テクノロジー思考[抜書き]

テクノロジーとイノベーションによって、個人の力が拡張されるエンパワーメントの時代。ライドシェアというイノベーションによって、それまで職探しに苦労していたような人々が生活の糧を手にする。それまで銀行口座すら持たなかった十数億の人々が、電子ウォレットによりマネーを自在に使う。極貧の農民がAIの力により収穫高を増やし、子供を学校に通わせることが出来るようになった。無医村ではアプリを通じて医師にかかることが出来る。スマートフォンで送信された処方箋を持ってドラッグストアへ行き薬をもらう。テクノロジーがアジアやアフリカの人々の生活を変えている。

著者はテクノロジーの本質を理解して社会へインパクトを与えるための思考方法を、テクノロジー思考と呼ぶ。私の解釈では、テクノロジー思考とは、テクノロジーがどう社会に影響を与えるのかに注目した考え方になる。

インターネットは成長産業ではない。その理由は、スマートフォン(iPhone)が登場したのが2007年で、10年間成長し、2017年にはスマートフォンの世界出荷台数の伸びは止まったから。また、インターネット利用者人口も一桁成長となった。これを受けて各社が、ウェアラブル端末に活路を求めた。例えば、服や腕時計(アップルウォッチ)、メガネ(スマートグラス)など。しかし、産業規模はこれまでのデバイス革命に比べると、大きなインパクトはない。実際、グーグルはスマートグラスの製造販売をたった二年でやめて事業閉鎖した。すなわち、もはやインターネットは成熟産業である。では、スタートアップや莫大な投資資金はどこへ向かっているのかというと、「インターネットの外」だと言う。「インターネットの外」の産業とは、デジタルで完結するインターネット産業と違い、タフでシリアスであり、収穫逓増期まで時間がかかるビジネス。具体例として、WeWork(オフィス)、Uber(モビリティ)、Airbnb(宿泊)を指す。「インターネットの外」の産業は、様々なステークホルダーとの調整能力が必要で、その産業の構造を深く理解していなければならない。そして、その「インターネットの外」で最も熱いのは、モビリティ(自動運転やシェアリング、コネクティビティ等)とヘルスケア(5GとVRによる遠隔医療、電子カルテのブロックチェーン化、診断のAI活用、医療デバイスのIoT化等)。

石器、蒸気機関、電力のような技術革命とは比べ物にならない人口とGDPの成長が「コンピュータ」によって実現している。その結果、「インターネットの中」では、マスメディア産業はITプラットフォーマに斜陽産業にさせられ、小売はEコマースにより、音楽・映像産業はオンライン配信企業によって、規模縮小や再編を強いられた。さらに、「インターネットの外」では、タクシーはライドシェアにより代替され、銀行や証券業はフィンテックにより破壊的革新がなされている。製造業はロボティクスと自動化により雇用が激減し、不動産業や宿泊業や交通産業はシェアリングエコノミーにより経営刷新を迫られている。このような革新の世紀には、いかなる産業においてもイノベーションに取り組まなければならない。

一方で、失敗のコストの極小化が起きている。その背景には、スタートアップ自体のコストの劇的な低下がある。サーバ代や開発期間が劇的に小さくなっている。90年代はそれらに億円単位の金がかかったが、今やクラウドサーバや経験の浅いエンジニアでもアプリが作れるソフトウェアツールがある(Railsのようなフレームワークを指していると思われる)。このように、イノベーションの要請が高まりつつあり、さらに失敗のコストが安くなったことでスタートアップは増える。

イノベーションに適した組織体はスタートアップで、イノベーションに適さない組織体は大企業である。なぜなら、大企業がイノベーションに取り組むということは既存の持ち物を捨てる、または大きく変えるということであり、大きなコストがかかるから。したがって、大企業はスタートアップとの連携を取り、ビジネスをしている。

連携を取ることでカニバライゼーションが起きないなら、自ら新規事業を起こしても起きないのではないか、と思ってしまうがどうなのか。
「ブロックチェーンが次に来るだろうからそれに賭けてみよう」ではない。「ブロックチェーンを次世代の標準プロトコルにすべく自らの手で創り上げよう」であるという言葉から著者の「未来は自分で創るものだ」というメッセージはよく伝わった。熱くなった。

蛯原健 「テクノロジー思考」 ダイヤモンド社.2019

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