御使いに栄えあれ

ああ、うつくしいものをみている。

つたえなくてはならない。
すべてを。

腕は二寸から五尺まで不揃いに十と一本。
髪は羊毛に似たものから棘に等しきものまで。
黄の虹彩が映えた碧の瞳は宝石が如し。
足は未だ年相応の細さなれど、
尾はのたうつ鯰のそれか、はたまた鮫のそれか。
天上の管弦楽にも、嵐の唸りにもにたる御声。

ああ、うつくしいものをみている。

「……うぅっ、たぁ゛れ……?」

……約8分の音声データ、ラスト2分は咀嚼音。
このご時世に「神童」がまだおわすことの証左だ。
しかも推定「齢七つ」、今日の段階で「八つ半」すらあり得る。
俺はバイクを飛ばし、獣道を越える。

眼下に。
見えた。
ものは。

村の中心部に覆い被さる巨躯。
冗談のように乗る子供の頭。
微笑んでいる。
おれを、みて、いる。
これは、ああ、待て、やめろ。
だめだ、それいじょうは。

「わかる」

これは、うつくしいものだ。

【昭和11年7月 へ続く】

#逆噴射小説大賞 #逆噴射プラクティス

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