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バトルショートショート   ――『D』――

久しぶりに会った栄《エイ》と備《ビー》は、向かい合ったまま互いの近況報告を始めた。
その間身体が暇を持て余していたため――否、特に理由などなく、両者はどちらともなく戦闘を開始。近距離で軽く、しかし一手間違えれば致命となる攻撃を互いの急所目掛けて繰りつつ会話を始めていた。

初めは緩やかに軽く、次第に鋭く、激しく。
腕や足が交差する度に空間に金属バット同士をかち合わせたような硬質音が響き、その音も段々と大きくなっていく。

傍からは騒々しい演武が行われているようにも見える、その横の空間にもう一人の人型が立ち上がった。

泥《ディー》だ。
彼女は立つと同時、会話をしながら戦闘もしている栄と備から距離を取り、彼女の指導者である備に叫ぶ。

「備! さっきの、めっっっっちゃ痛かったんですけどっ!」

泥は備の指示で栄を攻撃した。
泥は嫌がったが、備が『大丈夫、反撃される前に僕が止めてあげるから』と泥を説得したためだ。
それがどうだ。彼女は粉々に砕かれた。
実際には、備は栄を止めるどころか、泥を受け止めさえしなかったではないか。できなかったとは言わせない。できると確信していたから渋々ながらも備に従ったのに。

「ああごめん、うっかり止めるのを忘れてしまった……わけではないとしても、これは君の為にもなると思ってのことだ。ほら、油断しない油断しない」

別段油断などしていない。
が、泥は口に出かかった追加の文句を後回しにせざるを得ない。
背後を振り向くと既に弑《シィ》は数メートルの距離にいた。彼女のマネキンめいた顔で、本来なら目元となる場所に弑の抜き手が迫ってくる。

泥は至近距離の抜き手を己の両手で掴み、そのまま背後に引っ張りつつ自分ごと倒れたかと思うと、いつの間にか弑の腹部に沿えていた右足に力を込めて相手を投げ飛ばした。
巴投げにも似た挙動。
そしてすぐさま立ち上がり、未だ地面から起き上がろうと体勢を立て直していた弑に先手を打つ。

足を揃え、垂直に立ち、背筋を伸ばし、花咲くような笑顔――(※のっぺらぼうにだって笑顔はあるさ)――で手を差し出す。

「はじめまして、私の名前は泥《ディー》。備《ビー》の生徒です。あなたの名前も聞かせて欲しいな」







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