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【七転八倒エオルゼア】#4


※このシリーズについて

ゲーム『ファイナルファンタジー14』における自機『Touka Watauchi』及びそのリテイナーキャラ『Mimino Mino』を主役とする不連続不定期短編企画です。ゲーム本編のメインクエストやサブクエスト、F.A.T.E.などの内容をもとにしたものが含まれます。また、各エピソードごとの時系列は前後する場合があります。

登場人物紹介

Touka Watauchi(綿打 灯火/トウカ):主人公。海を渡ってリムサにやってきたアウラ男性。リムサ渡航時点で20歳。
Mimino Mino(ミミノ・ミノ/ミミノさん):Toukaが雇ったリテイナー。リムサにすっかり慣れたララフェル女性。年齢非公開。

【それじゃあ、今から……】

リムサ・ロミンサ下層、東国際街商通り。
この通りのほぼ中央に、リテイナー雇用窓口が置かれている。
冒険者の荷物やギルを管理し、更にはマーケットボードでの売買手続きも代行してくれる頼れる相棒、と思っている冒険者もいれば、小間使い程度に見なし、ろくに十分な装備も預けないまま死地に送り込む冒険者もいる。
さて、この男の場合はどうか。ルガディンに負けず劣らずの長身をかがめ、リテイナー登録台帳を覗き込むこの男、トウカは……。

「ご希望の条件などはございますか?」
担当者のフリドウィブの声に、トウカはハッと顔を上げた。
「条件、っていうと……」
「種族、年齢、性別といった基礎的なものや、前職の有無などを聞かれる方が多いですね」
「うーん……まず最初にアウラ族以外、ってなるとどのくらい減ります?」
同族同士で雇った雇われたという関係を作ってしまうのはあまり上手くない。トウカは直感的に条件を絞った、だが……

「12件ですね、全体の0.1%以下になります」
「……やっぱりそうですよね」
三都におけるアウラの率は少ない。トウカが籍を置く冒険者互助団体CWLSの先輩にはアウラ・ゼラの戦士がいるが、彼のようなケースは希少とすらいえるだろう。最も、絶えず類稀なる強者との闘争を焦がれ求めるその性格の方も稀有ではないかとトウカは考えている。

「じゃあ、リムサでの居住歴で絞ったりってできます?」
「ええ、もちろんできますが……ちなみに理由を聞いても?」
「知り合いも親戚もいないままこっちに来まして。できれば自分以上にリムサに慣れた人、5年位はリムサに住んでる人だといいな、と」
リムサには、いや三都にはトウカの縁故者がいない。せっかくリテイナーを雇うのなら自分以上にリムサを知る人が適任だろう。
「そちらの条件ですと……」フリドウィブは慣れた手付きで台帳をめくる。

「リムサ生まれの方と、リムサ以外を出身とする方で分けることもできますが」
「それだ!」思わず身を乗り出してトウカは返す。
「あー……すみません。ウルダハ出身で、リムサに5年以上住んでいる方で絞り込めますか?」
「その条件でしたら、こちらのページの皆様が対象になりますね」
フリドウィブは既に絞り込みを終え、台帳から一束を外してくれた。
種族、性別、前職の有無。各グランドカンパニーとの関係の有無や、守護神といった情報まで載っている。
トウカは1ページずつ、ゆっくり確認し……あるページで手を止めた。
「この、ミミノ・ミノさんという方と連絡は取れますか?」

◆◆◆◆◆◆

10分後、ミズンマストの一室。
トウカは、呼び鈴の前に神妙な面持ちで立っていた。
すでにトウカとミミノの「紐付け」は完了しており、トウカがどこの呼び鈴を鳴らしてもミミノがテレポされてくるのだという。
「それじゃあ……よろしくお願いしますっ!」
チリン、チリン。
緊張した面持ちで、トウカは呼び鈴の柄を掴み、軽く鳴らす。
果たして鳴り終わったか終わらないかのうちに、彼女はやってきた。

