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【七転八倒エオルゼア】#5


※このシリーズについて

ゲーム『ファイナルファンタジー14』における自機『Touka Watauchi』及びそのリテイナーキャラ『Mimino Mino』を主役とする不連続不定期短編企画です。ゲーム本編のメインクエストやサブクエスト、F.A.T.E.などの内容をもとにしたものが含まれます。また、各エピソードごとの時系列は前後する場合があります。

登場人物紹介

Touka Watauchi(綿打 灯火/トウカ):主人公。海を渡ってリムサにやってきたアウラ男性。リムサ渡航時点で20歳。
Mimino Mino(ミミノ・ミノ/ミミノさん):Toukaが雇ったリテイナー。リムサにすっかり慣れたララフェル女性。年齢非公開。なお、今回のエピソードには登場しない。

【俺の灯も、お前の灯も】

「アルフィノ、ちょっと……いいか?」
飛空艇エンタープライズ号、その船内。雪の国イシュガルドから森都グリダニアへの「臨時便」の途上、意を決して声をかけたのはトウカからであった。
「どうしたんだ、急に……」
トウカの声に怪訝そうに応えた少年の名はアルフィノ。トウカよりいくつか下だが、若き碩学と評して差し障りないほどの豊富な知識を有する。トウカよりもずっと前から「暁の血盟」の一員として活躍しており……そして、トウカ同様「砂の家襲撃事件」を免れた数少ない構成員の一人である。

「済まなかった、アルフィノ」
いつもの元気も鳴りを潜めたか、トウカは落ち着いた、というよりはどこか沈んだ声色とともにアルフィノに頭を下げた。
「だからどうしたんだ、君らしくもないぞ」
「聖アダマ・ランダマ教会のあの時、さ……」
アルフィノの脳裏には、数日前にザナラーンの小さな教会で冒険者と再会したときの記憶が蘇っていた。

◆◆◆◆◆◆

東ザナラーン、聖アダマ・ランダマ教会。
蛮神ガルーダ討伐の手がかりを幻の飛空艇エンタープライズ号、そしてその開発に携わった帝国の天才技師シドに求めたアルフィノは、手繰り寄せた手がかりをもとにこの教会に辿り着き……怒り狂った冒険者と相対していた。
いつものダラガブレッドの装束ではない。黒く、どこか乱雑に塗り直された装束。外の豪雨で冷え切った体には少々厳しいほどの、冒険者が放つ熱気にも似た異様な輝き。どこか能天気にさえ見えていた冒険者の両の瞳は、憤怒と悲嘆と狂気に染まっている。

「帝国の影に怯えてる、だって?」
トウカの声にも、これまで聞いていたような明るさはもはやない。
「お前の方じゃないのか、アルフィノ……!」
がしゃり。トウカが得物に手をかける。アルフィノでさえ伝承に聞いたことがわずかにある程度の、古の戦士の秘技。当時のアルフィノには預かり知らぬことであったが、トウカはその戦士の失われた戦技をキュリアス・ゴージとともに取り戻す挑戦も進めていたのだ。

「待て、何を」
お前じゃないのか!砂の家の、まさかお前の、お前のッ……お前の手引か!答えろ!!
トウカが見せたことのない、悪鬼の如き形相であった。滂沱の涙を流し、斧を握る手には明らかに異様な力が籠もっている。この小さな教会を内側から破砕せんとするかのような渦を巻く激情が、アルフィノただ一人に向けられた。が、
「……ぐぅっ、う、ぐうううううっ……ああああああ!!」
すぐにその闘気も失せ、トウカは斧を取り落とし、人目も憚らず泣き崩れる。イリュド司祭も、マルケズ――もっとも、アルフィノは既に彼の「本名」に当たりをつけていたわけだが――も困惑するほどの悲惨なあり様だった。

