入院に必要なのは体力

骨にボルトをねじ込んでサイボーグになって帰ってまいりました。
と、挨拶しても大してウケるとは思えないけど、とりあえず無事に帰ってこられてよかった。
やっぱり我が家が一番だ。八畳間の床が抜けていても我が家が一番だ。長い十日間だった。一か月分くらいの長さだった。
入院中は我が家が遠くに思えた。タクシー代5,250円で行ける距離に思えなかった。5,250円は高いな。帰りも5,250円で帰ってきた。新幹線なら静岡くらいまで行けるかも。と、思うとやっぱ遠い。
入院中はいろいろあり過ぎてあまり覚えがない。出来事の前後は判然としない。
イビキには参った。昼夜の関係なくあっちこっちでイビキ。
イチビキではなくイビキ。サンビシではなくミツビシ。岩崎弥太郎である。渋沢栄一ではないのだ。
違う、イビキの話である。
病室では一日中安静にしてなきゃならない。安静にしているうちに眠ってしまう。昼夜の別なく眠ってしまう。整形外科だから体のどこかに痛みを抱えている人が多い。私もそうだ。安静にしてても左足とか手術して腰とか痛い。腰の痛みはコルセット圧迫の痛みだ。
痛みを抱えている人は安静も苦痛だけど、睡眠もままならない。
痛みのない人は安静にしていられるし、そのまま眠りに入ることができる。だから昼間眠っちゃって、夜になって眠れなくなる人が多い。ややこしい話だ。いびきの話である。
イビキは人それぞれに個性がある。鼻を鳴らすもの、のどを鳴らすもの、呼気を鳴らすもの、声を混ぜるもの、それぞれを複合したもの。激しく突発的なもの。長いもの、リズムを刻んだもの。
突発的に強烈な一発を放ち、数分を置いて再び一撃を発し、それを数回繰り返し、しばらく静かになったなと思うと、強烈な吐息で一発、二発。急に怒鳴られたかとびっくりした。このパターンを朝まで繰り返されるのである。100人イビキを書けば100通りのパターンがある。漫才で言えばネタである。出し物である。私はイビキについては素人。医学的なとか、分類学的なとか、そこらへんは専門に研究されている先生方にお任せするとして、とにかくイビキの種類の多さ。入院したことのある人には判るだろう。
各種取り揃えてございます。的な、品数の豊富さはメガドンキに勝るとも劣らない。コンポーネントオーディオみたいにそれらを組み合わせてその人なりのパターン(ネタ)。大体一人ひとネタ、持ちネタは一人にひとつ。
「次このネタやります」的なことは聞いたことがない。そりゃそうだ、演芸場で出演料をもらってやってるわけではないのだからひとネタでいいのである。
まあ、何はともあれで、10日間病室では人の入れ替わりも含めて毎日イビキを聞かされた。痛みとイビキで、安静も睡眠もほとんどできなかったが、無事退院できてよかった。
入院は三日で飽きる。

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