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Ami Ⅲ 第8章 優秀な精神科医


※ここから「テリス」を「テリ」に変更します。
最初は複数形で使用しておりましたが、より正確だと思うのです。
今までの作品も、直ぐには出来ませんが、おいおい変更いたします。
ご迷惑をおかけいたしますが、ご理解をお願いいたします。
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「おお、キアに辿り着いたぞ。」
「でも、なんか変だよクラト。」
「どうしたんじゃ?」
「ビンカが庭にいないんだ。
どうしちゃったんだろう?
なんか嫌な予感がするよ。」
と僕は、直ぐにでも船から飛びだしたい思いで言いました。
「アミ、家の中を見に行こう!
そうだ、画面に映っているのは、家の中なんだよね......。
うーん、中にも誰もいないね。
どうしよう、アミ、どこを探せばいいの?」
僕は、胸がしめつけられる思いでした。
「簡単です。
彼女のコードをコンピューターに入力すればいいのです。
ほら、いました。」
するとビンカが現れました。
彼女はストレッチャーに横たわり、目を閉じていたのです。
その隣に座っている白衣を着たテリが話しかけていました。
「あなたが書いたものは、すべてファンタジーです。」
「私が書いたものはすべてファンタジーです。」
と彼女は自動的に繰り返していたのです。
「彼は、彼女に催眠術をかけている...。
催眠術をかけられているんだ!」
アミがかなり動揺した様子で叫びました。
すると「いやいや、PPに連れて行かれたんじゃよ!」
とクラト。
僕は、まるで、世界に押しつぶされそうな気がしていました。
「いや、PPじゃなくて、精神科のクリニックです。
 彼女にすべてを忘れさせようとしているのです。」
「じゃあ、ビンカをそこから連れ出して!」
僕は最愛の人に何が起こっているのか、必死で確かめようとして言いました。
「あのけち臭いテリに強烈な稲妻を落としてやるぞ。」
とクラトが憤慨して言いました。
「待ってください。
落ち着いて。
私の心と彼女の心を、高い次元で、繋いでみます。」
「早く終わらせてよ。」
僕が不安げに言うと、
アミは立ちあがり、「瞑想室でやります。数分しかかかりませんから、落ち着いて、その画面から目を離さないで、私に報告してください。」と言いました。
「そこに電子機器はあるのかい?」
2人きりになってから、クラトが僕に尋ねました。
「ないよ。精神的に集中するんだと思う。」
すると、また画面から聞こえてきました。
「あなたが書いたものはすべてファンタジーです。」
「私が書いたものはすべてファンタジーです。」
「ペドロって誰?」
ビンカが「ペドロは私のソウルメイトよ。私のソウルメイトなの。」
「その調子だよ、ビンカ。」と僕。
「いやいや、彼は現実には存在しないんだよ。
あのキャラクターは、主人公のロナのソウルメイトだよね。
でも、あなたはビンカで、ロナではありません。」
「私はビンカ、私はロナじゃない。」
「良いですね。じゃあ、ペドロって誰なの、ビンカ?」
「ロナのソウルメイトです。」
「完璧だ。完璧だね。
アミは架空の人物でロナと同じです。」
「俺も架空のじいさんって言うのかい?」
クラトが怒ったように叫びました。
「アミがロナと同じように架空の人物であるってことは解ってるわ。」
「ブラボー、アミって誰だい、ビンカ?」
「アミも架空の人物です。」
「素晴らしい。
自分が書いたものは、すべてファンタジーだと理解しているんだね。」
「私が書いたものは、すべてファンタジーだと理解しています。」
「今、あなたはキアの外で生きてきたと想像したものをすべて忘れることになります。
わかったかね?」
「わかったわ。」
「ビンカは僕を忘れるんだ、クラト、君の記憶から僕を消してしまうんだ!」