薄いブルーの髪に、これも薄いピンクのメッシュ。耳にはピアス。
トウカとは違い、明らかに要領の良さそうなララフェル・デューンフォークの女性だった。
「トウカ・ワタウチ様ですね?リテイナーのミミノ・ミノと申します。以後よろしくお願いいたします」
ミミノの一礼を受け、トウカも返す。
「黒渦団所属の斧術士、トウカ・ワタウチです。こちらこそよろしくお願いします」
「早速ですが、本日はどうなさいますか?」
「それじゃまず、ギルを預かってほしくて」
トウカは懐からギルの入った革袋をいくつか取り出す。
「12,15……これで20万ギルになるはずです」
「承知しました。引き出す際はお申し付けください」
ミミノは慣れた手付きで革袋をしまっていく。20万ギル。トウカもいまだに慣れぬほどの大金であるが、特に驚くこともなく扱っている。プロだ。
「それと、この辺りの食材と素材をいくつか」
トウカは保管してあった素材を取り出そうとして、手を止めた。

「……その前に!」
「……!はい」
ミミノもびっくりしたのか、やや驚いた様子で雇い主を見る。
「いくつか決めておきたいことがあって」
「リテイナー労働規定に違反しない内容であれば、構いませんが」
「まず一つ。俺は相場感とかに全く自信がないので、マーケットボードに出品する際の品物・個数・値段はミミノさんのほうでいくら意見してもらっても構いません」
「かしこまりました」
ミミノの経歴は管理台帳で読んである。実家はウルダハで長く続く商家、市場の傾向を読むことに関しては確実にトウカより優れているはずだ。
「それと……俺のことは様付けしなくていいですし、敬語もなしで構いません。あんまり重苦しい関係にしたくないし、それと」
一瞬言葉を切ったトウカを、ミミノは思わず軽く覗き込んだ。冒険者には往々にして良からぬことを考えてリテイナーを雇うものもいるというが、この男は違う。真面目に考え抜いて自分を雇い、会ったばかりの自分に慣れぬ手付きで20万ギルを預けた。到底器用とはほど遠い、とかく律儀な男だと思う。

「俺は一応雇い主だけど、こっちに来てからまだ一月も経ってない。いろいろミミノさんのほうが、先輩だと思うんです。だから、気兼ねなく話せたほうが多分お互いに楽かと……」
言葉を慎重に選ぶこのアウラ・レンの青年の姿を、自分の雇い主としてミミノはどこか好ましく感じた。ここまで信頼してくれるというのなら、応えてやりたい。異国の地に一人やってきた、どこか心細さもあったろうこの青年の旅路を、リテイナーとしてサポートしたい。
「……よっし!」
ぴたぴた、とミミノは己の頬を軽く叩く。
「わかったわ、普通にこういう感じで話していいのね?」
「そのほうが助かります」
融通の利く人でよかった、と安堵しながらトウカは頭を下げる。しかし、ミミノの次の言葉にトウカは腰を抜かすのであった。
「それじゃあ、今から「トウカちゃん」って呼ばせてもらうわ。改めてよろしくね、トウカちゃん!」
「は、はい……はい!?」
「大船に乗ったつもりで、あたしに任せてちょうだい!」
ドンと胸を張るミミノの頼もしさに自身の判断が正しかったことを確信しつつ、親にさえ呼ばれたことのない「ちゃん」付けに困惑するトウカであった。

◆◆◆◆◆◆

それから、半月。
今日も、ミズンマストの一室ではトウカとミミノが出品の準備をしている。
「トウカちゃん、青系のカララントとかあんまり使わないでしょ?」
「そうですね、なのでこれ一旦預かっててもらっていいですか?」
「はーい、一旦保管ね」
ミミノの鞄にカララント瓶が収まっていく。取り出しと重心に配慮した完璧な配置をトウカはじっと眺めていた。
「……ところでなんですけどね」
「うん?」
「どうして「ちゃん」付けだって思ったんですか?」
ミミノはまじまじとトウカの顔を覗き込む。タイタン討伐に出て数日戻らず、イシュガルドから一旦戻ってきた時のひどい有り様からすれば、すっかり元気になってきたと言えるだろう。
(((あの時はボロボロの野良ウルフみたいな顔だったけど、だいぶ元に戻ってきたわね……よかった)))
「うーん……内緒!」
「ええっ!?」
「直感よ、直感!なんかこう、くん付けでもさん付けでも距離が遠いなーと思ってさ」
「そういうことなんです?」
「そういうもんよ!ほら、変なこと考えてないで手を動かす!他になにか売れそうなものはある?」
「さっきまとめて作ったHQラバーなら、ありますけど」
「いいじゃない!思ったよりこういうの売れるのよ〜」

【今回の元ネタ】


※……というには薄すぎるけど一応これが元ということで

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