政治と人格

 そういえば大学時代、とある知人に自分の作品を貶められてひどく傷ついたことがあったっけ。
 出来の良さ悪さがどうであれ暴言を吐かれる筋合いはこちらにはないのでいつか暗い夜道で刺されればいいのにと思っている。

 その後その話を聞いてくれた教授が「あぁ、あの子は出る杭と言うか、プライドが高いというか…。そういう人はいつかへし折られるからね…。」と言ってくれて、あの人の攻撃性を認識していたのはわたしだけじゃないんだとその件は心が収まったのでよかったが。


 ただ、「あの人の攻撃性を認識していたのはわたしだけじゃない」という自分の中の理解を掘り下げると、それはつまりあの人の無意識な攻撃に傷つけられた人もわたしの他に沢山いるということなんだろうか。
 だとすると、「わたしの傷つき×これまで関わった人数」だけの、膨大な恨みや憎しみ、ある種の業のようなものをあの人は抱えているんだろうか…。
 あの人本当に夜道で刺されやしないだろうか。



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 話題は変わるが、わたしは政治家に人間性を見出すのが得意でない。

 パンケーキが好きとか、高校卒業後自力で大学に入った苦労人とか、いかにも親しみが持てるようなキャラ付けをされたりするけれど、
例えばもしその人がパンケーキ好きのレイシストだったらどうするの。

 パンケーキと政治は関係ない。食べてるのはパンケーキでなくフォアグラでも霞なんでもいいので、人格も趣味嗜好もなんでもいいので、まともに政をしてくれればそれでいいです。

 その人の生い立ちや価値観が政策にも影響を及ぼすはずなので、完全に切り離すことはできないものだとは思うけれど。

 とはいえ、美術学校を志すほどの絵の腕前の持ち主だったかつての政治家が民族浄化や世界大戦を引き起こして20世紀最悪の独裁者となった例も知っているので、わたし自身は絵が好きだけど、絵が上手いという人間性だけで支持することは、なんかいやだ。


 今回の安倍さんの件でも、奥さんからすれば遠くへ出張に出かけた旦那さんが無言の帰宅なんて辛かろう、と言われれば確かにそうなんだけど、そういう一般人らしい心情を政治家に重ね合わせることがわたしにはどうにも難しい。
 昭恵さん自身は政治家ではないが。



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 政治って、全員にいい顔するのは本当に難しい、どころじゃなく不可能だと思う。


 こちらの自分の考えに近い政党診断やってみたけれど回答がとても難しかった。

 そりゃもちろん、消費税なんてない方が嬉しいし、増税してほしくないし、社会保障は手厚い方がいいし、自分の国が他国に侵攻されるなんて嫌だし、経済はもっと活性化してほしいし、電力不足も解消してほしいし、…。

 でも、もし消費税が撤廃もしくは低減された時、ただでさえ足りない税収はどうやって補うの?税金で保たれていた社会保障はどうなるの?累進課税で高所得層に負担してもらう?そうしたら日本の優秀な知識人が外国にいってしまったりしないの?
 電力不足を解消するために原子力発電所動かすの?また3.11みたいな大災害が起こる可能性だってあるのに?

 とまぁこんな具合に、何か1つ改善しようとすると他の何かにしわ寄せがいく。しわ寄せはいかないにしても、ある問題に注力している間ほかの問題は放置されがちになる。

 だから、政治を考える時は「何をしてほしいか」ではなく「何”から”してほしいか」を考えていった方が自分の考えと近い人を見つけやすい気がする。


 あれを押すとこっちが出てくる。全員にとって良いものを提供するのは難しい。そのくせ全員の生活にのしかかってくる。
 となると、政治はその存在自体が救われる人々の影で虐げられる人々を大量に生み出す性質を持つものなんじゃないだろうかと思う。

 大学時代わたしに暴言を吐いたあの人の比じゃないほどの恨みや憎しみを生み出してしまうのかもしれない。
 その意味で、政治家とはそもそもひどく業の深い職業なんじゃないだろうか。


 全員の生活にのしかかってくる(=知名度が高い)のは、例えば国民的アイドルとかもそうだけど、アイドルが歌って踊ってトークを頑張ることで誰かを不幸にすることは原則ない。
 そのアイドルが個人的に嫌いな人は、その人の活躍を恨めしく思うかもしれないけれど、それはあくまで一個人の感情だから。

 一方で政治は、誰かのためにしたことによって他の誰かが不幸になるという性質がそもそもあるように思う。


 その業はもはや人間が背負える大きさではない。
 蟲師でギンコが「人間に山のヌシは荷が重すぎる」といったことをどっかで言ってた気がするけれど、政治家が根源的に背負う業も人間には重すぎるんじゃないだろうか。

 そんな業の深い仕事は普通の人には選べないし、どこかしら麻痺させないと続けられないように思う。


 もはや人間の業ではない。もはや人間の仕事ではない。

 だからわたしは政治家に人間性を見いだせない、普通の人間として見られないのかもしれない。

 

ここまで読んでくれたあなたがだいすき!