「ミンフィリアさんも!ノラクシアも!助けられなかった!守りたいもの一つ救えやしないで、何が英雄だ!何が……『超える力』だ……」
トウカの叫びに、アルフィノはこの異邦人が秘めた情熱を、折れてもおかしくないはずの心に赤々と燃える炎を感じ取った。聞けばこの年でやっと海都に来たという彼を、アルフィノは心の何処かで軽んじていたのかもしれない。まだ暁の血盟に入って日も浅いトウカが、これほどまでに血盟を、ミンフィリアを、仲間たちを思って涙し、激している。この男の灯火は、消えるどころかすべてを焼き払わんとする勢いを持って燃え上がっているのだ。

「それほどの気概があれば、話は早いな。我々の手で、『暁』を蘇らせるんだ」
「アルフィノ、お前……」
「生き残った者は、前に進む義務があるんだ。私と君と、そこにいるマルケズ、いやシドだ。この3人で、蛮神ガルーダを討つ」
「ミンフィリアさんは、生きてる……助けに行かなきゃ……」
「ミンフィリアは誘拐されたのか?」
「ああ、ノラクシアが『せて』くれた。最後の最後にさ……」
「帝国の狙いは分からないが、わざわざ誘拐までしたミンフィリアをすぐに消すとは考えにくい。帝国と蛮神の両方を相手取るのは厳しいが、片方ずつならやりようもある。分かるか?」
「まずはガルーダから、ってことか」
「ああ。三都に、蛮族たちに、帝国に見せるぞ。『暁』の灯は、まだ消えてはいないと」
「そうだな……悪い、ちょっと表の空気吸ってくる」
取り落とした斧を杖に、トウカは立ち上がり、一旦教会を出た。
無理矢理に己を奮い立たせ、それでも燃え続ける危うい若者の、背中であった。

◆◆◆◆◆◆

「ノラクシアの亡骸をさ、グリダニアの仮宿に連れて帰ったんだよ」
アルフィノが思い出すのを待っていたかのように、トウカは語りだす。

「あいつは、ノラクシアは、最後まで勇敢なる暁の血盟の一員でした……」


「アルフィノが来る少し前の話だな。軽くて小さな体を抱いて、取り落としたくないから、歩いて……。あのときはずっと『何もできなかった』って思ってた。でも、今は違う」
その言い方にじわりと熱が宿ったのを、アルフィノは聞き逃さなかった。
「あいつは最後に託した。俺に、命を賭して託したんだ。託されたからには、やらなきゃいけない。だろ?」
「ああ、その意気だ。だいぶ立ち直ってきたか?」
「イシュガルドの雪で頭が冷えたか……それかアレだな。一人じゃできないことが、世の中沢山あるとわかったから、かもだ」

トウカはエンタープライズ号奪還に至るまでのイシュガルドの旅路を想起していた。時に薄情と感じることもある厳しい大地の中にも、手を差し伸べてくれる人はいたし、共に考え、共に戦ってくれる人もいた。ここからの旅路も、きっと同じだ。ガルーダ討伐も、ミンフィリア達の救出も、決して一人ではなし得ないことだ。
「異端審問官に邪魔されてた時、アルフィノも一緒に考えてくれただろ?きっとああいうことの積み重ねなんだよ。俺の灯も、お前の灯も、みんなの灯も、束ねて燃やして、そうやって照らしていけば……たいがいのことは何とかできそうじゃないか?」
「途中まで立って待っていることしかできなかった私も、か?」
アルフィノはすこしばつが悪そうな顔をした。
「そこはさ、役割ってやつだろ。俺は走り回って戦う。アルフィノはどっしり構えて道筋を立てる、ってことで」
「君にそこまでフォローされる日が来るとはな……」
「俺のことなんだと思ってるんだよ?」

飛空艇は行く。雪の国から森の都へ。わだかまりが溶けてゆく若者たちと、氷の中の記憶を取り戻しつつある男を載せて。不確かながらも見えてきた希望へと向かって、飛空艇は行く。

【今回の元ネタ】

「彼方より来たりて」だとヒカセンの心が折れているような描写でしたが、プレイ中の自分自身がどうだったかというと灯が消えるどころか爆発する勢いでした。ので、ちょっとそのあたりの描写を変えてあります。ご了承ください。

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