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鴨川


京都の街の中心部を流れる鴨川は、

有名なデートスポットである。


カップルが、

四条大橋から三条大橋までの川辺を、

見事なまでの等間隔で座っている。


このルールがいつごろできたかは

定かではないが。


20代のころの私は、

仕事帰りに三条大橋を渡るとき、

自分も彼氏ができたら座って

話がしたいとその光景を眺めていた。


その後、親しい友人や何人かの男性と

座った。


おだやかな川波を見ながら

話をすると、普段は照れて言えない

言葉も口からこぼれ出てくるので

あった。



水位10センチほどの浅い川だが、

時折魚の尾ひれが水面を弾く音や、

誰かが投げた小石の音が聞こえてくる。


自然に身を委ねていると相手と会話を

していないことに気がつく。


ただ傍にいる。

この間がとても心地よい。


人とのコミュニケーションは、

本当は特別な言葉など

必要ないのかもしれない。



「そろそろ帰ろうか」


互いに声を掛けあい、

家路へと向かう。


またあるときは、苦手な男性と

座ったこともあった。



断りきれずしぶしぶ約束をしたので、

初めから心の中は荒波が立っていた。



だか二人で川波を眺め、

おだやかな時間を過ごしているうちに、

相手への感情が変化した。


「何度連絡しても、断られてばかりで

 自分のどこが悪かったのかを

 会って聞きたかった」


男性は言った。


なんて失礼な態度を

とってきたのだろう。


男性に悪いところなどなく、

すべては自分の問題だった。

今までの言動を詫び、

正直に理由を話した。


男性は深く頷き、

その日はいい関係で別れた。


その後、連絡がくることは

一切なかった。



川のせせらぎは

人の呼吸に似ているのかもしれない。


鴨川には、

他の人との距離感を保ちながら

親しい人との間を縮める

不思議な力がある。



きっとデートスポットである

ゆえんなのだろう。



これからも鴨川が美しく保たれ、

人々の憩いの場であり続けてほしい。







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