見出し画像

「免疫食堂」ーマクロファージ・アプローチ〜食物由来のLPS(リポポリサッカライド)と自然免疫の臨床アプローチ


画像1



マクロファージ・アプローチ〜食物由来のLPS(リポポリサッカライド)と自然免疫の臨床アプローチ

玄米食摂取による臨床に関する研究ランチ               ⚪︎玄米絶食コース
⚪︎養生治療食コース
⚪︎免疫臨床食コース


画像5


私たちは、種々の臓器・器官に分布する組織マクロファージがネットワークを形成し、生体の恒常性維持に深く関与していると考え、この仮想的な制御機構を「マクロファージアプローチ」と呼んでいる。
そこでマクロファージ活性化はマクロファージのネットワーク自体を活性化して健康維持や疾病予防に繋がると考えられている。

LPSは強力なマクロファージ活性化作用を持つことが良く知られているが、脈管に投与される医薬品では有害物質であるとの認識が優先したため、免疫賦活素材として活用は考えられてこなかった。

一方、LPSの免疫賦活活性に深く関わるTLR-4経由のシグナル伝達は恒常性を維持する上で重要な制御機構であることが報告され、LPSの生体恒常性制御の意義が急速に認識されつつある。

適度な環境刺激、例えば、適度な運動、鍼灸、適切な食事なのは、健康的な状態を維持・誘導し、感染症・生活習慣病・慢性疲労などの疾病に対して高い抵抗力や予防効果をもたらすことは経験的によく知られていることである。

そこには、環境情報を受信し、生体に情報を伝達しながら、生体の恒常性を制御している細胞やシステムがあるはずである。一体、どのような細胞やシステムがこれを担っているであろうか。僕たちは、生物の健康維持と疾病予防を考えるうえで、生物の生体恒常性の維持に必須な役割を担っている異物を識別し貧食除去する食細胞群(マクロファージ)に着目している。


マクロファージと異物応答


マクロファージは異物を識別・貧食し、排除する遊走性細胞であり、あらゆる動物が同様の細胞群を有しており、系統発生的に保存された自己を規定する細胞群と言える。
細胞障害性T細胞は殺ガン細胞効果があることが知られているが、マクロファージはこれとは別の機構で広くがん細胞を認識し、細胞障害活性を示す。これらのマクロファージの機能は、単細胞動物においては、植物を摂取し、同族と共存するために必要な機能であったと考えられる。

そして、この機能は多細胞動物に進化した後には、侵入異物や不要細胞を除去し、個体を生存させるために必要な機能へと分化しただろうことは容易に推測できる。
さらに、環境に目を向けると、ホルミシス効果で知られている低量の放射線の健康への正の作用において、マクロファージが活性化が活性することが知られている。



組織マクロファージ


ヒトではマクロファージ様細胞は肺、肝臓、腸管、血中をはじめ、脳、筋肉、骨など、生体内のあらゆる組織に存在しており、種々の名前で呼ばれて独自の性格を有している。このような組織常在性の細胞で潜在的に遊走性を持ちかつ全身に分布する細胞はマクロファージだけである。

腸管マクロファージにはLPSの受容体でもある、CD14,TLR-4の発言がなく、LPSに対する応答もほとんどない。腸管には、外部環境因子としてLPSが多いことから、腸管マクロファージがLPSに対して寛容(不応答性)であることは、不必要な炎症を引き起こさない上で理にかなっている。すなわち腸管マクロファージではLPSに応答する装置自身はすべて揃っているわけである。マクロファージが環境情報を受信するとサイトカイン群の産生誘導が起こる。

マクロファージは全身に分布すること、環境情報を受信すること、情報を隣接細胞に伝達することが可能である。マクロファージは存在する組織にあって食作用を中心とした機能を発言して組織の恒常性を維持するうえで重要である。このようにマクロファージは局所での各種エフェクター細胞として機能する。そして、マクロファージ同士が対話することに基づくネットワークの存在があれば、たとえ局所に加えられた環境情報であっても全身に伝えられるであろうし、そのようなネットワーク自体が制御系として機能しうるはずである。

マクロファージの活性化による疾病の治療には分泌型のTNF産生を伴う局所化が極めて重要であり、予防にはむしろ全身的で、膜結合型のTNFαの誘導を伴う活性化が重要なのではないかという指摘もある。

マクロファージ・アプローチ理論の概念は、情報を受信した局所組織マクロファージが、隣接細胞と接触により情報伝達や、近傍のマクロファージに分泌してサイトカインで情報伝達することにより、活性化されたマクロファージがさらに他のマクロファージに情報を伝達していくというものである。


画像6


新しい健康食品素材としてのリポポリサッカライド(リポ多糖LPS)とグラム陰性菌


リポ多糖(LPS)はトキシン(毒)なのか

LPSとは、大腸菌やサルモネラ菌などのグラム陰性菌 の細胞壁を構成する成分である。日本語では“リポ多 糖”と言い、糖脂質である。また、LPSが様々な毒 性を示す生物活性を有することから、内毒素(=エンドト キシン)と呼ばれることもある。毒性も含め、LPSに は様々な生理活性がある。

