バトルショートショート ――悪い冗談――
弑《シイ》が泥《ディ》に砕かれた回数が10回を超えた頃。
栄《エイ》が横から泥に襲い掛かった。
二人は弑を置いたまま攻防を開始。立ち代わりに備《ビー》が弑の前に立ちふさがり、なにかを言ってきた。言葉には応じず襲い掛かる弑。
そして再び延々と続く戦闘が始まった。
「左もも」
弑にとってそれは今までとないも変わらないことだ。相手こそ栄、泥、備と変わっているが、自分も相手も成すことは変わらない。
「右腕」
ただ、目の前の相手を倒す、殺す、壊す。それだけ。
「弑君、次は頭だ。3秒以内にね」
たとえ勝てなくても、関係ない。
「次は足元」
全力で殴る。
「んん~胴にしよう。攻撃手段は蹴り」
全力で蹴る。
「左手の指2本、もしくは右足のつま先で目元」
手が届かなくても、関係ない。
何度砕かれても、やることは変わらない。
やることは変わらない。
……ただ一つ、この男との戦闘においては、今までの対戦相手と異なる点があった。
気にならないと言えば嘘になる。
「鳩尾(みぞおち)か、左足の脛を左足か右拳で」
「…………」
この男……備は、手を抜いている。
あからさまなまでに。
弑に攻撃する際、必ず事前に攻撃箇所(+時々ランダムな詳細情報)を宣言するのだ。そして弑が警戒しようとしなかろうと、宣言通りの場所を狙う。
「鼻頭か顎を頭突きか掌底」
「…………」
それ自体は全く構わない。
栄と渡り合っていた備はどう考えても弑より強いため、むしろ相手が弑を侮って隙を晒すのは望む所だ。手を抜いている? 大いに歓迎する。しかし気になるところはそこではない。
「右膝」
「…………」
備の視線だ――顔がのっぺりとしているため正確には目は無い――、まるで、弑を見透かすような視線。
彼の一挙一動から何かを読み取ろうとするような雰囲気を感じる。その視線の中には戦意がない。闘気も、殺意も、害意もない。
(戦っている気がしない)
栄や泥との戦いでは大小はあれど常に相手からの戦意を感じられた。
何かしらの形で、相手を殺すという意思が感じられた。それが無い。
事実、備と戦い始めてから少なくとも1時間は経過したが、その間弑は一回もリスポンしていない。今までに無いほどの時間、死を挟むことなく連続して戦闘している。
連続した戦闘の中で感じる、透明な視線。なぜ、なにを考えて。
「…………」
「おや? 不可解そうな顔をしているね」
何時しか弑の身体は止まっていた。
それに応じるように備も行動を停止しする。
「……戦え」
「んん? 今の今まで戦ってきたと思うけど」
「戦え」
「本気でやれって? 悪いけど僕の本気は有限でね。そう簡単には――」
「戦え…………ッ!!」
弑はギリギリと拳を握りしめ…………力なくそれを降ろした。
そうしてジロリと備を睨みつける。
「…………何がしたい。目的を話せ」
「……ああ、最初の、聞こえてなかったわけじゃないんだね。なにがどうして話し合う気になったのかはわからないが、好都合だ。では改めてもう一度」
備は大きく息を吸うと視線を弑に合わせ、背後で戦っている栄と泥を親指で指し示しながら、朗らかに言った。
「あの2人を含めた僕ら4人は、チームだ。来たる対抗戦に備える為、互いに仲良くしようじゃないか!」
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