僕は絶望して言いました。
「いや、彼女は忘れないよ、ペドロ」と、戻ってきたアミが言いました。
私は、彼女の心とのコミュニケーションを確立し、精神科医の提案をブロックすることに成功したのです。
ビンカは、催眠術をかけられたふりをしているのです。
今は、意識がありますから、何も忘れることはないでしょう。」
「本当にうまくいくの?」と僕。
「絶対です、ペドロ。
ビンカがテレパシーで伝えてきたのですから。
ゴローが、彼女の人生から私たちを遠ざけようとして、これを命じたってね。
彼は、家族の友人でビンカの本を知っているテリの精神科医に、ビンカが自分の物語を本当に生きたと思っている混乱状態にあり、『現実に戻す』ために催眠術をかけるように頼んだと言ってました。
先生を驚かせてみましょう。」
彼はコントロールバーを握り、ボードに何かを打ち込みながら言いました。
「素晴らしい、我々は可視化される権限を得ました。」
すぐに、僕たちは自動的に転送され、あるビルの10階の窓の前に現れたのです。
ガラスの向こうには、医師とビンカの姿が見えました。
「キア外の宇宙船など存在しない。」とビンカが繰り返した時です、アミの指示により、僕たち3人は数メートル先から微笑みながら、彼に挨拶し始めたのです。
「いや...彼らは...存在する...存在するんだ。」
と精神科医は、僕たちを見つめながら、心の中で呟いていました。
彼の目の前には、宇宙船、陽気なスワマ、そして彼にとって非常に奇妙な2つの標本、アミと僕...がありました。
驚いた通行人たちが、路上で上を見上げて歩き始めると、宇宙船は見えなくなったのです。
テリは、それ以上知りたくなかったので、ビンカを起こし、こう尋ねました。
「アミは誰ですか?」
アミはマイクを持って、ビンカの耳にかすかに聞こえるように声を上げ、「アミは、さっき窓から見えた白い服の男の子だよと言うんだ。」と言いました。
「アミは、あなたが、今、窓から見たあの白い服を着た男の子です...。」
「それなら、すべて真実じゃないか!」
「そうです、先生、催眠術は真実に対して無力なのよ。」
アミは再びマイクで話し、ビンカに今起こっていることをすべて正直に説明するようにと言いました。
ビンカは長い間、博士にその話をし、博士はますます興味をもって聞いてくれたのです。
「ゴローは私に嘘をついたのかね。
私は、あなたを助けるつもりだよ、ビンカ。
なぜなら、あの宇宙船の中に、あなたの愛情の理由があるからです。
科学はすでに、人間の健康には愛情が必要であることを知っているのだからね。」
「そうよ、愛なのよ。愛は神なのよ。」とビンカ。
「フム... 愛を... 神と呼ぶとは...。」
「彼はその言葉をまるで嫌悪感を抱くように発したのです。
「同じなのよ、先生。
愛と神は同じものなの。
だから、私たちに最も必要なのは愛、つまり神なのです。」
「科学の分野では、この言葉は使われないんだよ、ビンカ、あまり評価されないんだ。
その... 愛情、あるいは共感と言ったほうがいい。」
「愛とは、感性の言葉なのよ。神なのよ。」
「やれやれ、質問だ、ビンカ。空腹は神なのかい?」
「いいえ。もちろ違うわ。」
「どうして?」
「飢えも愛情(愛着)も生物学的な欲求だからです。
飢えを感じるのは餓死しないためであり、愛情(愛着)を感じるのは子孫を守るためであり、種を守るためなのよ。
私たちがそれを必要とするのは、それが私たちを喜ばせ、保護、安心、価値の感覚を与えてくれるからであり、繁殖しなければならないからですが、それだけなのです。
私たちは、憎しみや攻撃性も感じますが、それも種を守るためです。
だから、そんな馬鹿げた比較をするのであれば、愛が神だと言うのは、飢えが神だとか、攻撃性が神だとか、憎しみが神だとか言うのと同じくらい馬鹿げているわ。
検証できる根拠がないものは肯定することはできないのよ。」
アミは悲しそうでした。
