を大きく変える出会いだったようです。

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また、共に2008年に結成された"F1rst Class"という地元クルーの立ち上げに関わり、メンバーにはプロデューサーの"Mitch Arizona"、ラッパーの"Jae Skeese"(現、Drumwork Music Group)、"OG Sole"らが所属しています。

パリで得たインスピレーションをそのままに、2020年にリリースされた"Westside Gunn"のマスターピース、「Pray for Paris」では、Monkプロデュースの"327"にフックパートで参加しています。本人いわく、過去一のデキと評するこの曲で、Joey Bada$$、Tyler The Creatorといったビッグネームと共にその存在感を残しました。

Billie Esscoの音楽観

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当時一緒に住んでいた、Jae Skeeseの部屋で録音した「The Chase」から10年余り、Esscoは音楽に対して情熱を注ぎ続けてきました。(Datpiffでも過去の音源がいくつか聴けるので是非!)

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Esscoの紡ぐリリックには、ライフスタイルは勿論のこと、時事的な社会問題や人種差別、政治等に対する批判的なスタンスやファッションに対する言及を多く含んでいます。

特に、物事を批判的に主張することが、Esscoのアートへの原動力となっています。

彼は独自のライティングメソッドを用いてライムを書くそうで、一つは"Front of the brain "、もう一つが "Back of the brain "と呼んでいるそう。

また、あえてバッファロー訛りのアクセントを強調し、時に鋭く、時にシルクの様な滑らかで色のあるフロウを放ちます。

Esscoは自分の音楽について、「全ての物事の真ん中」、「黒と白の中間のグレーゾーン」、「ゲットー・クチュール」と表現しています。

ハイブランドファッションにあえてストリートウエアを合わせるように、彼の思想そのものが様式美に捉われない、折衷的なモノの見方に優れていると感じます。

Billie Esscoの作品

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Esscoの作品は、グライミーで凍て付くバッファローサウンドにとらわれず、トラップビートでのアプローチや、ある種固定化された枠組みの定義さえも取り払う、深化したプロダクションによって生み出されています。

そして、作品毎に異なるコンセプトを持ち、そのフィールドの中ですら形容し難い、異質なタイプのサウンドを使い分け、自在なフロウを泳がせ、自身の持つ強いメッセージ性をスピットしています。

時に神秘的でメロディアス、ダークで甘美、古典的でありモダンな感性は、アーティストと呼ぶに相応しい独創性に富んだ別世界に連れていってくれます。

今回は、Billie Esscoが認知され始めた、2016年以降の作品を紹介します。

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2016年にリリースされた「Gallery」は、筆者が初めてEsscoの音楽に触れた作品でした。

この頃はGRISELDAの革命前夜に魅了され、その周囲のアーティストを聴き漁っていました。

この作品では特に、Daringerの手がけた"Patta"をヘビロテしていたことを思い出します。

Off-WhiteのNEBRASKAに身を包み、ファッションショーに見立てたMVが超クールです。

F1rst ClassのMitch Arizonaを中心に構成された作品全体の異質なオシャレ感は、アートギャラリーの様なタイムレスなデリバリーに溢れています。​

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2018年作の「CAFÉ」は、自身のブランド"Cafe"のアイデアを発表することがコンセプトで、音楽はそれに付随したものとなっているそうです。

この作品は前半から結構重ためで、割と一貫したハードな楽曲構成のため、バッファローらしさも十ニ分に詰まった作品です。

この頃のEsscoはセンシティブな問題を抱えていたようなので、唯一のストレス発散になっていた音楽に、そのフラストレーションをブツけたそうです。

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同年にリリースした「Summer's Over」は、ビルボードのプラチナレコードを持っているバッファローの"Droyd"というプロデューサーが参加しています。

これまでとは一変して、メジャーよりのサウンドで固まった本作は、Esscoの挑戦的な姿勢が垣間見えます。

しかし本当にこの人は変幻自在というか・・。Jae Skeeseとの「500」やF1rst Classとのポッセカットではしっかり硬質な部分も残しています。

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「Venting in Vetements 3」で始まる、2019年の「Aesthetic Raps」では、文字通り自身の美学についてラップを通して伝えています。

コンセプトに固執しないことが一つのテーマとなっており、Esscoのこれまでの作品を濃縮したかのごとく、洗練された楽曲群が並びます。

ここでも中毒性の高い音楽性を発揮する、Mitch Arizonaの都会的なビートがアクセントになっています。

この作品は、12/3に"Tuff Kong Records"からVinylもリリースされます。

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2020年リリースの「Esscargot」は、元々は「Aesthetic Raps 2」 という続編タイトルになる予定でしたが、同年にGunnと参加した、パリでの"ファッション・ウィーク"を通じて、Esscoはネクストレベルのインスピレーションを得たようです。

色鮮やかで目を惹くカバーアートは、Off Whiteのファッションショーで知り合ったフランスのアーティスト、"Johanna Tordjman"作。

Esscoのおニューのスニーカーを踏んだことが出会いのきっかけって運命的すぎでしょ(笑)

帰国直後にコロナ禍と重なったこのプロジェクトの制作は、当初順調とはいかなかったものの、Gunnの「Pray For Paris」に刺激を受けて再構築されました。

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また、先般のBLM運動を加熱させた、"George Floyd"の殺害事件を経て、ファッション性だけでなく、政治や社会に対するコンシャスなメッセージを強く込めたこの作品には、これまでとは違った熱量を感じ取れました。

アッパーなブーンバップ曲「No Dress Code」は、Billie Esscoのアンセムとなった一曲です。

Esscoが頻りに口にする、"Fuck Yo Dress Code ードレスコードなんてクソ食らえ"というフレーズこそ、彼の主張を端に言い表わしていると感じます。

"Buffalo Kids"としてのプライド

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Esscoは、バッファローが"無名のエリア"だった頃から、この街が持つ特性と価値、可能性を誰よりも理解し、コミュニティの発展に尽くしてきた先駆者の一人です。

都市部の様な日々変わりゆくトレンドに身を投じ、スポットライトを浴びるための方法を探すのではなく、自らが輝く術や道筋を創造できることがバッファローの人々の強みだと確信しています。

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正に、GRISELDAのフッドドリームや「Buffalo Kids Gallery」「The Cellar」といったフッド・コミュニティを象徴するスポット、Esscoの様な地元に献身的なアーティスト達による文化的な創造と弛まぬ努力が、バッファローに新たな"光"を当てているのだと感じました。

Esscoのクリエイティブの根源から生み出されるファッションと音楽の二軸。

それぞれにツールは違えど、それらが持つメッセージ性は一貫して彼自身を表現しているに他ならないでしょう。

Billie Esscoの首にぶら下がった"Buffalo Kids"のチェーンは、物質的な価値以上にフッドへの輝きと誇りに満ちています。

Billie Essco Instagramアカウント
Billie Essco Twitterアカウント

peace LAWD.

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