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小説 『路地裏王子』

開演前        


今日も疲れた。
仕事柄、一日中幸せ仮面を被り
楽しそうに笑ってみせる。

大して嬉しくないのに嬉しいふり。
悲しくないのに同情ぶり。
もうたくさんだよね。

人影もまばらになった夜更けに。
隠れバイトへ向かう。

温泉街にある路地裏の小さなスナックだ。

小さい頃から家庭の温かさが足りなかったからなのか、とても優しいママに憧れて即決したお店。
マスターと仲良く2人で経営している。

カランカラン。
ドアを開くと直ぐにママを見つけた。
「あ〜待ってた♡♡。今日からよろしくね」
「よろしくお願いします」

定型文のような会話の後で。

「こちら、ボーイの蓮。なんでも聞くといいわよ」
と、カウンターにはどこか悲しげな眼差しの青年。
社交辞令も言えない模様。
ほんの少しのお辞儀をみせた。

まぁ読み通り。
見た目通り。
この年代は、クール🟰かっこよ。
みたいな方程式で仕上がっている。

私はあえて、興味ないふり。
これも、彼に言わせれば計算通りの態度だよね。


堕ちるか堕とすか。
まさに世の中は駆け引きだらけ。
1つ間違えると、とんでもない地獄。
間違えなければ、まさにHARLEMといったところ。
恋愛に無難などある筈がない。


決まりきった舞台から、幕が上がる。

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