「魂が愛によって啓発されたことがない場合、彼にとっては、愛が抽象的な概念にすぎないのです。
あるいは愛着や飢餓のような低俗な本能的反応に過ぎないため、あの医師にとっては、攻撃でも憎悪でも愛でも同じことなのです。」
ビンカは、テリが自分とは全く異なる精神座標を持っていることに気づきました。
「じゃあ、あなたは神をどのような言葉で呼んでいるのですか?」
「あ、いえ。科学的な厳密さがないので、その話はしないんだよ。
私の基準では、それは迷信的で無知な人たちのためのものだからね。」
ビンカと僕は、テリのその言葉を聞いて、とても驚きました。
「科学者が神について語るのは醜いことなのかしら?」
「もちろん、それは証明されていないものだからね。」
「私にとって、神が存在することは完全に証明されています。」
とビンカは言いました。
医師は愉快そうに笑いながら、「そうなんだね、じゃあどんな証拠があるんだい?」
「私よ。」と彼女。
「どういうことだい、私には理解できないね。」
「神様は存在します。私がその証拠です。」
精神科医は困惑の表情を浮かべていました。
「先生、壁に描かれている絵が見えますか?」
彼女は果物の絵を指差して言いました。
「見えるよ。それで?」
「あの絵は、それを書いた画家がいることの証拠です。
そうでしょう?」
「それは、もしかしたら?」
「私は、この手も爪も声も発明していないのだもの。
だから私は、優れた創造主が存在することの証明なのよ。
科学者の証明としては十分ではないですか?
星や銀河、海の色を見て、花の香りを嗅ぐだけで十分ではないですか?
より優れた存在が、私達の小さな頭にその能力を入れたと推論するには、十分ではないかしら?」

彼女が、彼にマスターレッスンをしているように思え、とても誇らしい気持ちになりました。
しかし、それにもかかわらず、キアの主治医は、いつもより醜い皮肉な笑みを浮かべていたのです。
アミはこう説明しました。
「ビンカはアナログ(連続的・流動的)なメンタリティを持っています。
一方、テリは論理的で物事一つ一つを切り離して考えるような頭脳しか使っていないのです。
彼の知能では、ビンカの言っていることが理解できません。」
「メンタリティって何?」
「今はやめましょう、説明してる暇はありません。」
ビンカは話を続けました。
「愛は神の存在を証明するものとして、科学者にとって有用なものではないのでしょうか?」
テリは、まるでバカの話を聞いているような、皮肉な笑みを浮かべ、意地悪な顔をし続けていました。
そして、少し焦った様子で、「哲学で『世界を正す』話をするのは、とてもいいことだね。」と言ったのです。
「流石は作家だね。へへへ。
私も暇さえあれば詩を作っているんだよ。
例えばこんな詩なんだよ。
「『 あなたの狂った炎のキス、あなたの口から出る狂おしいジュースが、私の肉体に火をつけ、親密な関係に触れるのさ。
そして私の狂った魂の欲望に火をつける。』
素敵だろ。
でも、この先は子供向けじゃないからやめておこう。
おじさんも待っているし、友達もいるからね。
この事件は、最近起きている多くの出来事のように、珍しいものだけど、それを受け入れなければならないのです。
だから私はあなたを助けるつもりです。
とはいえ、本当にクレイジーな話なんだけどね。」
ビンカも僕たちも、希望に満ち溢れていました。
「それじゃあ。
ゴローおじさんを説得して、私を地球に行かせてくれるってこと?」
「そんなことは言ってないよ、ビンカ。
私があなたを助けると言ったのは、私は医者で、患者の命を守るのが仕事だし、法律を守る市民なんだよ。
まず、あなたが異世界に旅立つことが、あなたにとって有益かどうかを確認しなければならないんだ。
慎重に調査し、児童教育の専門家に相談し、国家児童委員会に提出する報告書を書き、関係裁判所に認可を求めなければならない...。」
テリが話すうちに、僕たちの顔はだんだん暗くなっていきました。
