#土俵惨歌 荒神奉事七番勝負 第2話

前回までのあらすじ】

西の横綱断舎里関を「主役」に幕を開けた荒神奉事七番勝負。第一戦を買って出たのは先の奉事で父を無くしたベテラン破鍋関であった。

第2話 七番勝負第一戦

断舎里関。相撲に最も先鋭化した男。両国を裂く暴風。土俵上の覇者。最も非情にして真摯なる横綱。彼の二つ名はごまんとあるが、それは所詮土俵下の評価。破鍋にとって断舎里関は“力”そのものだった。現にこうして相対する今もそれは変わらない。

土俵面張力の発散を警戒し、土俵中心から半径0.5kmは関係者以外立入禁止となっている。両力士、行司、呼び出し、付き人、そして非常事態に備える警官。これ以外の人間はまずこの場にいない。映像はドローンで中継されている。つまり、観客の見えない大一番。

さぁ、見ろ。見ろ。見るんだ。緊張する筋肉を、僅かな土の動きを、そして「視線」を。異常土俵の影響か、断舎里の虹彩は微かに異様な光を帯びている。
……それがどうした。この一番になんの支障がある。
さぁ、さぁ。

「はっけよい」

来い。

「のこった」

衝突。鍛え直してもなお、真正面からこれを受けるには荷が勝つ。素早く左を……取れない。
「ぐっ!?」

なお早い横綱の右。衝撃で押し込まれる身体に気合を入れ、持ち直す。がっぷり四つ。10秒持つか。
じわりと足が後ろに持っていかれる。近づく土俵際。更に右に重心移動。なら。
(そこか!)
足払いは決まった。断舎里の巨躯がよろめく。だが、それ1つで土のつく横綱ではない。一気にバランスを戻し、
「ふんッ!」
(ンごぉっ!?)
ただの張り手で肋を少し持っていかれた。それが2発、3発。止まらない。内臓にも相応の負荷。1本刺さったか。

「ふんっ……ぐぁあっ!」
間に合った。あと1拍遅ければ土俵外。なんとか持ちこたえた。まだだ、まだやれるな。視界がぐらつく。ともすれば前のめりに倒れるか。いや、その勢いを活かせ。
右足。踏み出し、一気に詰め寄る。まわし経由で注がれる神通力を受け、破鍋の体躯に活力が蘇る。行け、投げろ。
「ッおおお!」
次の瞬間、断舎里が視界から消えた。
違う。下だ。俺の投げに無理矢理反応して重心を大きく下げた。
断舎里が遠ざかる。持ち上げられている。これをその体躯でやるのか。

「破鍋さん」
断舎里が破鍋を半ば担いだまま口を開く。
「本当に恐ろしい粘りでした。あなたが後半に来ていれば、恐らく負けていたでしょう」
届かなかったのか、いや、少しは届いたのか。その答えを破鍋関が出す前に、彼は土俵際へと飛ばされ土俵面張力の炸裂を満身に浴びた。

「只今の決まり手、居反り、居反りにて断舎里関の勝ち」
奉事実行委員会本部に、決まり手のアナウンスが響く。カメラは、奉事敗北の報いを受け割れ砕けた破鍋関の肉体を映し出していた。残り6番を担う力士たちに、この事実は伝えない。
「破鍋関、大義をよくぞ果たされた」
板挟理事長が呻く。彼は別のカメラ映像を見やる。そこには、「奉」の1文字が深々と刻まれた断舎里関の左ふくらはぎが映っていた。

【続く】

――謝辞――
本作品のアイディアは逆噴射相撲界の巨匠、お望月さん=サンの世界観構築があってのものです。深い謝意を。

【非実在力士名鑑について】
こちらの記事をご参照ください。血湧き肉躍る論理土俵の物語がここに。

https://togetter.com/li/1288739

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