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まさかの人生

(結婚は突然に…出会い)

 
 
 私と旦那のジェイは、出会って6か月目で結婚をした。こんなに長く一緒にいるとは、思ってもみなかった。独身時代は、結婚の’け’の字も、考えたこともなけりゃ、夢に見たこともない人間。まさかの結婚をするとは…。
 
 36歳の時、今の旦那と会った。同じビルの違う会社で働いていた人で、当時スモーカー。私も同じくスモーカー。初めて彼が目に留まったのは、駐車場の端っこにある、風が吹きっさらしの喫煙場所だ。彼はいつも、同僚の男性と、その場所に来ていた。同じビルで働いている者同士、“ハロー”の一言は交わしていたけれど、特にお喋りをすることはない。ただ、そのころ一緒に暮らしていた男とは全く違う印象で、(何たらほのぼのとしていた人だ)と言うのが第一印象。
 そんなこんなしている内に、私は一緒に暮らしていた男と別れ、一人暮らしをはじめ、(ちょっとの間、男はいらないわぁ)と言う思いがあり、3か月ほど女友達と、おもしろ、おかしく、美味しい食事を食べに行ったり、ディスコ(今で言うクラブ)行ったり、週末フェリーに乗って、1時間ほど離れた島に行って過ごしたりと、一人の時間、女だけの時間を楽しんだ。3か月も経つと、やる事もなくなってきて、(ここで一丁誰かエスコートしてくれる男を見つけてみるかぁ)と思うようになる。その時、頭に浮かんだのが、喫煙場所で見かける、あの男。
 太っているわけではないが、少しずんぐりむっくりとしている体型で、ストレートの金髪にグリーンがかったヘイゼルの目。口数が少なく、ほのぼのとして、優しそうな印象。(要は私とは、真逆の印象なのだ。)容姿をチェックしながら、朝は、元気よく「グッド モーニング」。微笑むことも忘れずに。時間をかけて要チェックしていると、ある時からパッタリと見かけなくなった。リフト(エレベーターをこう呼びます)の中、駐車場の喫煙所でも。もしかして、会社辞めちゃった?これは状況的に、ヤバイ。せっかく誘う気になっていたのに、対象の人がいなくなってしまうなんて。しかし、信心深いわけではないが、その時、神が私の味方をしてくれた。

 駐車場の喫煙場所に一人行った時、気になる彼といつもいる男性が、一人でタバコを吸っているではないか。これは逃してはいけない、足早になる。ニコニコとほほ笑んで、
「ハロー。お元気?」
「ハーイ。元気、元気。良い天気だね。」
「今日は、一人なんですね。あっ、私はタン。ちょっと聞きたい事があるんだけど。」きっと彼は、少し勘違いしただろう。(えっ、僕の事…)なんて。
「僕は、アール。なに?」
「いつも一緒にいる方、お仕事辞めたの?」
「アー、ジェイの事?ンン、辞めてないよ。ホリデー中。」
「彼って、結婚してるの?」単刀直入ではあるが、重要な点である。結婚していたら、パス。
「離婚したばかりだよ。グッド タイミングだね。」(お前が言うかぁ?!楽しんでる?)
「あっ、は~~。で、いつホリデーから戻るの?」
「再来週の月曜日。会社の電話番号、教えてあげるよ。」と、私はおもむろに、ペンと小さい紙を渡す。
彼の名前、会社の代表番号が書かれて、私の手元に帰ってきた。
「僕もう行かなきゃいけないから。またね・・・」
「あっ、ジェイには、この事絶対秘密でお願いしますね。」
「分かってるよ。任せておいて。」彼の後ろ姿が浮かれているのが分かる。
 
 私は、二週間弱ただただ待つことになり、やっとその月曜日が来た。私の休みの日であるにもかかわらず、朝ちゃんと8時に起き、9時を待った。
 そして9時ちょうど、出陣のの時は来た。貰っていたジェイの会社の代表番号に電話を掛ける。レセプショニストが出る。
「すみませんが、ジェイさんお願いします。」
「少々お待ちくださいね。」・・・・・
「ハーイ、ジェイです。」
「おはようございます。私、タンと言います。同じビルで働いている者なんですが、会ってお話しできないでしょうか?」
「何かの間違いじゃないの…?」
「いや、間違えていません。あなた、ホンダのバイクに乗って通勤してるでしょ。で、タバコ吸いますよねぇ。」きっと、ジェイは気持ち悪がっていただろう。(なんだこの女は…?)
「そうだけど。」
「間違っていませんよ。会える時間ありますか?」
と、二人で会える日時を色々話したのだが、なかなか都合の良い日がない。彼は、9-5時で働いているオフィスワーカー。私は、シフトワーカー。なかなか難しいものがある。そんな時彼が・・・
「今日休みなんでしょ?だったら、今日のランチは?」と言ってくれた。
「えっ、今日のランチ?」まさかこんな展開になるなんて、考えもしていなかった。
「1時にどう?どこか知ってる所ある?」
「クイーンズ・アーケイドの二階のカフェは?」
「じゃ、1時にそこで。じゃあとで。」
「はい、じゃあとで。」電話は切れた。何年かぶりに武者震いが来て、高揚感と達成感が感じられた。
 それからが、ドタバタだ。シャワーに入り、髪を洗い、コーヒーを飲み、タバコを吸い、軽くトーストを食べ、ワードローブをのぞき服を決め、お化粧をし、髪を整え、またコーヒーを飲みながら煙草を吸って、時間を潰した。色々やってみたところで、まったく落ち着かない。私の気持ちがどんなに落ち着かないと言っても、時間は過ぎて行き、家を出る時間になる。と、フラットメートが起きて来て、休みなのに小綺麗にして出ていく私を見て、
「どうしたの?どこに行くの?」
「例の気になる人と連絡取れて、ランチ一緒に食べるんだわぁ。」
キャーーーと言う悲鳴。飛び跳ねている。本人の私より、興奮するフラットメート。何たらかわいいのである。
「頑張って、行って来てーー!!タン、がんばってーー!!」
フラットメートの応援を背に家を後にした。
 
