見出し画像

ヒースロー空港の鳥

これは縁起のいい話。

私が選んだ専門学校は2年生だったけど、毎年海外に研修という名の旅行に行ける機会があった。

美術の2年生の専門学校で、学校として海外に連れて行ってくれるところは少なかったからこの学校を選んだっていうのが正直なところだけど、そのおかげで私は美しいヨーロッパの魅力にどっぷりつかった。

私が初めて行ったヨーロッパはロンドン。

画像2

ヨーロッパの国々を廻った今だから思うのは、ロンドンはヨーロッパの国々の中でも何となく異質な雰囲気を持つイメージがある。

イタリアとかフランスってちょっととぼけたようなふわっとした陽気な空気感があるし、ドイツは硬い感じもあるんだけどでも華やかで豪華絢爛な装飾と色彩が街にあふれてる。

オーストリアのウィーンに至っては、町中にこれでもかってぐらいパステルカラーのかわいらしい色をちりばめた教会がいたるところにあってそれだけで音楽が聞こえてきそうだった。

それに比べてロンドンは良くも悪くも近代的で、ゴシック調の建物であっても色彩がすごく重工でまじめな感じ。きちっとしてて美しいんだけどちょっと無機質な雰囲気を感じていた。

もちろんちょっと都会を出れば、生活感を感じる住宅地もあるし、"英国で最も美しい村"と呼ばれるコッツウォルズは本当にかわいくて心底ときめいた。

画像1

4泊5日ぐらいだったけど、ハリーポッターの食堂として撮影された教会とか、大英博物館とか、よくわからないのに友達に誘われるがままクイーンの曲を題材にしたミュージカルを見たりとか、存分に初めてのヨーロッパを楽しんだ。

まずいと言われていたフィッシュアンドチップスも思ったより良くておいしかったし、久しぶりにしゃべる英語も褒められてなかなか気分はよかった。

名残惜しさもあったけど、悔いはないなぁというぐらいお腹いっぱいだったし、添乗員付きだったから何のトラブルもなく、言ってしまえばちょっと平べったい旅だった。

画像3

そして帰国の途に就くために、ヒースロー空港で荷物を預け空が抜けている場所で休憩をしていた時に事件はおきた。

頭にポツンと違和感を感じる。ロンドンは雨が多いって言うし、とうとう降ってきちゃったかな。飛行機無事に飛ぶといいな。

そう思って、空を見上げる。鳥が何羽も気持ちよさそうに空を流れていった。

ついでにポツリと感じた部分を指でなぞる。

あー…雨じゃない。やられた。

幸い小さなすずめみたいな鳥だったおかげで大惨事にはならなかったけど、出国間際に運(フン)をロンドンの鳥からプレゼントされてしまった。

もちろん友達からは

これで飛行機は無事に飛ぶ!

とのんきに笑われた。

出発までそう時間はないし、荷物も預けてしまった。簡単にトイレでささっとふいて、飛行機に搭乗してから機内のトイレで軽く洗った。

なんてったって、ロンドンから日本までは直行便といえど12時間ぐらいかかる。さすがにそのまま運をつけておくわけにいかなかった。

このプレゼントのおかげで、初めてのヨーロッパの旅は私の強烈な思い出になりそれから数年間とりつかれたようにヨーロッパの国ばかり旅した。

そして良くも悪くも、私の旅はそこから平べったい旅ではなくだいたいトラブルの多い珍旅となった。

だけど、その分、すべての旅をよーく覚えている。

初めてひとり旅をしたバリ島では、なぜか私だけ猿に追いかけられた。

パリでは道に迷って、妖艶なお姉さんがいるちょっとグレーな路地に入って半べそをかいた。

イタリアではスーツケースが歩いてる途中で壊れて、鍵が閉まらなくなって天を仰いだし、クロアチアではホテルから空港に行こうとした瞬間にゲイがパレードをはじめて交通機関が動かなくなった。

画像4

ちょっと怖い経験も、焦る経験も、悲しい経験も、イラっとした経験も、いろんな感情を旅の中で経験した。

そのおかげでちょっとしたトラブルは乗り越えられるっていう自信がついたし、なんだかんだ私はどこでも生きていけるって腹もくくった。

きっとあの時のロンドンの鳥は、こうして旅の中でいろいろな経験を積むための「運」をプレゼントしてくれたんだろう。

たまにこうやって思い出しては、もう何年も前に行ったロンドンの景色を思い出す。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?