The vacant box(仮題)

振動を感知して反射的に睡眠導入剤を投与したせいか、目覚めは悪くない。そう思って目を開けたのだが、いささか眩しい。
あぅぅ。ぁああぁ。
わたしの声だ。情けない。ナチュラスピークを介さない肉声など、わたし自身 何年ぶりか。
スクリーンを通さない外の世界。フィルタを通さない空気。
わたしは、箱から追い出されたのか。
人が手にした永遠、約束された幸福から、投げ出されたというのか。
ぅあぅっ。あぉぉ。
しかし無様な声しかでない。変だ。そこでわたしは気づいた。
口に、何か植物を編み上げた太いひも状のものをあてがわれている。
「ずいぶん呑気だな、あんた」
右から飛んできた声。その手には、取っ手のついた……あれ、なんだっけ。
「包丁だよ。見たことないのか」
首にその、「包丁」とかいうものが近づく。

わたしは脅されている、らしかった。
【1日目 昼 へ続く】

#逆噴射プラクティス #逆噴射小説大賞

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?