 約束のカフェに最初に着いたのは、私。10分程度待っただろうか、エスカレーターを上がってきたジェイが見える。さすがに私がニコニコして立っているので、間違えることなく、私の所へやってきた。
「顔見て、見覚えのある人だなぁって思ったよ。」
「来ていただいて、ありがとうございます。間違えない出来てもらって、安心しました。」
「じゃ、入ろうか。」
 二人席にに通される。あんな風に挨拶しておいて、頭の中はぐちゃぐちゃである。多分口から出まかせではないが、何も考えることなく会話をしていたのだろう。‘今日のスープ・トースト付き’を頼む。完全に考えてない。と言うより、瞬時に一番無難で、多分食べていても、失敗の少ないであろう物を選んで頼んだ。私の前に座っているジェイをちゃんと見据えているのだが、背景はボヤ~ンとして、挙句の果てに回っている。とにかく彼に集中することに徹した。このような状態だったので、食事が運べるまでしていたはずの会話は、今となってはほとんど覚えていない。唯一覚えているのが・・・
「君、オリジナルはどこから来たの?聞いて良い?」
「考えてみて?」
「そういうの苦手なんだなぁ…。いつも当たらないって感じ。」
「じゃ、二者択一ね。中国人か日本人。」
んーーーーーーーー、少々よりやや長く考えて
「中国人。」(アチャー、しっかり外してきた。見事である。)
「日本人よ。50%の確率だったのに…惜しいわぁ。」(いや、そうでもないけど…)
ランチが運ばれてきて食べ始めるも、味なんて分からない、食べた物がちゃんと胃に入ったかも分からない。まぁ、とにかくヒッサビッサの自分からの誘いのランチデート、緊張しまくり。緊張し、全く何を話したかも思い出せず、ランチの味も覚えておらずという1時間を無事終え頃には、何がどうなったのか、電話番号の交換をしていた。この日から、都合が合えば、ランチを一緒に食べ、会えない日には、夜な夜な長電話で話すという付き合いが始まった。
 
 付き合い始めて10日ほど経った時、初めて夜のデートをすることになった。離婚が成立したばかりのジェイは、遊ぶ所や美味しいレストランなど全く知らず、私が全てのプランを立てた。ジェイは、私の指示に従って、自動車を転がす係。
 夕食で連れて行ったのは、和食レストラン。その当時流行っていた所。オーダーは、すべて私任せ。お刺身、お寿司、牛肉のたたき、エビフライ、デザートに抹茶アイス。どれもこれもベタなチョイスではあるが、和食初めての彼には、なかなかのチャレンジである。牛肉のたたきは良いにしても、ほかの物は海鮮である。特に生もの、お刺身とお寿司。フィッシュ・アンド・チップスを食べては来ているが、まさか初めての夜のデートで、生魚を食べさせられるとは、思ってもいなかったであろう。とにかく、私を信じてと言い張り、お刺身を口にする…
「美味しい。臭くない。」
「そう、新鮮なお魚は、臭くないの。」
 これで和食のハードルは越えられた。続くお寿司は楽勝。エビフライに至っては、火も通っていることもあって、出てくるとすぐに口にできた。抹茶アイスも食べ、お食事は終わる。このお会計は、50/50でお支払い。
 続いて行ったのが、またしても私の好み。・・・・カジノ。当時カジノへは、3か月に1度ぐらいの割合で、遊びに行っていた。ブラックジャックのみ。元手は$200。勝ったお金は、違うポケットに入れ、賭けには使わないで楽しんでいたので、元手の$200が無くなったら、すかさずゲーム終了。それでも、何時間も楽しめた。ジェイにとっては、またまた初めての所。私はいつも通り、ブラックジャックのテーブルへ。隣の席が空いていたにも拘らず、彼は座らず、ずーっと私の後ろに立ち、ゲーム観戦。状況としては、全くつまらない。これはデートではない。場所選びを間違えた。早々と席を立ってしまった、私。ちょっとしたラウンジで、二人してコーヒーを飲む。時間も11時近く。さすがにご帰宅の時間。
 橋を越えて、私のフラットまで、自動車で送ってもらった。(どうぞお茶でも…)と思ったが、カジノを出る前に飲んでいるし、まさかその言葉で誘う事は出来ない。彼は一山超えた地区に住んでいたので、帰るとなると小一時間はゆうに掛かる。街灯も少ないクネクネの道を帰らなければならない。思い切って・・・
「今夜、泊まる?」と聞いてみた。
「いろいろ準備してきてないから、今夜は帰るわぁ。」(あっ、私も準備ないわ。賢い選択だ…)
おやすみのキスをし、私はフラットへ。彼は、一山向こうの家へ帰って行った。

 30代半ばの二人、特に男ジェイは、とても真面目なお堅い人。まぁ、不埒で、若い時から、眉間に皺を寄せないで、楽しくハッピーに暮らしたい私とは、全く逆。ただ、これが行く行く良いコンビネーションになっていくなんて、思ってもいなかった。ちなみに、初めての夜のデートで、彼の食べ物のチョイスは、ぐっと広がったことは言うまでもない。

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