内毒素としての毒性 LPSは内毒素としての活性がよく知られている。 内毒素活性は、そのほとんどがリピドAにより発現し ます。最も知られているのが“エンドトキシンショック” であり、致死性の作用である。細菌(グラム陰性菌)感 染末期の菌血症で起きるショックだ。エンドトキシ ンショックでは、多量のLPSに反応してマクロファージから産生される炎症性サイトカイン(腫瘍壊死因 子α(TNFα)、インターロイキン1(IL-1)など)により、 血管内の血液凝固や血管透過性が高まり、血圧が 低下して末梢循環不全に陥りショック状態となる。

また、LPSには発熱原性がある。LPSの作用で 各種細胞から産生されたIL-1、IL-6、TNF、インター フェロン(IFN) などが血流に乗って脳に運ばれると、 脳の細胞からプロスタグランジンE2が産生され、体温調節機能のある下垂体視床下部に作用して、発 熱を起こすと考えられている。

LPSには生体に有害な作用があるように見えるが、LPSの刺激により細胞から産生され、有害な作用を及ぼす物質、イン ターロイキン、インターフェロンや腫瘍壊死因子など は、本来は免疫に際して働く物質で、サイトカインと呼ばれるものである。すなわち、LPSによりサイトカインが不適切に作用すると有害となるが、適切に働くと免疫増強作用を示す。

以前より、実験的にLPSを投与された動物は、投与後 24時間から数日間、投与したLPSとは抗原的に関係の ない病原微生物に対しても抵抗性を持つことが知られていたが、近年、その機序が自然免疫にあることが分かってきている。

自然免疫とは、病原体が体内に侵入したときに、最初に発動する免疫機構のことである。これまでは、病原 体が体内に侵入すると、マクロファージや樹状細胞といった貪食細胞がその種類にかかわらず病原体をとらえ、破壊するとともに病原体の情報を獲得免疫の主体 となるT細胞へ渡すと考えられていた。すな わち、自然免疫とは貪食細胞が手当たり次第に病原体を貪食することとされていた。その後の免疫反応 (獲得免疫のT細胞)にバトンタッチするために、情報を提供するだけの存在が貪食細胞でした。  ところが近年、細胞上には病原体の成分を見分ける 幾つかの受容体(Toll様受容体:TLR)が存在し、病原体をとらえたら、その成分ごとに効果的な初期の免疫反応を引き起こしつつ、情報はT細胞へ渡していることが分かったのである。

2TLRに認識される病原体の成分とは、多くの病原体が共通に持っているようなものであり、例えば、あらゆる グラム陰性菌が持つLPS、細菌の多くが持つ線毛の成 分フラジェリン、ウイルス特有の配列をしたRNAやDNA などである。LPSはTLR4、細菌やマイコプラズマの細胞 壁構造であるリポ蛋白はTLR1,2,6、フラジェリンは TLR5に認識され、主に炎症性サイトカインであるTNF α、IL-6、IL-12が放出される。炎症性サイト カインとは、その名の通り、炎症を引き起こすサイトカイ ンで、血管の細胞に作用して血管を拡張し血管透過 性を高めて(血管から液体が浸み出しやすくして)白血 球を感染局所へ集めやすくする。白血球が集まれば そこにある病原体を早く処理できるのだ。そうして続く獲得免疫が発動するまで病原体を足止めする。血管が膨れて、体内に血液成分が浸みでているため、表皮からみると赤く腫れて見えるので、その作用 が病原体の存在する局所だけでなく、菌血症などで全身に起きれば血圧が下がってショックが起きるのである。なお、ウイルスの二本鎖RNAはTLR3、一本鎖DNAや 病原体特有のCG塩基配列(CpG)はTLR7,9に認識さ れ、主に抗ウイルス作用のあるIFNが放出される。


自然免疫を利用したLPSのアジュバント活性


このように、LPSは自然免疫を介した免疫増強作用を示す。また、LPSを介した免疫作用は非特異的な 炎症反応と白血球の活性化なので、最近、ワクチンの アジュバントとしての可能性が注目されている。LPSでエンドトキシン・ショックを引き起こしては元も子もないので、アジュバントとして使いたい場合は それを少し化学的に改変し、モノフォス・リピッドA (MPL)と呼ばれるものにして用いる。これは毒性がほとんどなく獲得免疫を誘導するので、現在、既に幾つかのワクチンに使われている。