「地球の社会的、生物学的環境があなたにとって好ましいかどうかを確認しなければなりません。
そのためには、当局レベルで公式な関係を築き、私たちの専門家が環境条件を調査することを許可する必要があるのです。
専門家が地球文明との接触を確立することが、私達に脅威を与えないと考えるならばです。
また、あなたの友人がその可能なアプローチで協力するかどうかもわかりませんし。
特に、VEP(惑星外生命体)というテーマは、我が国の当局が注視しており、PPの委員会がこのテーマを扱い、キアで最も強力な国であるアルタン・ジーの情報機関に報告する義務があるため、簡単ではないでしょう。
PPのエージェントがあまり友好的でなく、コミュニケーション能力がないこと、この問題で知られたくないことを黙らせる特別なシステムを持っていることも、私達は、すでに知っているんだよ...。
何か理由が必要なんだよ。
彼らには、彼らの正当な理由があるんだからね。
だから、この問題に取り組もうとする人たちは、仕事を進めるにあたって大きな障害に直面するのです。
いや、簡単ではないでしょう。
しかし、それが唯一の正しい道なのです。
合法的な道なんだよ。」
この言葉で、僕の美しい未来はが崩れ去りました。
「あの精神科医はおかしいな、アミ。
彼は官僚じゃよ、すべてを複雑にしようと考えとるんじゃ。」
クラトはとても心配した様子で言いました。
アミも同意しました。
「そうだよね、もし彼がキアの当局にこの件を報告したら、かわいそうなビンカは...。そして僕も。」
僕は、魂を糸で繋ぎ留めたい思いを込めて言いました。
「私を助けたいの、それとも沈めてしまいたいの?」
苦悶の表情を浮かべながら、ビンカが尋ねると、
「助けるに決まってるじゃないか、私は医者なんだから。」
「それならゴローおじさんを説得すればいいだけじゃない、どうして全部台無しにするの?」
「いや、ビンカ、ゴローとはもう口を利くつもりはないんだよ。
彼が嘘をついたからね。
嘘つきとは話ができないだろう。
自分の信念に背くことはできないんだよ。
彼は、私を騙して、全部あなたの妄想だと言ったけど、実際はそうでないことをよく知っていたのだろう。
彼はもはや私の友人ではないんだよ。
一方で、私はこの事件を当局に報告しなければならないんだ。
それは、私達の国、民族、文明の安全を守る、法を遵守する市民としての私の義務なんだよ。」
「彼の頭は、ゴローよりも固い!」
アミはそう叫び、目に見えてイライラしていました。
「自分が優れた現実を前にしていることに気づかず、謙虚に行動して優れたものを学ぼうとするのではなく、テリ思考にありがちな、自分のレベルに引き下げて無知を押し付けようとするのです。
彼は、ビザやパスポートを持たない天使に出会ったら、天使を刑務所に送るでしょう..。
現実には、彼は自分の精神的な計画やエゴの保護以外には興味がなく、彼の中にはなにもないのだから、心や感性が届かないのでしょう。」
「彼がスワマになるには、何十年もかかるんじゃろうな。」とクラト。
「それはそうかもしれないけど、それを知っても何の役にも立たないよ......。ほら、彼は電話をかけようとしているよ......。」
「政治警察本部に電話をかけるね。」
それを聞いて、ビンカは、苦悩の表情を浮かべ、電話の通信を遮断するためのボタンに指を置きました。
すると、テリは信じられないような、恐ろしく気分を害したような目で彼女を睨みつけたのです。
「何してるんだね、この飢えたく不謹慎な、無礼なスワマー!」
ビンカとアミは、テリが、いつもスワマを「飢えた」と侮蔑的に呼んでいると教えてくれました。
さらに侮蔑するために「スワミエント」と呼び、テリ・ワコは「ワキエント」、キアでは精神科医やゴローのように出世しているテリのズンボを「ズンビエント」と呼んでいるのだとも教えてくれました。
「それで、どうするの?
