秋の香り

むかしむかし あるところに おじいさんと おばあさんが 住んでいました。
という書き出しで始まる昔話。医学の発達に伴い、世の中はおじいさんとおばあさんの含有率が高くなった。将来の昔話は、
むかしむかし いたるところに おじいさんと おばあさんが 住んでいました。
という書き出しで始まるようになるのかもしれない。

11月過ぎてからだろうか、秋も深まる頃、あっちこっちの畑では夕方、野焼きの煙が真っ直ぐに立ちのぼり、牛糞を混ぜた藁が山積みされて、橙色に染まった畑に長い陰が伸びていて、あたりには独特の匂いが漂っていたものだ。きっと牛糞の匂いも混ざっているのだろうが、決して嫌なにおいというのではなく、乾いた藁の匂いや煙の匂いや、発酵し乾いた赤土の匂いも混ざって、ちょっと気取った言い方をすれば、熟成され何某屋のワインにも似た香り。
そんな匂いが漂っていたのは、もう40年も50年も前の時代。
「良かったナ、あのころは」 なんつって、しみじみという気分になるが、自転車で散歩をしていると朝陽を受けて逆光に輝くススキが里山の藍色の輪郭の中に浮き出ている様子を見ると、杉山町辺りではまだ多少は昔の風景が残っているなとつくづく思う。

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