医療業界ではLPSをエンドトキシン(内毒素)と呼び、有害物質として位置づけてきたが、多くの免疫賦活物質のなかでLPSのみが有害物質であるとは考えにくい。例えば乳酸菌には有害物質のイメージはないが、脈管内にある量を注射すると、LPSと同様にTNFαやIL-1等の炎症性サイトカインが産生され、低血糖などの、いわゆるショック状態が誘導される。細胞内のシグナル伝達は極めて類似の応答を引き起こすので、誘導に必要な量的な差はあるものの、乳酸菌の注射によって誘導される現象はLPSとさほど変わらない。注射剤やカテーテル、注射針は細菌由来の分子が脈管内に入る可能性を排除しなければならないが、LPSが有害物質として位置づけられるのは脈管内に入るときのみであり、乳酸菌も本来は同じカテゴリーになる。しかし、最も微量で免疫賦活作用があり、環境に普遍的に存在したことから、LPSは有害物質であることの側面が強調され、内毒素という名称がつけられてしまったと考えられる。

マクロファージ活性化物質として知られるLPSは、高分子であり、腸管からはほとんど吸収されない。経口でLPSを投与した場合、腸管からの吸収はほとんどなく、少量の吸収されたLPSも門脈から肝臓に入りそこで、トラップされた全身にはほとんど回らないと考えられている。しかし、LPSが脈管内に入ると、極めて効率よくマクロファージ等の免疫細胞の膜状にある、CD14とTR-4、MD2の複合体にLPSは運搬されるのである。LPS自身は多糖と脂肪酸等が結合したものにすぎず、経口的に摂取すれば毒性はない。従って、生物はLPSに対して極めて高感度にサイトカイン産生誘導する機構を体内に有しているのであり、もっとも強力に生体に環境情報として働く物質としてLPSが位置づけられるとの考え方が理にかなっている。


食品由来のグラム陰性菌とリポ多糖


一つの考え方として、グラム陰性菌やLPSは人間が長年摂取し、利用されてきたことが明らかになれば、LPSはこれまでにないあたらしい機能性食品素材として再評価する価値があるといって良い。
もちろん、LPSの有用性と機能性素材として活用するためには、LPSの質を明確にするとともに、食品含量の規格化、予防効果や治療効果に関して用量活性相関等を明らかにし、効果発見最適化を図ることなどLPSの量と質に注目した設計がなされなければならない。

人類は長期間にわたり、グラム陰性菌やLPSを無意識に摂取することによりTh1/Th2という免疫バランスを構築してきたと考えられる。近年これに加わるTh17という新しいT細胞のサブセットが話題になっている。LPSはこのTh17の中心サイトカインとされるIL17を誘導することが見出されている。いわゆる獲得免疫の重要エフェクター機構の進化にはLPSが必須の働きをしたのであり、LPSは獲得免疫機能を発揮する上でも、重要な環境情報として、現在も機能しているのではないかと考えられているのである。

一方、衛生環境が向上した現代の生活ではLPSの摂取が不足しており、相対的にTh2にシフトすることとなり、アレルギー性体質が蔓延している。

LPS は強力なマクロファージ活性化作用を持つことが良く知られているが,脈管に投与される医薬品では有害物質であるとの認識が優先したため,免疫賦活素材として活用は考えられてこなかった.一方,LPS の免疫賦活活性に深く関わる TLR-4 経由のシグナル伝達は恒常性を維持する上で重要な制御機構であることが報告され,LPS の生体恒常性制御の意義が急速に認識されつつある.

LPS や LPS を含む素材の免疫賦活作用を社会的有用性につなげるためには,個体に特有とされる健康維持機構の実態解明などの基礎研究,LPS の生理的意義の見直し等リテラシーの形成を促進すること,LPS の有用性の科学的実証の蓄積,が不可欠である.

細菌由来の免疫ビタミンとも言えるLPSは、食用植物では、穀類、野菜、海草などに多い。細菌はもともと土壌にいる。土壌の細菌は、窒素やリンを植物が利用できる形に変換し、植物の生育を助けている。従って細菌数が多いということが良い土壌の条件なのである。土壌の細菌は根菜にはもちろん、葉野菜、穀類にもたくさんついており、海の中の海草にもついている。食用植物についている細菌は食べる前に殺菌されるとしても、細菌の成分であるLPSは残っているので、LPSは食用植物とともに自然摂取されるため、この自然摂取が私たちの体に良い影響を与えている。

昔から体に良いとされてきた玄米はLPSも豊富に存在する。穀類では細菌が表面に共生する関係上、LPSは外側に多くなり、精白米より玄米の方がLPS量が多い。日本産白玄米のぬか成分中に炎症性マクロファージおよび炎症性サイトカインの産生に対する抑制成分が存在することが示唆されているのである。

稲を刈り取って、まず硬い殻のついた「籾」の状態にする。つぎに脱穀という工程で、硬い籾殻をはずす、この状態が「玄米」である。
まだ薄い茶色がかった色をしているのは、「ぬか」部分がついているためである。
「ぬか」には重要な栄養素が多分に含まれている。そしてLPSは、この「ぬか」と「白米(胚乳)」の間にある「亜糊粉層」と呼ばれる場所に存在している。亜糊粉層は別名、アリューロン層とも呼ばれ、「うまみ層」とも言われる。
LPSは、厳密にいうとお米の「成分」ではなく、米に共生している、有用な微生物(グラム陰性菌)の細胞壁外膜の構成成分なのである。

画像2

画像3

画像4


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?