私を警察に突き出して、PPに渡すって言うの?」
「当然です。
それは自分の国、民族、文明の安全を守ろうとする、法を遵守する人間がすべきことなんだよ。」
「まるで壊れたレコードみたいな奴じゃ!」
クラトは怒って叫びました。
「それは、私が精神的な健康と幸福を得るために、愛に近づくために必要な方法だと言うの?」
「もちろん、当局や専門家があなたにとってベストな方法を知っているはずです。飢えたスワミエントさん。」
アミは、かなり動揺してこう言いました。
「彼は科学者であり、多くの知識を得たかもしれませんが、まだ半獣のようです...。 」
「どうにかして、アミ!」
クラトと僕は叫びました。
「助けて、アミ、ゴローおじさん、助けて!」
とビンカも叫んでいました。
それを聞いたゴローは、事務所に入ろうとしましたが、鍵がかかっていたので、激しくドアを叩きはじめたのです。
僕は、ビンカの苦しみと危機を目の当たりにし、人生で最も恐ろしい瞬間を体験していました。
そして、クラトは、精神科医を殺してやりたいと思っていました。
彼がモニター画面に向かって叫んでいた言葉をここに再現することはできないでしょう。
「落ち着いて、友よ、落ち着くのです。」
アミは、ダッシュボードのいくつかのコマンドやボタンを、素早く操作しながら、そう言いました。
彼の手は、まるで早回しの映画のように、計り知れないスピードで動いていました。
ブーンという音がし、彼の手から少し煙も出ていたのですから。
後になって気づいたのですが、それはアミのもう1つの驚くべき能力を示すものだったのです。
彼は、非常に高速で身体を動かすことが出来ました。
精神科医は、再び電話をかけようとしましたが、ビンカが彼の腕にしがみつき、指を強く長く噛んだので、太ったテリは痛みに悲鳴を上げ、怒って彼女をドアに投げつけました。
その一撃により、ビンカは、気を失い、床に倒れ込んでしまったのです。
ビンカのおじさんたちはその音を聞いて、さらに必死になり、ドアを壊そうとしました。
「幸いなことに、彼女は大した怪我をしていません。」
とアミが言ったので、僕たちは少し安心したのですが。
僕は内心、これでテリが彼女を放置してくれればと思ったのですが、そうではありませんでした。
彼は、怒りに目がくらんだゴリラのように、大きな歯をむき出しにし、拳を握りしめ、筋肉をすべて緊張させて、まるで、彼女を殴り殺す準備をしている巨大な象のように、僕の愛する人の体に向かっていきました。
「テリは感情が遮断されているので、動物的な本能をほとんど制御できないのです。」
アミはボードを操作しながらそう言いました。
「私が止めなければ、彼は彼女を殺してしまいます。」
その瞬間、僕はテリが麻痺するのを、素晴らしい安堵感で見ていました。
「凄いね、アミ!
遠くから催眠術をかけたの?」
「いや、緊急で上手く集中できなかったので、仕方なく麻痺光線を投射したのです。」
「壮観じゃ、銀河系少年よ!
どのくらい効果が持続するんだい?」
「その光線は、私が切り離すまで有効です。
問題は、我々が作り出した目撃情報がPPを引き寄せたことです。
彼らは、いつもこのような出来事が報告された場所に行くのです。
彼らはすでに向かっています。
しかも、事務所のドアを必死で壊そうとしているゴローにも注意が向けられました。
ビンカを救出するだけの時間しかない。」
アミは、立ち上がり、船の扉に向かうと、その扉が開き、ビルの硬い壁を切り裂いて、オフィスの中に直接つながる緑の光のトンネルが現れました。
すると、アミはその光線の中を、まるで何か固いもののように歩き、麻痺した精神科医の部屋に入りました。
それは、印象的で恐ろしい姿でした。
まるで、殺す準備が出来ている本物の獣のように見えたのですから。
PPが到着し、彼らは、オフィスのドアを壊そうとしていました。
一方、アミは巨大なテリの前に立ちはだかっていたのです。
顔を近づけようとしましたが、身長差がありすぎて無理でした。
そこで彼は、同じ高さになるまで体を宙に浮かせたのです。
「ううう、アミは、飛べるんじゃな、”ベトロ”...!」とクラト。
「そうだよ、クラト。」
「なんてかっこいいんじゃ!」
アミは、精神科医の首の後ろに小さな装置を置き、じっと見つめながら、耳元で何かをつぶやいていました。
初めての旅で出会った2人の警官のように、彼が何も覚えていないように、催眠術をかけているのだろうとは思っていました。
でも、以前は精神力以外を使うことはなかったので、何のための装置なのかわからなかったのです。
激しいノックに扉はゆれていました。
アミはそっと降りてきて、身長差があるにも関わらず、ビンカを簡単に抱きかかえたのです。
彼は、非常な体力も持っていたのでした。
それも、僕が気づいて驚いたのはずっと後になってからでした。
そして、彼は、緑の光のトンネルを彼女を抱いたまま歩いて帰ってきたのです。
船内に入ると、彼は彼女を空いた椅子にそっと座らせ、僕は彼女を介抱しようと走りよりました。
アミは操縦室に向かいました。
ビームが消え、船の扉が閉まると同時に、オフィスの扉が壊れ、数人の黒服のテリが部屋に入りました。
そして、その瞬間、アミは精神科医を元通りにし、最初に目の前に見えたもの、すなわち自分よりはるかに大きなPPの男たちに突進したのです。
「彼は、まだ殺人的な暴力の興奮から立ち直れていないのです。
そして、あの可哀そうな人には、今度はブーメラン(自分がやったことと同じこと)が戻ってくるのです。」
とアミは残念そうに説明してくれました。
彼は、経験豊富な正確な攻撃の雨に打たれて床に倒れました。
しばらくして、説明を求める声を上げながら、手錠をかけられ、連行されたのです。
ゴローとクロルカも連れて行かれました。
彼らもまた、ビンカを取り戻そうと切望し怒鳴っていたのです。
その間、他の男たちが事務所を調べまわり、目につくものをすべて採取し、時折、精神科医が船を目撃した場所である窓をちらちらと見ていました。
しかし、僕たちの宇宙船は見えなくなっていたので、見ることはできませんでした。
「アミ、あのバカな精神科医のせいで、すべてが複雑になったんじゃよ。」とクラトが文句を言いました。
「そもそもゴローは。。。
まあ、テリとはそういうものですか、コンピューターがインポシブルと言ったのはそのためなのです。
これは簡単なことではありません。」
僕は、嬉しいことに意識を取り戻しつつあるビンカを慰めようとしていました。
「さあ、すべてはゴローとクロルカのPPへの供述にかかっています。」
アミがコントロールバーを握ると、船は猛スピードで飛び立ちました。
「精神科医テリスの発言も重要じゃろう。」
クラトはそう意見しましたが、
「いや、彼はもう何も覚えていないのです。
かつての友人であるゴローの存在も、ビンカや我々も含めたゴローに関わるすべてのことも、私が施したちょっとした治療のおかげで、永遠に忘れてしまったのです。
決定的な部分記憶喪失です。
それが、彼の首につけた小さな装置の目的なのですから。」
「いいじゃないか。ホッ、ホッ、ホッ、ホッ!」
ビンカはすでに回復しており、僕の愛情に慰められていました。
首の後ろに小さな隆起がありましたが、それ以上の異常は見当たりませんでした。
僕が起こったこと全てを説明すると、
「叔父さんたちを守ってね、アミ。」とビンカが言いました。
「できる限りのことはするつもりです。ビンカ。
それが、公正な助けを求めに行く理由です。」
「どこまで行くの、アミ?」
「特別な場所にね。」


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